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第15話 二体を撃て

(弾数のカウントは任せるぞ!)

(たった10発で数え間違うわけある!?)

(数を数えるだけならまだしも、気にすることなら山ほどあるからの!)

 次々に不確定要素に意識を乱されれば、たったそれだけの数すらおぼろげになる。

 人の緊急時の処理能力など、そういう性質のものだ。

 そのうえ。

(あの反動に耐えきるには、もう少し「出る」必要がありそうじゃしの……!)

 背中から肩にかけての皮膚がピキピキと音を立てる。

 骨が、筋肉が、急速に太くなっていく。

 ……ヒューガ、いやリューガの目が変異し、瞳孔の形が変わる。

 僅かずつ爬虫類の特徴が顔を出していく。


 その肉体は、竜の特徴を宿す。

 そんな彼の変貌を受けて、ヘルブレイズもまた、血の色のオーラを纏い始める。


 鋼像機ヴァンガードが、莫大な放散魔力の中でもコントロールを乗っ取られずに戦えるのは、その出力を疑似的にパイロット個人の魔力に変換し、骨部分メインフレームに集中的に伝導する仕組みがあるからだ。

 骨となる部分は決して太くはないが、それが経絡のように全身を巡り、外部の魔力の干渉を跳ねのける。

 ヘルブレイズの特別な部分は、それがヒューガ個人に過剰に最適化されていること。

 本来は誤動作防止のためのシステムであり、それ自体が性能を担保するものではない。

 だが、ルティはヒューガの特殊な体に着目し、機体側で適応を深めることで、「誤動作防止システム」を「強化システム」へと昇華した。

 ヒューガが人間の特徴を捨てて竜へと近づくほどに、ヘルブレイズの強度・運動能力は上昇する。

 漂うオーラは、理を変えた証。

 本来の材質ではありえないほどの強度を自らのフレームに、筋肉モーターに与え、なおも暴れる力を戦化粧のように纏ったものだ。


「ノーザンファイヴ! 両災害級ディザスター周辺の退避状況は!? 巻き添えを避けられる距離を取れるよう勧告しろ!」

 一発目は威力も反動も読めていなかった。

 危険な試射だったが、そもそもこの状況ではどうしようもないことだ。

『タイプアメーバと相対していたパーティは直接の被害はなし。飛散した組織片により一名が負傷したようだが、タイプアメーバの進行状況が今の一撃で止まったために距離自体は稼ぎつつある』

「タイプビーストは!?」

『追いつかれて交戦中だ。今撃つとハンターに直撃する』

「く……」

 せいぜい野生動物程度のモンスターを倒せたら万々歳の初心者パーティが、数十メートルの巨獣と交戦している時点で最悪の状況だ。

 しかし、もろともに吹き飛ばすのは最悪中の最悪だ。

 空中位置をジュリエットたちのほうに寄せながら、タイプアメーバの方を砲撃で牽制する。それが今は最善手だ、と判断する。

「もう一発、タイプアメーバにブチかます! ルティ! 照準調整頼めるか!?」

『やってるやってるー。……よし、っと。これでいってみてー』

 高度と位置を再調整し、大質量弾投射砲ヘビーランチャー、発射。

 ただでさえ定まらない空中射撃だ。空間位置の数値をできる限り慎重に合わせて。


 ガァンッ!!


「っぐ……!!」

 再び、衝突をまともに受けたような衝撃。

 しかし、肉体を変質させたリューガは軽く息を漏らす程度で済ませる。

 即座に着弾観測。この図体だと数キロはそう遠くないとはいえ、一瞬では到達しない程度の距離ではある。

 薄く煙る瘴気の霧の向こう、死肉のような色のタイプアメーバに、今度は直撃。

「決まったか……!?」

『おそらくまだ討伐はできていない。タイプアメーバはある程度のダメージまでは断片同士で補完する。不死身ではないが、しぶとい』

「あと何発叩き込めばその『ある程度』になるんじゃ!」

『タイプアメーバはただでさえ変異が激しい区分だ。そのうえ魔力兵装を使わず討伐した例が極めて少ない。推測が難しい』

「ええいっ……タイプビーストの方はどうなっとる!」

『交戦状態だ。……一人が至近距離で交戦している。他は退避中だ』

「……まさかっ」

『ジュリエットちゃんねー。……だいぶ頑張ってるわー。この子すごいわねー』

「とっとと逃げろと伝えられんのかノーザンファイヴ! もう災害級ディザスター自体はお目見えしとるんじゃから機密もクソもねえじゃろ!」

『とっくに音声警告は出している。だがこの状態では返答も期待はできない』

(この状態ってどの状態だよ!?)

 ヒューガが悲鳴のように心の中で叫ぶが、リューガは今はヒューガに代わることはできない。

 次弾装填完了。

「次じゃ!!」


 ガァンッ!!


 タイプアメーバにまた放つ。

 そして映像確認。……手前に着弾している。

 反動で下がった分の距離を仰角で埋めきれなかったか。

『命中せずだ、ヘルブレイズ。集中しろ』

「言わんでもわかっとる!」

『そもそも、あんたたちが稼働テストにもうちょい時間くれたら、それだけ射撃補正プログラムも精度上げられたのよー。飛行型鋼像機ヴァンガードの運用データがぜんぜん足りてないのは言わなくたってわかってんでしょー』

『……検討させる』

「それよりタイプビーストはどうなんじゃ!」

 頭の中のヒューガがうるさいので、リューガが装填操作をしながら代わりに吠える。

 数秒して、ルティが「……ひゅー」と下手な口笛を吹く音が聞こえた。


『まじで逸材ー……』


「報告をせんか!!」

『タイプビースト、左足損失よー……あのサイズのモンスターだと、四つ足の一本なくすとほぼ動けないでしょー……』

「はぁ!?」

 足を一本とは。

 怪獣サイズの災害級ディザスターを相手に。

(いくらなんでも無茶過ぎるだろ!?)

(じゃが、あのジュリならやれるかもしれんな……)

 呆気にとられるヒューガをよそに、さらに引き金を引くリューガ。


 ガァンッ!!


『至近弾だ。ダメージ軽微。直撃を狙え』

「狙っとるわ! くそっ、ビーストの方に一旦回って……」

(リューガ! 一度!!)

「!?」

(アメーバが撃ってくる!! あのタイプは魔力弾攻撃するぞ!!)

 ヒューガの警告に反応し、リューガは翼の羽ばたきをいったん切って、ヘルブレイズを300メートルほど

 直後、ヘルブレイズの残した赤いオーラの残像を、巨大な魔力弾が貫いていった。

『ヘルブレイズ。タイプアメーバが上空へ魔力攻撃した。回避できているか』

「……意味ねえ報告はいらんわい」

 機動力に欠ける翼と重い大質量弾投射砲ヘビーランチャー。急に回避起動するのは無理だ。

 魔力反応から推測し、あえて重力に任せて落下、という選択が一番確実と判断したヒューガの判断力に助けられた。

『タイプアメーバは健在。放置すれば退避中のパーティを追撃する能力は充分残っている』

「……一旦放置ってわけにはいかんようじゃのう……!」

 改めて、砲戦で二正面作戦をするしかない。


(残弾はいくつじゃ、ヒューガ)

(……わかんねえ)

(おまっ……!)


 ただ一桁の数を数えるのも、横入りが多いと大変なのである。

 ヒューガは実感した。

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