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第104話 炎で赤く染まった街での決闘 肆

 ―――土御門 迅・幼少期の記憶・小学校の授業参観日―――


赤い身体の酒吞童子が胡坐をかいた状態でふわふわと空中を浮かんでいる。

 小学1年生の迅は、クラスメイトの前で将来の夢を作文で書き発表すると、いじわるな友達にバカにされて、腹が立った。授業中であったが、思わず教室から飛び出して、校舎の屋上に走り出した。目の前に空からふわりと飛んできた酒吞童子と鉢合わせる。


「おうおう。若い力がたっぷりあるなぁ……」


 よだれをふき取ると、にやにやと笑う。迅は、小さな体をしていたが、妖力は遺伝があるのか緑色の光が自然と体全体を覆っていた。見えない者たちが見える強いオーラだ。ネガティブな気持ちを持ち合わせていたため、闇の力が少しずつ生まれていた。


「憎いんだろ?」


 酒吞童子は、迅の気持ちを見抜いたように見つめ、顔を長い赤い爪の右手ひとさし指でなでた。恐怖はなかった。今はただ、腹立つ。バカにされた気持ちが大きい。


「そうだ。あいつが憎たらしい!!」


 こぶしをぎゅっとにぎった。酒吞童子は、しめしめと迅の周りをまわりはじめる。邪念が集まり、力がだんだんと弱っている。


「さぁ、さぁ。こっちにおいで。憎い心こそ、鬼になれるのだ」

「……?!」


 迅の体が少しずつ鬼の力で侵食されそうになる。


「……違う、ぼくは!! ぼくは!! 鬼になんてなりたくない。人の役に立つかっこいい陰陽師になるんだ。人を憎むことは絶対にしないんだぁーーーーーー!!」


 迅は、酒吞童子に言われた言葉が強く響き、どうして友達を恨むことをしているんだとハッと気づかされた。危なく、鬼になりかけそうだった。自分の内の中に秘めていた力を存分に発揮し、あっという間に、人間の体に戻った。そこへ妖気に気づいて駆けつけた祖父の土御門 嘉将がお札を持って、学校の屋上に上がってきた。


「迅!! そこから今すぐ離れるんだ!!」

急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう!』


 強く風が吹き荒れている。風見鶏がカタカタとうるさいくらい回っている中、土御門 嘉将は術を唱えた。魔法陣から飛び出したのは四神の青龍だ。酒吞童子にまとわりついている。迅は、急いで土御門 嘉将の足にしがみついた。格闘している祖父に惚れ惚れした。こういう人になりたい。弱い心を打ち勝つ、強い人になりたいとそう願った。




―――現在


 鬼になった迅は、麗狐の力により壁に身体を打ち付けられ、気を失って倒れていた。過去の記憶が鮮明に思い出されて、なぜ鬼になりたくないのか。どうして、陰陽師になりたいのかを改めて、気づかされた。正気に戻った。目を開けると、壮絶なバトルが繰り広げられているのを目の当たりにする。鉄壁のような酒吞童子の強さに何度も焼け石に水のように立ち向かう麗狐の姿がある。狐の中でも強い妖力を持っていたはずだった。しばらく戦うことがなかった狐の鬼の戦いは、倍増して戻ってきたようだ。悪戦苦闘していた。


「鬼は静かに地獄に行きなさい!!!」


 麗狐は、大きな声で叫ぶ。体から放つ光がまぶしく広がった。酒吞童子は一瞬、目をつぶるが、それでも嘲笑って立ち向かう。そこへ、まだ少し鬼の力を侵食していたが、心は人間のままの迅は、瞬間移動して燃え広がる炎の中、2人の間に立ちふさがった。


「邪魔するんじゃない!」

 体を震わせて、麗狐は迅の腕をつかむ。


「……お前はどっちの味方なんだ?」

 酒吞童子は、口角をあげて、問いかける。


 札を使うこともなく、迅は、術を唱える。足元には魔法陣が浮かび上がる。


臨・兵・闘・者・階・陣・列・在・前りんぴょうとうしゃかいじんれつざいぜん


 唱えると体からじわじわと光が沸き起こり、十二天将じゅうにてんしょうが名前を呼ばずとも次々と集まりだした。青龍せいりゅう朱雀すざく白虎びゃっこ玄武げんぶ勾陳こうちん六合りくごう騰蛇とうしゃ天后てんこう貴人きじん大陰たいいん太裳たいじょう天空てんくうが迅の周りを取り囲む。


「俺は、無能なんかじゃない最強の陰陽師になるんだ」


 迅の体が目を開いていられないようなまぶしい光があたり一面を覆った。人々は

立つことができない。迅から湧き起る燃え広がる炎は、強く激しい風で消えていく。炎が消えるかわりに動物、生き物、あらゆるすべての人間が光を浴びて、燃えるように消えていく。あちこちで悲鳴が響く。



 助けようとした力が絶望と化した。残ったのは人間の力で作ったであろう崩れた建物のかけらのみだった。砂埃が吹き荒れた。暗雲が立ち込めて、大雨が降る。


 一羽の式神カラスが飛び立つと光を浴びて、消えていく。十二天将の力を借りて、眩い光を放った迅は


「これでよかったんだろう……」


 右手を天高く上げて、上から順よく体がすべて消えてしまった。地面には水たまりができ、雨粒がひとつ落ちると波紋ができていた。

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