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第88話 満たされない鬼との対峙 壱

 河川敷に冷たい風が吹きすさぶ。2羽の鳩が仲良く落ちていたお菓子の

カスをつまんでいた。砂利道を進んでいくと、地域のテントが2つ立てられていた。いい匂いが漂っている。匂いに誘われて、人々が行列をなしていた。衣服がぼろぼろの人や少し小綺麗な人たちが炊き出しに並んでいる。これはボランティア団体が企画提案したホームレスのための食事だ。その中では生活保護で食いつないでいる人もいる。その中に、平気な顔して並んでいるのは迅と付き添いで来た白狐兎だった。


「なぁ、なんでこんなところ並んでいるんだよ。妖気は? 感じたんじゃないのか」

「…………」

 腹が減りすぎて限界を突破した迅は眉間にしわを寄せていた。


「なぁ、迅。どうしてここに並ぶんだ?」

「お前のせいだよ」

「は?!」

「覚えてないのか?! いつか、お前にアパートをぶっ壊された影響で俺はどこにも住めなくなったんだ!! マンションアパート管理の大家たちがどの不動産も出入り禁止にされちまうし。ここに来るしかないだろ」

※第77話 車輪に巻き込まれるな 壱 参照


「マジか?! ホームレス……警察で働いてるのに……ホームレス」


 笑いをこられきれず、ついつい大声で笑う白狐兎に迅はブチ切れて白狐兎の胸ぐらをつかんで体を宙にうかせた。


「あれ、おはようございます。土御門さん、今日も演技の練習ですか?」

「え?」

「あ……はいぃ。そうなんです。実は今週の土曜日に上演される予定なんですよ」


 さっと、白狐兎から手を外して、服を整えた。声をかけてきたのはボランティア団体【セーフティ】の施設長 櫻田 昌俊さくらだ まさとしだった。紙どんぶりに豚汁と紙皿におにぎりを準備してくれていた。


(おい、演技ってどういう意味だよ)

(ここでは警察ってことを秘密にしてるんだよ。そうでもしないと食べさせてくれないからさ)


 迅と白狐兎は小声で話す。不思議に思う櫻田だ。ごまかすために舞台俳優をしているということにしていた。


「お隣の方も俳優さん目指してるんです? 面つけてますもんね。それにしても土御門さんのそれ、特殊メイクですか?」


 迅の顔半分が青い目になってることと、鬼の皮膚が侵食してる。それを見た櫻田は指をさして確認した。


「あ、はい! そう、そうなんですよ。俺、鬼の役になってましてね。こいつは狐の役なんで、こんな面つけてるんですよ……ハハハ。おにぎりいただきます!」


 そう吐き捨てて、ささっと逃げ出した。堤防にある階段に腰をおろして、豚汁にありつこうとした。こめかみに痛みが走る。割り箸がぽろんと地面に落ちる。


「お前さ、金稼いでるんだから、コンビニでおにぎり買えばいいだろ。なんで炊き出しでわざわざ無料でもらわないといけないだ?」


 そう言う白狐兎もご機嫌に豚汁にありつこうとしたが、迅が立ち上がり、その拍子に全部器からこぼしてしまう。


「俺の豚汁が?!」

「行くぞ」

「急だな。これから食事だっていうのに……食べてからじゃ無理なのか!?」


 迅は、辺りを右左を見つめ、どこからの妖気か確かめた。妖気によるあまりにも強いこめかみの痛みに耐えられない。河川敷の高架下の方から男性の悲鳴が聞こえてくる。


「あっちだ」

 食べ物をそのままに無我夢中で走り出す。


「俺は、断固として動かない。こぼれた豚汁は仕方ないとしておにぎりはしっかり食べてから行くからな!!」


 険しい顔をしながら走っていた迅は、力を集中させた。血の匂いが混じってるのがわかる。現場に到着すると想像を絶する光景が待ち受けていた。

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