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第66話 変貌の刻 肆

 そびえ立つたつビルの上のガラスとぺたりとついた絡新婦じょうろうぐもが舌なめずりをしていた。オフィスで働くサラリーマンを美味しくいただいた後だった。既に腹の中に入れたのは3人目。真下の交差点では逃げ惑う人で行きかっていた。式神の烏兎翔の足にしがみついてきた迅は、アスファルトにジャンプした。


「随分、食われてるみたいだな」

「……悠長に見ている場合じゃなさそうだぞ」


 白狐兎が地面に足をつけた瞬間、ビルのガラスにしがみついていた絡新婦が目を光らせて、俊足でこちらにやってきた。白狐兎の目の前に現れる。冷や汗が流れる。そちらに気がとられている間に迅は地面に魔法陣を描き、ポケットから札を取り出した。


「うまそうな人間だなぁ。術師か」

「だったら、どうだって言うんだ」

「美味しくいただこうじゃないか!!」


 絡新婦は指先から蜘蛛の糸を大量に出して、白狐兎の体にからみついた。身動きが取れない中、指ではさんでいた札に念じた。


≪かまいたち・改≫


 蜘蛛の糸にくるまれながら苦し紛れに白狐兎は風属性のかまいたちを召喚した。着物姿の上半身美女の姿で下半身が蜘蛛の状態の絡新婦は、自ら放った糸がかまいたちの風により、顔が糸でぐるぐる巻にミイラのようになってしまうが、白狐兎は糸に巻き付いたままだった。


「くッ…………」

 逃げ出そうと必死だったが、迅の念誦が響く。


≪臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前≫


 魔法陣から青龍が浮かび上がり、ミイラのようになった絡新婦にとぐろ巻いて、魔力を最大に出し切ると、プツンと砂のようにさらさらと体が消えていった。白狐兎の巻き付いた糸も一瞬にして消えていった。鬼柳の力を吸収したのか以前よりも魔力が倍増しているようだ。


 技を決め込んだ迅は、かいてもない汗を拭くように頑張ったポーズを白狐兎に見せつけた。


「今日は俺の方が強かったな」

「……油断するなよ」

「は?」


 白狐兎から手のひらから破魔矢を取り出している。迅の後ろにはおどろおどろしいオーラが放っていた。怖がって誰もいなくなった横断歩道の上には、絡新婦よりもさらに強い酒呑童子の側近、大嶽丸の姿があった。


「誰だ? 俺の女に手を出したのは」


 大嶽丸の背中には邪悪な闇のオーラが広がっていた。迅と白狐兎と頭痛はさっきよりも強く出た。耳鳴りがする。あたりに飛び交っていたカラスたちがざわつき始める。


「……次はあんたか」

「おう。威勢がいいな。お前は兵吉の……。弱い弱い。力、小さすぎるだろ」


 背負っていた大きな剣を引き抜いて、容赦なく襲いかかって来る。迅は、相手の力に負けじと足を地面に踏ん張り続けた。急いで、手のひらから出した霊剣で立ち向かう。霊力を絡新婦の時に使いすぎて、動きが鈍い。恐怖のあまり体を震わせていた白狐兎は、必死に破魔矢を放とうとする。そこへ大嶽丸の顔をすれすれに横を長い槍が飛んでくる。


「なに?!」

「助かった? 誰がこの槍を」

  木の枝に突き刺さった槍を見つけ、迅は、引き抜いて、攻撃をしかけた。


「白狐兎! やっぱり逃げ腰になってるじゃん」


 後ろから甲高い声と笑い声が響いた。大嶽丸は鋭い槍が目の前を通り過ぎて、鼻息が荒くなっていた。

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