とても暑い日だった。探偵兼護衛という職業をしているテッドは、汗臭い匂いの漂う電車に座っていた。
慣れない土地、ドバイでの移動はまさに大変の一言に尽きる。だが、それでもその移動の価値、リターンは大きすぎるほどだ。
今日は大事な日だったのだ、探偵として沢山の有名な人や権力のある者が来るパーティに参加する。それも、豪華な客船でだ。
テッドは心躍っていた。少しスピーチをするだけで、目が眩む程の報酬が貰え、ニコレットという金持ちの貴族の護衛をするだけでもっと沢山の報酬が貰えるからだ。
船乗り場の近くの駅で降りると、集合よりも三十分早いが目的地へ向かった。
綺麗なブロンドヘア、身に纏う有名なブランドのアクセサリー、いかにも貴族らしい。彼女がニコレットだろう。
「おはようございます、テッドと申します。」
テッドは印象を悪くしないために、爽やかで明るい笑顔で挨拶をした。
「あら、おはようございます。早いわね」
挨拶を返し、ニコレットは微笑む。
彼女はオランダ人だ。確かに、オランダ人特有のアクセントが混じった英語を話していたが、然程気にならない。これは彼女の努力の賜物であろう。
そういえば、メイドなどは見当たらない。家にお留守番してもらってるのだろうか。
「ニコレットさん、メイドなどは居ないのです?」
疑問はすぐに消したい性格のテッドは、なんでも質問してしまう。彼のいい所であり、悪い所でもある。
「あぁ、そうよ。メイドっていうのは、雇わない主義なの。」
ふふ、と優しい笑顔をみせながら、ゆっくりと分かりやすく質問を返してくれる。
それから少し会話を交わして、テッド達は海の方へ目を向ければ、早速、ドバイ発の豪華客船は到着していた。
余りの迫力と、見たこともないような豪華さにテッドは狼狽えた。
テッド達はそれぞれの部屋に入った。護衛ということで、部屋は隣り合わせで予約していたらしい。右の隣人はニコレットで、左の隣人にはまだ挨拶をしていない。どんな人だろうか、テッドは気になってしょうがなかったが、部屋ではキチンと荷解きをしていた。一週間程宿泊をするのだから、それ相応の荷物量があった。テッドの鞄には、服に下着、洗面用具やパソコン、通訳機など、様々な荷物がパンパンに詰められていた。
だが、部屋は広く、それを部屋で空けてもまだスペースはたくさんあり、テッドは感心していた。
7畳程の空間に、白く綺麗に整っているベッド、大人2人半ほどが入れるであろうクローゼット、それから棚のようなものと小さめの机が置いてあった。
そうこうしているうちに、荷解きが終わった。隣の部屋のドアのガチャリ、という音も聞こえたため、ニコレットも終わったのだろう。
テッドはいかにも高そうでとても分厚い木製のドアを開けて、廊下へ出た。