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迅は久しぶりに妖怪に向かって、パンと顔の前で手をたたき、念を唱えた。空中に描かれた魔法陣から青龍が緑の光とともに現れる。
だいだらぼっちの力によって壊されたビルが力を増して、どんどん崩れていく。だいだらぼっちは、目を赤く光らせてこちらを見てくる。おどろおどろしい声が響いた。街路樹が立ち並ぶ通路や交差点では女性の悲鳴が響き渡っている。
遠くのビルの屋上でだいだらぼっちに指示を出す
「ささっとやっちまえばいいのに……あいつは弱いやつだ」
くちゃくちゃとリップノイズを出しながら、ジャンプして、ビルの屋上にあるベンチに腰かけようとした。全身を震わせて、恐怖心たっぷりの白狐兎と顔を見合わせた。たまたま飛び降りた場所に茨木童子がいるとは思わなかった。一度はだいだらぼっちに攻撃をしかけたが、迅がいると思い、休憩しようとここまで飛んできた。ここからは、迅とだいだらぼっちの戦いがよく見える。
「まさか、ここで会うとはなぁ? 狐の坊っちゃん」
「……くっ!」
歯をぐっと噛みしめて悔しい顔をした。過去に狐の里に襲ってきたことのある鬼だった。見た事がある。
「邪魔するんじゃないよ。これからいいところだ!!」
黒い金棒をガンガンと地面にたたきつけると、ぼろぼろとコンクリートが崩れる。遠くでは迅とだいだらぼっちが戦っている。ここでは、白狐兎と茨木童子の一騎打ちだ。さらに隣のビルの屋上で、大津と舞子、九十九がおびえながら様子をうかがっていた。
「これ、どうするよ。俺ら、どこに逃げればいいんだ」
「落ち着いて。きっと、あの2人が何とかしてくれるわ」
「ちょ、ちょっと待ってよ。私、こんなところで死にたくないわ!」
おびえる舞子は、慌ててビルの階段に続くドアを開けようとしたが、嫌な空気を感じた。カツカツと誰かがのぼってくる音だ。
「大春日、落ち着いて。今は、一緒に行動しましょう」
九十九が逃げようとする舞子に声をかけたが、それは遅かった。階段をのぼってきたのは、筋肉をむき出しにした酒呑童子の姿だ。レベルアップして、下界におりてきていた。勝色の着物を着て、白い角を頭から二本生やしている。
「逃げろ!!」
大津も邪悪な気配を感じ取ったが、逃げる暇もなかった。酒呑童子は、左腕を胸から左ななめ上側にビュンと一振りした瞬間、大春日舞子の首が屋上の地面にふっとんだ。霊力が弱かった。気配を感じとることができず、逃げたくて仕方なかった。血しぶきが飛び散った。
「大春日ぁぁああーーー!」
大津は叫び、大春日の身体に駆け寄ったが、もう息はしていない。首が転がっている。血が大量に広がっている。怒りがわなわなと湧き起こる。
「大津、大丈夫か……」
膝をついて、現実を受けとめられない九十九はか細い声で大津に声をかける。
「人間のやることは浅はかだ。茨木童子、まだなのか?」
「御意」
隣のビルに飛び移った2人を見た大津は拳をにぎりしめ、力をためた大津は霊感がなかったはずの力が沸き起こり、地面に魔法陣を描き始めた。迅の真似をしようと念を唱えてみた。パソコンで扱っていたはずのポリゴンタイプのハシビロコウが実体化して、魔法陣の中心に現れる。
『
札を使わなくても、2本の指を重ねただけで技を繰り出せる。大津の隠れた力だった。ハシビロコウが口を開けると、強力な風が吹き荒れた。立ってるのもやっとのかなり強い風だ。
「な、なに」
柵のギリギリまで吹き飛ばされた茨木童子と酒呑童子は、淵ぎりぎりにつかみ、ジャンプして態勢を整えた。
「いきなりだな、おい」
「なかなかやりますね。酒呑童子様、ここは私にお任せを」
「俺に任せろ!!!」
白狐兎は、大津に襲いかかりそうになった茨木童子の前に立ち憚った。
「お、おう! 任せたぞ」
「大津、行くぞ」
今のうちに逃げておこうという作戦で九十九は大津を階段をおりるよう誘導した。大春日の首が転がっているのを涙をこられて、立ち去る大津だった。仲間がひとり減ってしまった空虚感が頭の中にめぐっている。
未だにだいだらぼっちと迅の戦いは決着がつかずに続いていた。次からつぎへとビルが壊れていく。体格が大きくて止められない。
「ちくしょーー!! 大きすぎるんだよ」