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第100話 街に現る破壊する者 参 

 商店街のビルについていた大きい看板が路上に豪快に落ちてきた。電気がビリビリとしている。危なく、通りかかったサラリーマンにぶつかりそうになった。尻もちをついた男性に迅が、駆け寄った。


「大丈夫ですか?」

「あ、ああ。ん? おばけーーー!!」


 迅の義眼が青く光るのを見て、妖怪と勘違いされた。一目散に逃げていく。助けようと思ったが、夕方にも関わらず、暗雲が立ち込めて、薄暗くなっている。夕日が雲で隠れて夜のようだ。


「ハロウィンの仮装だと思えば、こういう人いるだろうに……」


 だいだらぼっちと闘っているうちに着ている服がぼろぼろになっていた。裾がだらんと垂れている。迅は、思い切って服をひきちぎった


「あーーー邪魔くせーな」


 だいだらぼっちは迅の姿も気にもせず、次々と街の建物を壊していく。体が大きくて、なかなか制御できなかった。何度も使う術も魔力が不足していて効果がない。ふとさらに暗くなっている路地裏を見ると、ポンポンとボールを壁にぶつける音がした。


「ん、なんだ? そんなところにいたら崩れた建物につぶされる……?!」


 そこには首なし女が手を動かしてボール遊びしていた。人間じゃなかったことにびっくりする。


「な?! 首が無い?!」


 迅は、札を出して、除霊しようとするが、迅の気配に気づいてこちらに近づいてきた。手には自分の首を持っている。


『ちょっと待ちなさいよ』


 低い声で、迅のそばに近づく。聞いたことのある声に姿。女の手に持っている首をよく見ると、さらに迅は後退する。


「あ、あ……なんでこんなところにいるんすか。ちょ、ちょっと」

 動揺を隠せない迅は、彼女の言う通りに後退して持っていた札をしまった。


『よいしょっと。これで話は通じるかしら?』


 手に持っていた首を元の位置に戻そうするが、崩れた首はするする滑って地面に落ちる。


『あ、ダメね。やっぱり。元に戻せないみたい』

「大春日さん、なんでこんなところにいるんですか。肉体はどこに?」


 迅は、今の状態を信じられなかったが、とりあえず会話してみることにした。首は地面に落ちたままだが、舞子は慌てて拾いに行った。


『だってさ。さっき首切られたのよ。角はやした変なおっさんに。全く不意打ちで困ったもんだわ』


 バックのように持った首がぺちゃくちゃと普通に話している。不気味だったが、霊の存在に慣れている迅は続けて話す。背後では、だいだらぼっちが大暴れしている。


「それはそうと、ここに残っているってことは、助けてくれるっすか?」

『助けるの意味がわからないけど、悔い残ったないとか聞くのが普通でしょう』

「いいから、このだいだらぼっち倒すの手伝ってくださいよ」

『まったく、こういう時ばっかりよね。頼るのするの……』


 陰陽師の末裔である大春日舞子は、仕事中一切の霊力を使えなかったが、霊体になった今、霊力が倍増する。相棒であるスマホの式神犬のsIrOシロが実体化した。舞子の手から緑色の光が集まってくる。


急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう!


 迅は初めて舞子の術を唱える姿を目撃する。首なし陰陽師が現れた。首がお腹の位置で両腕で持っている。まるでマジシャンのようだ。sIrOがわんわんと吠えると、口の中から小さな犬のロボットがどんどん出てきた。ミクロサイズの白い犬が数千匹がうじゃうじゃ地面にいる。


「うわ、何これ。ちっさ。どういうことよ。これでどう戦うって?」


 迅は、地面に現れた白い犬たちをよけるのに必死で右左にジャンプする。


『私に任せたんでしょう。ぐだぐだ言ってないで最後まで見てなさいよ』


 舞子は本気を出したようで、両目を黄色に光らせた。地面にうじゃうじゃ数千匹の白い犬たちは綺麗に正方形に整列して、だいだらぼっちのいる交差点まで走って移動した。まさかミクロサイズでそのまま行ったら朝になる。時間がかかりすぎだと思った迅は、次の瞬間、目を見開いた。眩い光を放つミクロサイズの犬たちは瞬間移動をして、だいだらぼっちの顔の前に移動していた。


「な?! 早すぎて見えなかった」


『あとは、あの子たちに任せるわ』


「どうする気だよ」


『今に分かるわよ』


「うおおおおぉーー」


 大暴れしていただいだらぼっちの前に現れた数千のミクロサイズの白い犬たちはあっちこっちにジャンプして、だいだらぼっちの口に次々と入っていった。だいだらぼっちは、なかなか攻撃できずに交わされてしまっている。大きすぎる故に小さな相手攻撃には、難しいようだ。困惑している。わんわんと吠えるミクロの犬たちは、だいだらぼっちの身体の中から蝕んだ。じわじわとだいだらぼっちの身体が、数千のミクロ犬によって空中で溶けていった。


「すっげー、あっという間だ」


 迅は、大きなだいだらぼっちが一瞬にして消えていくのを見て、あっけにとられた。足元に整列して戻ってきた数千のミクロ犬に小さな餌を与える舞子は、笑顔で答える。


『私もこれで特級陰陽師の仲間入りね。つっちーに勝ったから』


「いや、あんた、今死んでるから。無理っすね。俺には勝てないっすよ」


『言ったわね!!』


 舞子は、自分の首を迅の顔に投げつけた。頬にパンチをくらったように痛みがある。


「痛ったぁ~。やめてくださいよ。俺の大事な顔を顔で攻撃するのは?!」


 迅は、走って逃げるが、街はビルが崩れたままの残骸ばかりだった。

 式神カラスの烏兎翔はまだまだ仕事が残っているなとため息をついて、満月の輝く夜空を飛び立った。

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