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第62話 鬼柳の真実 六

―――― 一方、現代では……


 アスファルトの上、赤い鬼の姿のまま、血だらけで息絶えた鬼柳の肉体が倒れていた。どくどくと血が側溝へ流れていく。体の上に霊体がプカプカと浮かぶ。


「……あーあ、もうやられてしまうんですか」

 そこへ現れたのは、警視庁の詛呪対策本部の九十九部長だった。ハイヒールの音を響かせてやってきた。なかなか戻ってこない迅と鬼柳を探していた。迅の姿がなかったが、鬼柳の遺体があることにため息を漏らす。


「……亡くなった人に対して、そんなコメント、ひどいじゃないですか」

 ふわりと九十九部長をすり抜けて話すと、目には見えない霊感のない九十九部長は身震いした。


「な、なに?! もしかして、鬼柳さん近くにいるの?!」

「……見えなくても感覚はあるみたいっすね」

「え? 声? する?」

「お?」


 鬼柳は、九十九部長の前に立ちはばかった。少しだけぼんやりと鬼柳の姿が映し出される。


「残念ですけど、労災おりませんからね」

「……いつでも、俺に対しては厳しいよな、本当。九十九部長、知ってたんだろ」

「五十嵐部長が亡くなった時は貴方は、署のみんなに目をつけられていましたから、疑いは晴れません。証拠不十分だったので逮捕にはできなかったんですけど」

「その話までさかのぼるのか。そもそも、俺が鬼ってことも知っていた?」


 腕を組んで九十九部長はここだろうかと思いながら電柱に話しかける。そこには鬼柳はいない。

「五十嵐部長が亡くなった原因があまりにも不自然だったので、最後に貴方が一緒にいたことも証言する人が何人にもいましたから。自殺するような性格ではない方でしたしね……貴方ですよね」

「九十九部長、俺はここですよ」

「……ああ!! もう。真剣な話してたのに、崩さないでよ」

「でも、俺、こっちにいるんですよ」


 今度はブロック塀の方に向き直すが、そこにはいない。九十九部長は霊感があるわけではない。感覚で過ごしている。


「もう、どこでもいいから。話が聞こえるならここでいいでしょ」

「分かりましたよ」


鬼柳は半ば向き合うことをあきらめて、近くにあったブランコに乗って揺らすと、急に怖くなった九十九部長は走って遠くに逃げようとする。


「……え、話するって言ってましたよね」

「ちょ、ちょ、ちょっと怖くなっただけよ。いいから、気にしないで」

「はぁ……」

「とにかく、五十嵐部長に手をかけたのは貴方でしょう。証拠は無くても知ってますから。目的は一体何なんですか。鬼の姿になって改めて疑いが強まりましたよ」

「……そこまで疑われているなら分かるでしょう。鬼は、陰陽師の力を手に入れたいんです。土御門家の陰陽師を先祖代々引き継がれてきた迅の力は喉から手が出るほど欲しがります。鬼の力の妖力が上がるとともに、不老長寿と噂されてきました。目的を達成するために自ら陰陽師の力を手に入れて近づきました。あと少しでというところで命を奪われてしまいましたが、あとは酒杏童子様に任せるだけですね」

「……酒杏童子??」


 血相を変えて、九十九部長は驚いていた。霊感はないが、妖怪の存在は様々な本を読んで勉強をしていた。鬼の中でも最強の力を持つ者に陰陽師の力を与えたら大変なことになるだろうと察する。


「鬼柳さん?」

 幽霊よりも恐ろしい顔をして、九十九部長はあることを思い出す。生前に弱みをかなり握られていた鬼柳は、迫りくる九十九部長の思いに素直に聞き入れる。この時ばかりは、何故か霊体にものすごく近づいていた。


「……九十九部長、まさか、俺の霊体を?」

「鬼柳さん、断ることはできないわよねぇ?」

「……はいー、仰せの通りに」


 霊体でありながら、背筋が凍った。鬼柳は、酒杏童子より九十九部長の方が恐ろしいんじゃないかと思えて来た。


 木の上で翼を休めていた迅の式神の烏兎翔が月に向かって鳴いていた。雲が晴れて綺麗に輝いていた。

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