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第81話 妖怪たちが横行闊歩する 弐

 真っ暗な夜空にキラキラと虹色の丸い窓があった。これは地獄と下界を結ぶ境目の窓だった。そこからどんどんと、様々な妖怪がジャンプして飛び出してくる。ビルとビルの間に落ちるものや、屋上に飛び降りて、建物の中に入る者もいる。あちこちで人間の悲鳴が沸き上がる。迅と白狐兎だけは補いきれないほどの数の多さに汗がほとばしる。


「白狐兎、このままじゃ、人間たちがやられるわ。まやかしの術は使えないのか!?」

「もう亡くなった人はどうしようもないわ。今からやるしかない!」


 白狐兎を手をパンと力強くたたいて、全方位空間をゆがませて、夢と現実の境目を作った。この空間になれば、人間たちは殺されずに済む。鬼や妖怪の力も弱まる。ただ、妖力が強い鬼が来たら、耐え切れずにこの術を破ってしまうこともある。


「いつまで持つか。わからねぇッ!」

「その間にできることをする!!!」


 迅はビルよりも高くジャンプして、札を指で挟み術を唱えた。


急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう


 地面から湧き上がる炎に次々と人間に襲いかかる小さな鬼や妖怪たちが燃え盛っていく。だが、数はそれ以上にきりがなかった。


「だめだ、1回で倒せる数が少なすぎる。ちくしょ、間に合わない!」


 術を唱えて、とっさに交差点で走り回る子供を追いかけて、守ろうとする母親に迅は覆いかぶさった。

 炎属性の黒い犬の禍斗かとは口から炎を吐き出そうとしていた。迅は、手をたたいて、手から氷の粒をまき散らした。冷たさを感じた禍斗は、すぐさまジャンプして逃げていく。


 ビルの屋上でジャンプして飛び降りたのは、狐の里の風狐と空狐、2人の母親である麗狐れいこが3人現れた。


「なに、なに。私たちが来るのを待ってたのかなぁ?」

「空狐、そんな調子いいこと言ってぇ、倒されてもしらないよぉ」

 風狐と空狐は、妖力に気づいた母の麗狐に引っ張られてやってきた。本当は足がガクガクなるほど恐怖に満ちていた。


「今までこんな多い数の妖怪見たことないよねぇ。マジ怖いよぉ」

「いわんこっちゃない。強がりは一瞬だね」

「2人とも、悠長にしてられないわよ」

 着物をひもでたくしあげて、気合を入れる麗狐は、バシッと2人の背中をたたく。


「「はぁーい」」


母親の言うことは絶対だった。


「あ、あそこに白狐兎いたわ。行くわよ」

「よし、白狐兎の後ろに着いてまわろうっと」

「私もぉ~」


 3人は着物を器用に操って都会の空を舞った。


―――一方、下界と地獄の行列に並んでいた鬼柳は、隣にいる小太りのおじさんと麻雀を楽しんでいた。


「おっしゃ、これは、ロン!!」

「な、なにを。なんでこのタイミングで。あーーー」

「ハハハ、甘い甘い。下界で修行を積んだ鬼柳様を舐めてはいけませんよ。フフフ……あれ、なかなか列が進まないですね。こっちの列の方が早い気がする。行こうかな」

「鬼さん、そっち行くんですか」

 ちょっとずれただけで、もう列には戻れない決まりだ。

「ああ、こっちの方、早いじゃないですか。鈴木さんもこっちに」

「あ、私は、れっきとした元人間なので、無理ですよぉ~~。お元気でー」

「え、どういうことよ。なんで、こっちは違うの?」


 鬼柳はスムーズに進む列に移動して、どんどん先に進む。一緒に並んでいた下界の元人間だった鈴木は、手を大きく振って別れを告げる。鬼柳の周りに並ぶのは赤鬼や青鬼、はたまた、河童や、ろくろ首、座敷童、1つ目小僧など、妖怪ばかりがいることに気づく。


「俺も確かにもともとは鬼だったけどさ。なんで、こっち。早くない? まさか、地獄で働くって言わないよね」

「……え、知らないっすか?」

 隣にならぶ赤鬼が声をかける。


「今から人間を食い荒らしパーティに行くって、閻魔様に言われたんっすよ。おかしな人間たちの総入れ替えしないといけないって騒いでましたから」

「は? え? 嘘。マジで。俺、元鬼だけど、人間食うよりトンカツ食う方が満足するつーか……」

「何、言ってんですか。滅多にないごちそうっすよ。これを逃したらいつ腹膨れるか……」

「こっちの世界も腹いっぱいにはならねぇもんなぁ」


 鬼柳は鬼の気持ちも人間の気持ちもどっちの気持ちもわかるようになってきたため、複雑だった。


「こっちの世界で余生でゆっくり過ごせると思ったのによぉ……下界に行く方が地獄だわぁ」

「……ほら、行きますよ。先着100名で窓閉じちゃうんですからね」

 赤鬼は百鬼夜行の人数100名だということを聞いて急いで、鬼柳の腕を強引に引っ張って、下界へと一緒に飛んで行った。


「俺はいーかーなーいーつーーの。あーーーー」

 不本意に吸い込まれて、下界に移動してしまった。


 東京の街の喧騒はいつもと違う。カラスの鳴き声と女性の悲鳴があちこちで響いている。







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