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第103話 炎で赤く染まった街での決闘 参

 パチパチと火の粉が燃えて飛び散っている。街の建物ほとんどがだいだらぼっちの力により、看板や電気が崩れてどんどん炎が燃え広がっていた。麗狐は、鬼に力を侵食された迅に体の動きを止められて、肩から食い殺されそうになっていた。左手のひらを広げて、術を繰り出す。


「私に攻撃をするなど、百万年早いわ!」


 眩い光が輝きだす。迅は目がくらんで、吹き飛ばされた。塀に身体を思いっきり打ち付けて、気を失った。目の前が真っ暗になる。


 迅の様子を空から見下ろしていた酒吞童子がふわりと落ちてくる。かすり傷を負った麗狐がやっとおりてきたかと2人の睨み合いが始まった。


 瓦礫の中から空狐、風狐、白狐兎は、2人の様子を静かに顔だけ出して見守っていた。式神カラスも電線の上からじっと見つめている。


 今、ここに狐と鬼の戦いの火蓋を切られた。




 ◆◇◆


 ―――土御門 迅・幼少期の記憶―――


 青く澄んだ空に小学校の屋上で風見鶏がカラカラと回っていた。風が少し強かった。校舎の端っこの小学1年生の教室では、国語の授業参観が行われていた。一人の生徒が原稿用紙を持って、作文を読んでいる。黒板には、【ぼく・わたしのゆめ】と書かれている。後ろにたくさんの保護者が見ていると思うと緊張して、手足が震えていた。


「ぼくのゆめ。1年、土御門 迅。ぼ、ぼくの夢は、おじいちゃんと同じ仕事をすることです。なんでかというと、おじいちゃんは、強くてたくましいからです。出てくる妖怪や鬼をお札を使って術を唱え、除霊している姿を見て、かっこいいと思ったからです。ぼくは、おじいちゃんみたいに街の人を守れる立派な仕事をしたいです。それは、陰陽師といいます。えっと……がんばります!!」


「はい、よくできました。土御門くんは、おじいさんのお仕事をしたいのね。みんな応援しましょう!」

 担任の先生の青木 彩花あおき さいかは、拍手をして迅のことをほめていた。クラスの中でもガキ大将のように目立つ松尾 大雅まつお たいがは、椅子をひきずって、大声を出す。


「土御門の家に幽霊出るってよ! 本当かなぁ? 妖怪退治だったら面白いよなぁ」

 笑いながら、話してる横でさらに騒がしい馬場 翔真 ばば しょうまが返事をした。


「 嘘だ! 絶対嘘つきだよ。幽霊なんているわけない。妖怪なんて、演技してるだけだよ。お母さん言ってたもん」


 ざわざわと教室が騒がしくなってくる。疑っている保護者もいるようだ。


「松尾くん、馬場くん、そういうこと言っちゃだめですよ。土御門くんお家は先祖代々引き継がれた神社だから、そ、そういう見えないものも見えるかもしれないから。神様にご祈祷するでしょう。ね? 静かにしてようね」


 先生は、松尾と馬場の背中をポンポンと撫でてなだめようとした。それを聞いた迅は、腹立だしくて仕方ない。バンと机を両手でたたきつけた。自分の夢を侮辱されて怒りを止められない。


「ぼくは!! 嘘つきなんかじゃない!! この目で見たんだ。おじいちゃんが一生懸命に戦っているところを!! お前たちにバカにされるようなことは絶対にしてない!!」


 迅は、教室から廊下へ飛び出して逃げて行った。恥ずかしい気持ちと怒りの気持ちがあふれ出る。


(あれは嘘じゃない。本当なんだ! みんな、直接見てないから、そういうこと言えるんだ!)


【迅が土御門 嘉将の除霊を見た記憶】


 晴明神社の社の前、白狐兎の祖父の嘉孝が酒吞童子と闘っているのを土御門 嘉将は陰陽師の術を使って助けようとしていた。神社の入り口に飾られていた狛犬の横で従兄と鬼ごっごをしていた迅は、しっかりとその様子を見つめていた。


「迅、近づくのはやめた方がいい。危ないぞ」


 当時7歳年上で中学生の従兄である土御門 亨佑つちみかど きょうすけは、迅の身体をしっかりとおさえていた。幼い子供は鬼に連れていかれるから近づけるなと教えられていた。


「やだ。じいちゃんの戦っているところ、しっかり見ていたいんだ」


 青と白の狩衣を身に着けた土御門 嘉将は険しい顔で酒吞童子に立ち向かっていた。チラリと迅の方を見た酒吞童子は、若い力を奪えるぞと土御門 嘉将から離れて、狛犬の近くにふわりと移動した。


「おい、こら待て!! 今、戦っているのはわしだろう!!」


 土御門 嘉将はさらに強力なお札を取り出して、すぐに術を唱える。緑色の光が、辺りを包みこみ、ズルズルと掃除機のようにあっという間に酒吞童子が土御門 嘉将の手のひらに吸い込まれていった。それはすべて迅の目の前で繰り広げられていた。


 尻もちをついた迅は、汗をかいて驚愕していた。


「……お、おじいちゃん! 今の鬼ってどこ行っちゃったの?」


「迅、大丈夫だったか?」


 大量の汗をかいていた嘉将は、迅の体を起こして言った。大事な孫が鬼に連れていかれるんではないかと心配で仕方なかった。


「う、うん。大丈夫。かっこよかった!!」


「そ、そうかそうか。それは良かったな」


 嘉将は無事で何よりと安心していた。白狐兎の祖父の嘉孝は、駆けつけて安堵していた。亨佑も近づいて胸をなでおろしていた。


―――小学校の授業参観日の現在に戻る


(あの時の記憶は鮮明に覚えている。ぼくは、この目でしっかり見たんだ)


 目をつぶり、記憶を思い起こすと絶対に祖父の姿と鬼の姿が浮かんで来る。夢なんかじゃなかった。学校の廊下を無我夢中で走り続けていつの間にか屋上まで続く階段をのぼっていた。扉を開けると、冷たい風が頬を打つ。澄んでいた空はみるみるうちに暗雲が立ち込めていた。クラスメイトたちが憎くくてたまらなくなった迅のネガティブな念に反応した酒吞童子が胡坐をかいた状態でふわふわと空中を浮かんでいる。


「あ?! お前は、あの時の??」


 嘲笑う酒吞童子の声が響きわたると、空では雷雲が近づいてきていた。小学生一年の迅は、自然と身構えている。







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