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第60話 鬼柳の真実 肆

 白狐兎は、足をぶるぶるさせて、殺気立つオーラが後ろから発してるのを見逃さなかった。ブロック塀にたたきつけられた赤鬼の姿の鬼柳は体中に傷を負った。その横を大きなそして体から発する混沌したオーラを発したものがやってきた。素手で鬼柳をたたきつけた迅は、やり切ったと気を抜いていると、身震いをした。人間であれば、誰もが恐れる鬼の中でも最強の酒吞童子が現れた。おどろおどろしい空気が漂う。無意識に白狐兎は膝を地面につき、こうべをたれていた。酒吞童子の術の影響だ。迅は、頭から背中にかけて大量の汗が流れていく。無意識だった。


「よう、覚えているか。何年前の話のことだろうか」

 酒吞童子は迅の顎をくいっとあげて、顔を拝む。


「かなり成長してるな。わらわはこの時を待っていた。お前の力を奪う時が」


 顔を思いっきり振りはらい、酒吞童子の手をよけた。その一瞬だけで怒り心頭になる。空気は重い。ケガをして倒れていた鬼柳がむっくりと起き上がる。軽傷で済んだようだ。回復術ですぐに修復している。鬼柳は、息をのむ。


 迅の体は、目を話した瞬間に酒吞童子の強力な術で、数十メートル先の壁に投げ飛ばされていた。ブロック塀はぼろぼろに砕け散り、迅は地面に吐血した。


「ぐはぁッ!」

「そうやって、妾に歯向かうからだよ。土御門迅。大人しく、妾に力を授けよ。そうしなければ……」

「……しなければどうだって言うんだよ」

「妾に捧げないのなら、お前の命はないだろう。さぁ、どうする」


 じりじりと迫りくる酒吞童子に迅は後ずさりして、膝をついて、右腕をあげた。


「あんたに力を預けるくらいならこの命。先に自分の手で奪うのみ!!!」


 迅は、邪悪な闇の力を持つ最強の酒吞童子に陰陽師の力を預けるくらいなら、ここで終わらせた方がいいと考え、自ら、腹に指をあて、術を唱えようとした。


「やめろーーーー!!!」


 白狐兎は永遠のライバルと言えども、迅の命だけは失ってはいけないと考えた。急いで、迅の腕を抑えるや否や、酒吞童子は両手を広げ、術を唱えようとした。後ろには、時空金剛鬼の姿が現れた。眩しい光が輝き始める。みな、目が眩んで身動きが取れなくなった。時間の歪みが発生した。あたり一面がセピア色に変化し、時間が止まってしまった。時空金剛鬼の術だった。あとちょっとで迅の体が術により、負傷するんじゃないかというところで、時空の中を素早く動くものがいた。迅の目の前にはこれから技をかけようとする酒吞童子の手がある。その横で迅は、自らの腹に術を唱えようとしている。その間に赤い鬼の大きな姿になった鬼柳が移動していた。どちらの行動もとめようと両手でがっちりおさえた。セピア色からフルカラーに戻った。現在に時が移動した。


「な、何が起こったんだ?!」

 時が止まり、元に戻った瞬間、頭を垂れていた白狐兎は慌てふためく。

 迅と酒吞童子の間に鬼柳が急に現れていた。2人の間に入って止めに入った。体が傷だらけになっている。


「貴様、何をしている」

「先輩、あんたはどっちの味方なんだ」

「……争いが嫌いなだけですよ」

 鬼柳は迅の持っていた札を破り捨て、酒吞童子の腕をがっちりつかんだ。


「貴様、妾を裏切るのか」

「いえ、そんなことは……ぐわぁ」

「先輩!!!!!」


 酒吞童子は、止めにかかった鬼柳の腹に細く鋭い爪をあてて奥深くまで差し込んだ。これから迅の力を吸収して、さらに力をためようとするところを止めにかかろうとする。その行為は許されることではない。裏切り者だと判断して、鬼柳の命を奪った。問答無用で容赦はしない。赤い鬼の恰好と言えども、元はバディを組んだ刑事の鬼柳兵吉。まさかここで死ぬんじゃないと迅は心配して、投げ飛ばされた鬼柳の体を受け止めた。どくどくと心臓が必死で血液を送り込んでいる。お腹からは、大量出血していた。自分の袖口のシャツを破り、止血を試みた。だが、血はとまらない。鬼でも赤い血が流れていた。


「どいつもこいつも、妾を裏切る。お前らは許さない!!」


 酒吞童子の目が恐ろしく黒光していた。後ろには、見たこともない邪悪な念で広がっている。迅は、酒吞童子の暴走が始まったと察する。腕で支えている鬼柳の命は微かな力だ。


「先輩、俺は過去との対峙をしてこないといけないみたいだ」

「いいんだ。俺のことは気にするな。どうせいつかは皆、死ぬ。早いか遅いかだけだ」

「当たり前のことを言うな。今から改・鬼柳との対決楽しみにしてたのによ。なんで殺されるんだよ。バカか、あんたは」

「先輩をバカ呼ばわりすんじゃねぇーよ。ちくしょ。ぐはッ」

「そんだけ喋れば、まだ生きるだろ。寝ててくれよ、生きて。俺はあいつを倒さないといけないだ。俺の闇を広げたバケモンだ」

「…………」

 何も話さなくなった鬼柳を背に、迅は、新しい札をズボンから取り出した。


「白狐兎! お前も参戦しろ!!」

「い、言われなくてもそうするつもりだった……」

「逃げ腰が!! あいつの気迫に負けてんじゃねぇぞ」

「うっせー」

「行くぞ」

「言われなくても」

 2人は、態勢を整えて、邪悪な念を背中に広げた酒吞童子に立ち向かって行った。










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