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第102話 炎で赤く染まった街での決闘 弐

 あちこちで炎が舞い上がる東京の街中。人々は外に出ることは危険だと察した人が多く、建物の中に入ろうとするが、だいだらぼっちの影響で崩れかかった鉄筋コンクリートが頭の上に襲い掛かりそうになる。妖怪や霊ではないが、助けなきゃという想いが強く出た。大春日が茨木童子に立ち向かおうとする前に迅は、都民を守ろうと、瞬時にジャンプして、建物の下にスライディングで入り込んだ。悲鳴が沸き起こる。覆いかぶさったスーツ姿の男性は、迅の下でどうにか傷一つできなかった。


「あ、ありがとうございます」


 左義眼の周りが鬼の皮膚にまた少しずつなりはじめていた。こめかみが痛い。近くにがいるようだ。血管が浮き出てくる。


「助かってよかったです。おさえていますから、このまま逃げてください」

「は、はい!」


 慌てて崩れた瓦礫と迅との隙間をすり抜けて逃げ出した男性は、近くに落ちたリクルートバックを拾って、さらに遠くへと逃げて行った。助かって良かったとふとため息をつくと、心臓が太鼓のように打ち鳴らした。この感覚はなんだろう。頭が痛くなり、持っていた瓦礫を支えることができずにそのまま崩れていく。こんな場所で死んでしまうのだろうか。押しつぶされそうになる。


「妾が手を施すほどのことではないようだな。さぁ、鬼の力を取り戻せ」


 崩れたビルの上にふわふわと浮かぶ酒吞童子は、胸の前で手をたたき念じ始めた。さっきまで、瓦礫の中に埋もれて身動き取れなかった迅の力が突然、強力になり始めた。目だけの鬼の範囲が顔全体になり始める。歯を食いしばった。


「ち、ちくしょーーー。俺は鬼になんかなりたくない!!」


 人間と鬼との葛藤に揺れ動きながら、力いっぱい振り絞る。



 そうしてる間にも、大春日は、迅のことなど考えも知らず、白狐兎ともに茨木童子に闘っていた。


―【茨木童子との闘い】―


『さぁさぁ、私の力を発揮してやるわ。さぁ、ちびちゃんたち。行きなさい!!』


 指をさして、通常の大きさの式神sIrOシロに指示を出した。お腹がすいてるようで、両前足を手のようにおねだりしている。二足歩行になり、腹減りであることを必死にアピールしている。


『ちょっとちょっと、今おねだりしてる場合じゃないでしょう。sIrO!!』


 大春日は、突然のsIrOの行動に慌てふためいていると、こちらの様子を見て呆れて笑っている2人がいた。白狐兎と茨木童子だった。


「なんだ、あれ。てか、大春日さんの首が落ちてる?! 白い犬が腹減ってるってどういうことだ」


 白狐兎は、手のひらから霊力で作りあげた青白い弓矢を持っていたが、大春日の行動が気になり、攻撃する手を止めていた。大春日の霊体ということに現実を受け入れるのに時間がかかっていた。


「おいおいおい。俺と闘っていたんじゃないのか?」


 緑色の肌を筋肉でむき出しにし、2本の頭の角が金色に光っている茨木童子は、冷やかされているようでイライラし始めた。


「おう、そうだったな。気を取り直して、こっちから行くぞ」

「もう遅い!!」


 白狐兎が青い矢を放とうとするとすぐに真横に茨木童子が瞬間移動していた。左手の細く鋭い爪が白狐兎の白い肌にあたっている。冷や汗をかいて、動きを止めた。大春日は、sIrOに骨をやってどうにかお腹を満たしていた。


『ああー、もう。出遅れてる。ちょっと、白狐兎さんやばいじゃない! 早く、sIrO、行きなさいよ!!』


 大春日が叫んだ瞬間に目の前に何かが急いで1人の横切るものが見えたが、何であったかは見えなかった。さらに黒い影が2つ飛んでいく。何かがわからない。


「空狐、風狐、集中して!!」

「「はい!!」」


 大ピンチな白狐兎の前に現れたのは、麗狐、空狐、風狐の3人だった。東京が燃え広がっていて、何か邪悪なものに取り囲まれていることを感づいた麗狐は2人を引き連れて助けにやってきた。白狐兎が茨木童子に殺されそうになっているのを3人で三角の陣形を作り、回り込んだ。


「な、何者だ?!」

「狐と言ったらわかるだろう!?」

「……くっ、狐たちか」


 睨みつけた麗狐の言葉に怖気づいてしまったのか、白狐兎に向けた爪をひっこめた。


「おばさん!? 風狐に空狐。危ないっすよ」


 隙を見て、茨木童子からさっと逃げた白狐兎は態勢を整えた。陣形を取った3人は手のひらを茨木童子に向けると、細く長い白い糸を伸ばした。蜘蛛の糸のように細くネバネバしていた。3人は念誦を唱え始める。


『オン・アミリタ・テイセイ・カラ・ウン……』


 囲まれた茨木童子は、白い糸にぐるぐると巻かれて身動きが取れなくなる。強烈な念にさらに頭が痛くなり、叫び出した。


「うゔぉおおおああぉあああーーーーーー」


ミイラのようになった茨木童子は意気消沈して崩れていく。何度も素手で闘っていた白狐兎はやっと決着がついて安堵していた。sIrOを出そうとしていた大春日はがっかりした顔をして、ごろんと足元に首をおとした。ぺろぺろとsIrOは大春日の顔をなめる。


『もう、あんたがおねだりするからぁ‼』


 辺りが静かになったと思われたその時、瓦礫を歩く足音が聞こえる。



「倒した気でおるようだな……」


 酒吞童子がゆっくりと歩いてきたかに思われたが、本人は空中に浮かんでいる。だが、またふたたび、迅の身体に酒吞童子が取り込まれていた。せっかく鬼から人間へ戻ったと思っていたが、強敵である酒吞童子がそばにいる。迅の口から酒吞童子の声がする。もう制御できなくなっていた。


「迅がまた鬼に戻っている!? ったく……街はぐちゃぐちゃだし、迅は、鬼になるしで、俺の活躍場所が多くなってきてるなぁ?!」


 白狐兎は、思わず強気発言をするが、内心びくびくで足が震えていた。空狐と風狐は麗狐の後ろにささっと隠れている。


「大丈夫よ、何とかなるから。威勢のいいこと言って大丈夫なのかしら。白狐兎、よそ見してるんじゃないわよ?」


 麗狐は、瞬間移動で近づいてきた鬼の姿になった迅が真隣に来るとは思わなかった。冷や汗をかきながら、とっさに短剣を懐から取り出す。自身の左肩を食べられそうになるのを食い止めた。獣のようにうなる迅に、みなおびえている。






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