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第101話 炎で赤く染まった街での決闘 壱

  足元でパチンパチンと燃える音が響いている。景色はまるで東京に大地震が来たように、炎に包まれていて、辺りにある建物はほぼ壊滅状態だ。職場である警視庁はどれほどの恨みがあったのか、だいだらぼっちに縦に真っ二つに壊されていた。オフィス内で仕事どころの話ではない。迅は、この状況をどうするべきかと傷だらけの身体に鞭打って、後頭部をぼりぼりとかきながら、がれきの中をさまよった。


「これからどうすっかなぁ……だいだらぼっちは倒したけども、を探さないとこれからもっと強いの出してくるんじゃねぇのかなぁ……」


『つっちー、いいからぁさ。とりあえず、私、どうにかしてくれないかな』


 迅は、今後、役に立つであろう大春日舞子の霊体を霊力の紐で括り付け、風船のようにふわふわと浮かばせていた。


「え、まさか。除霊してくださいとか言います? 大春日さん」


『いやいや、当たり前でしょう。肉体じゃないこの体じゃ自由に動けないもの! そもそも、何よ。この紐! 私はあんたのペットじゃないわよ』


 ふわふわと浮かびながら、プンスカ怒る大春日舞子を迅は、ボールのようにパンチして遊んでいた。


『ちょっと、人を遊び道具にしないでよ!』


 霊体になって、能力を発揮し始めた大春日舞子は、手のひらを迅にかざした瞬間、威力のある気で一気に塀まで吹き飛ばした。それでも、迅が作った霊体を繋ぐ紐はつながったままだ。ぼろぼろになった塀に腰を打ち付けた迅は、背中をあてがいながら、回復の術を念じた。


「ちょうどよかった。全回復させておかないと、次の戦いに響くからなぁ。それにしても、まさか霊体になってから陰陽師の力を発揮するなんて、大春日さんすごいっすね。活かしましょう! その力。生きてませんけど」 


 大春日舞子は、深くため息をついて、空中で頬杖をつく。


『全く、生きてるときにやりたかったわ。なんで今更なって……あ、首ずれた』


 必死で首につけていた頭がバランスを崩して、ゴロンと首が地面に転がった。その先に、血相を変えて驚く男がいた。


「ちょ、ちょ……どういうことっすか!?」


 九十九部長とともに安全な場所に避難していた大津が、大春日舞子の首が足元に転がってくるのをしっかりと見ていた。式神の実体化ハシビロコウの力を発揮した大津は霊力が倍増して、見えなかったものがすっかり見えるようになっている。死んでいるはずの大春日舞子が首だけになっても目や口が動いている。


「あれ、大津。何してるの? こんなところで。九十九部長も一緒じゃないっすか」

「いやいや、迅さん。俺、さっき大春日さんのこと、目の前で殺されたの見ちゃったんですよ。どうして、ここに彼女の首が。しかも陽気に話してるんですか?」

「え、どこに? 大津。何言ってるんだ? 大春日はもう亡くなってるだろ」


 どこに行っても霊の姿が見えない九十九は、反対方向に向かって話している。まるで見えない何かを見えないようにしてるにも思える。本当はどっちなんだろう。


「九十九部長。本当は見えてるんじゃないですか?」

 迅はそう聞くが、身震いが止まらない九十九部長は蟹歩きで逃げるように離れていく。


「み・見えないけどぉ……何となく、寒気がする気がするんだなぁ。でも、大春日は死んでるんだ。大津の言ってることはおかしいってことがわかる」

 何だか支離滅裂になっている。


「まぁ、いいですけど。とりあえず、陰陽師としての力を使えるようになったみたいなんで、こんな感じで紐つけて、大春日さん連れてました……って、この紐も霊力で作ったものだから見えないかぁ」

「迅さん。なんで、そんな大春日さんのこと、ペットみたいに扱うんですか。ひどいですよ」

『ごめん、お話中のところ、申し訳ないんだけど、身体に戻っていいかな』

「わぁ?!」


 大春日の頭だけ足元でぼそぼそと話している。大津は、まさかまだ足元にあるとは思わずにその場でジャンプした。大春日は自分の身体を動かして、頭を首に取り付けた。だが、接着にうまくいかずに、両手でお腹のところで受け止めた。


『もういいや。ここでいいね。頭の定位置』

「マジックしてるみたいだよね。そういうのあったな」

「リアルで気持ちわるいわ」

「いいから! 話してないで、早く白狐兎のこと助けなくていいの?」


 迅と霊体の大春日、大津の3人からかなり離れた瓦礫の山に移動していた九十九は遠くの方で、ドンパチと闘っている茨木童子と白狐兎がいた。あまりにも体力が削れたようで、新しくつけていた面が外れて素顔になっていた。


『ちょっと、待って。あれ、誰。超イケメンじゃん』


 韓国のアーティストに追っかけていくくらいの面喰いな大春日は、白狐兎を遠くから目がハートに惚れてしまった。その様子を見た大津はつまらない顔をしている。


「いや、白狐兎の容姿を気にしてる場合じゃないでしょう。今、超絶ピンチだから」

 迅は、あきれた様子で身構えて戦いの準備を始めた。そこへ大春日は本気を出す。


『これは私に任すべきよ』

「は? お前、今霊体だろ」

『あんたが、私を活かすって言ったんじゃないの!』


 いきなり大春日の気が強くなった。迅が霊力で作った紐もぶちっと切れ始める。目を大きく見開いて驚いた。足元に魔法陣を描き始めた。


『行ってくるわ』


 瓦礫が広がる中、空中で戦っている白狐兎と茨木童子に立ち向かおうと、大春日は念を唱えようとした。

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