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第93話 狐のライバル現る 参

 森の中の生い茂る木々に囲まれていた。息使いが荒い。樹の妖精が住んでいそうな大きな狐の里のご神木に体を押し付けられていたのは白狐兎だった。魁狸が追い詰められていたかと思ったら、首をググッと反対に押さえつけられていた。


「狐の分際で私に立ち向かってくるのぉ? 良い度胸してんじゃない」


 オネエ言葉を使う魁狸は、筋肉ムキムキで力は強かった。体は完全なる男。狸の耳を生やしていた。半妖の魁狸だ。


「俺の大事なラッキーを!!」


 ググッとおさえつけられても、気合は負けず、体当たりで迫る。力がさらに加わり、しっぽから1本の毛を抜きとって、ラッキーと同じように首に近づけた。さっとまっすぐの線を描くように血が流れ落ちる。


「くっ…………」


 突然、森の気配が変わった。さわやかな風が暗雲を立ち込めて、空気が重くのしかかる。


「魁狸、何をしている?」


 少し高い位置から胡坐をかいて、座っている酒吞童子がいた。白狐兎のこめかみに痛みが走る。妖気が強い。誰が現れたかを感じた魁狸は地面に片膝をついて、頭を下げた。体が震えている。


「酒吞童子様!! 狐退治をしておりました」

「それはわらわが願ったことなのか?」

「…………」


 魁狸は、額から大量の汗が流れて、歯がカタカタと震える。指示に従えなかった時はすぐに命を取られる。おびえていた。その様子を白狐兎はさっきと違う魁狸の態度を見て、クスッと笑ってしまう。



―― 一方その頃の迅は、近くに酒吞童子がいることを感じが取っていた。鬼の力が暴走して増強し始める。目の周り付近だった鬼の姿が体半分侵食して来ている。


「あ、あれ。つっちー、どこに行った?」

「今、ここにいたよね。神妙な顔してたけど、どっか行っちゃったね」

 風狐と空狐は顔を見合わせて、迅を探すがどこにもいない。力が強くなった迅は瞬間移動して、白狐兎の隣にまで移動していた。魁狸が酒吞童子に土下座しているのを目撃するが、怒りを思い出し思うのままに迅は、胸ぐらをつかむ。人間から鬼の肌に切り替わり、ググッと魁狸の体を上に持ち上げる。青く目が光る。


「お前は絶対許さない!!」


 ほんの一瞬だった。迅は、陰陽師の力ではなく、体に侵食してきた鬼の力を最大限に活用して、魁狸を青く光る眼で睨みつけるだけでパンと水風船が割れたように魁狸の全身ははじけ飛んだ。迅の顔に血しぶきが降りかかる。


 空から黒い雨が突然降り始める。森がざわめき出した。木々が風で強く揺れる。


 酒吞童子が大声であざけ笑う。


「妾が手を下さなくても、まさかお前がやるとはね。迅」


 迅の顎をつかみ、洗脳されて赤く目が光り始めた。酒吞童子に近づけば近づくほど、鬼の能力を吸収していくようだ。


「妾の力をすべてあずけようか。ん?」

「やめろーーーーーーー」


 そばで見ていた白狐兎が体当たりすると思いかけず勢いよく2人の体が飛ばされていく。


「またお前か。狐め!」


 地面に手をついて起きようとする酒吞童子は狐の力に弱い。口から血を出して手でふき取ると、指をパチンと鳴らした。

 音に反応して現れたのは赤い皮膚で覆われて、天鵞絨びろうど色の着物を片腕を出して上半身をはだけて着る大嶽丸おおたけまるだった。筋肉むき出しで図体がでかい。髪色は銀色で、二本の黒い角は鋭く光っていた。


「あとは任せる」

 そう言い捨てて、酒吞童子は消えていなくなる。


 白狐兎の前に大嶽丸がたちはばかる。


 酒吞童子がいなくなり、力が解放されて、人間の体に徐々に戻ると、顔面からドンッと倒れていく。


 木々の間から月と星が見え隠れする。式神のカラスは気になって一度様子を見に来るが、体格のいい大嶽丸におびえて、逃げて行った。


 白狐兎と大嶽丸の戦いが始まる。

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