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第98話 街に現る破壊する者 壱

―――警視庁の詛呪対策本部


 鳩時計がフロアに響く。10時を知らせる音だ。いつもなら、ここで迅が扉を豪快に開けて入ってくる。いろんな事情でここに来られないと知っていたみんなは、ため息をつく。威勢のいい声がないのは寂しい。大津智司はパソコン画面を見つめ、パチパチとキーボードをたたく。大春日舞子は、剥がれそうになったネイルを自力でぴろんとはがした。


「あーあ。せっかくのネイルはがれちゃった。また予約しないと……。大津さん、コーヒー飲みますか?」


 舞子は、休憩に入ろうと、席を立ちあがり給湯室へ向かう。白狐兎のデスクの横を通り過ぎようとすると、相変わらず無口で、心を開かない。デスクの上で仕事をしてるからと思いきや、子供に人気のピタゴラスパズルを黙々と積み重ねていた。


(この人、一体何しに来てんのよ。小学生か?)


「あー、崩れた」

 白狐兎の独り言の声が大きい。パズルが崩れて頭を抱えてがっかりしている。


「俺、砂糖とミルクたっぷりで」

「…………」

 大津に続き、白狐兎も同意見のようで、静かに手をあげた。さっきの独り言はなかったようになっている。


(普通に喋れよ……)


 舞子は、給湯室でインスタントコーヒーにミルクと砂糖をマグカップに入れて、カフェオレを作った。シンプルなブルーマグカップは大津用。狐の可愛い絵が描かれているのは白狐兎用だった。それぞれのデスクにマグカップを運んだ。ちょうどその時に同時に扉が全開と、大きな窓ガラスが割れる音がした。空の雲行きが怪しくなってくる。


「いますぐ逃げろ!!」

 窓を割って入ってきたのは、完全な鬼からほぼ人間に戻った迅。


「みんな、危険よ」

 扉を勢いよく開けて入ってきたのは九十九部長だった。血相を変えている。


「へ?」


 コーヒーがこぼれそうになる大津。びっくりして椅子から転げ落ちる白狐兎。動じない舞子がいた。


「早く、しろよ!」

「な、なんで?」

 迅は、白狐兎の腕を引っ張って、窓ガラスの方へ連れていく。


「大変よ、急がないと!!」

「どういうことっすか」

「ちょ、引っ張らないでください」

 九十九部長は割れたガラスなど気にもせず、舞子と大津を腕を引っ張って、連れ出す。


 すると、真上から巨大なだいだらぼっちが警視庁の建物を空手の瓦割のように真っ二つに切れ目を入れた。迅は、脅威の術の力で九十九と舞子を抱えて瞬時にジャンプして、逃げた。白狐兎は、大津を左手一本だけつかんで、式神カラスの足をつかんだ。バラバラと建物がどんどん崩れていく。


「ちょ、危ない。危ない。早くおろして。俺、高所恐怖症!!」

「…………す、す、すいませ……」


 まだ心を開けずうまく話せない白狐兎は、緊張しながら、式神カラスに指示を出し、遠くのビルに飛び移った。乱暴に体が屋上の地面に落ちる。


「もうちょっと、優しくおろしてくれないかな」

「……」

 ぺこりと頭をさげると、すぐにカラスに飛び移り、暴れまくるだいだらぼっちに向かう。大津は体が地面にたたきつけられて、腰をさする。

 その頃、両手に女子を抱えた迅は、腕が重くて仕方ない。軽やかにジャンプするが、限界が来る。大津が横たわるビルの上にたどり着いた。


「きゃぁ! ちょっと」

 舞子はイライラしながら、手足を地面につけてどうにかケガをしなかった。


「土御門、他に運び方ないのか?! ……って、あんた、何、その目」


 九十九は膝をぶつけてケガをする。迅の青く光る義眼を初めて見た九十九は、目を大きく見開いた。顔半分は鬼の侵食が残ったままだ。


「これは、話せば長くなるっす。雑ですいません。今はそれどころじゃないっす!!」


 自分の皮膚を触りながら、言いかけるが、妖怪が現れた今、のんびりしてる暇はない。九十九のハイヒールの音が響く。屋上に強く風が吹きすさぶ。迅は、身構えて、口笛を吹いて、式神カラス烏兎翔を呼び寄せた。上空から急降下でおりてくる。


「わたしも暇じゃないのだぞ」

「来てくれるだけでもありがたいっす。ほら、足出して」

「……チッ」


 久しぶりに呼ばれて、かなりご機嫌ななめの烏兎翔だ。機嫌悪くしてるが、結局は仕事をこなす。真面目なカラスだ。迅は、烏兎翔の足を借りて、空を飛ぶ。街中で暴れまわるだいだらぼっちの元を急ぐ。


「調子乗るんじゃないぞ。今もが来てる」

「わかってるって。白狐兎の術で助けてもらう予定なんだ。って、あいつ、どこ行った?」


 辺りを見渡すと、だいだらぼっちに立ち向かう白狐兎の姿があった。効くのか効かないのかわからない青く光るいつもの矢を何度も放っていた。


「あれ、効かないだろ」

「お前が来るの待ってるんじゃないのか?」

「え、びびってるんだろ」

「いいから、早くしろ」

「はいはい」


 白狐兎は、何もしないでいるのはそのままでいることはできないと感じて、小出しに攻撃していた。 迅は、烏兎翔に指示されながら、どうにか実家の神社で手に入れた真新しいお札をズボンのポケットから取り出し、空中で魔法陣を作り、術を唱えた。


急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう!』


 パンと顔の前で手をたたく。魔法陣から青龍が緑の光とともに現れる。

 だいだらぼっちの力によって壊されたビルがどんどん崩れていく。だいだらぼっちは、目を赤く光らせてこちらを見てくる。


 遠くのビルの屋上である人物のシルエットが見えた。














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