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第96話 鬼か人間か 壱

 雲に覆われた真っ白い空から水が1滴が滴り落ちる。太陽が沈まぬ広大な真っ白い砂の上。百夜の地に瞬間移動でやってきたのは角を2本生やした鬼柳と八割方鬼の力が侵食された迅の姿があった。もう言葉を発することのできない獣のようにうなっている。腕からそっと落とされると、顔に砂がつく。水たまりに波紋ができた。

 ここは天国と地獄の境目だ。


「ヴゥー!」

「お前は、鬼にならない方がいいんだ。人間に戻れ」

「ヴゥ―!!」

「鬼から人間の姿になった俺から言えることは、身体を大事にしろってことだよ」


 鬼の姿に逆戻りした鬼柳は、肉付きのよかった身体は鬼の姿になった瞬間に骨が見えるくらいのがりがりの細さになった。常に食べ物に飢えているが、満たされない。鬼の食事は人間を食べることだが、鬼柳は良心の呵責から食べたことがない。細くなる一方だ。

 手のひらを角が生え始めた迅の上にあてた。緑色の光が照らし出される。何をされるのかとじたばたと暴れ始めるが、しっかりと鬼柳の手につかまれていた。


「今、人間に戻すから。待ってろ」

 額に大量の汗を流し、力を込めて念を込める鬼柳に迅は、人間の意識が戻らず、顔は人間になったり、鬼の形相になったり入れ替わる。力がだんだんに戻ろうとしたとき。


『やめろ!!』


 野太い声で鬼柳の手を振り払った。迅の声ではない。息を荒くして、身軽にジャンプした。迅の姿は顔半分が鬼の姿だった。体はどうにか人間の姿に戻っている。


「何とか、戻せたか。もう少しで治るから。落ち着いて、こっち来いよ」


 鬼柳は、手招きをして呼び寄せる。迅は額に筋を作ると、義眼を青く光らせた。


『お前の命はない』

「やめろぉぉおおおーーーーー」


 迅の本当の意識は、力をとめようとした。鬼の力が強かった。自分の中に眠る人間の力と鬼の力の葛藤だ。左手指でパチンと指を鳴らすと、鬼柳の姿は全身がすべて水滴のようにバラバラになった。姿、形が一瞬にして無くなった。


 迅は、両膝を地面について、崩れ落ちる。人間に戻そうと必死で力を振り絞ってくれた鬼柳は、自分の中に眠る鬼の力により、この世を去った。地獄にも天国にも行けない。魂はどこに行ったのかわからない。水滴になって湖に流れていく。キラキラと輝き始める水面に、心が洗われた。


 緑色の光が全体に輝き始めると、迅はあっという間に全身が人間の姿に戻っていく。


『ぐわわわわあぁああああーーー』


 体の中に入っていた鬼の力が天に向かって煙となって、流れていく。

 迅は、地面に前からバタンと倒れた。意識が遠のいていく。

 頭の中では、水の流れる音が響いていた。




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