四神に取り囲まれた鬼童丸は鬼柳の防御があることによって、命は助かった。頬に多少ケガをしたくらいだ。守った鬼柳は体を負傷して、吐血している。無理に走り込んで間に入ったからだろうか。震えた鬼柳の肩に鬼童丸が触れた。
「よう、やってくれた。あとはわしが……」
「いえ、鬼童丸様は下がって見ていてください。私の本来の力を貴方にお見せするのを楽しみにしておりましたから」
その言葉を聞いて、鬼童丸の気分が高揚した。一体何が始まるんだろうと、迅と白狐兎は生唾を飲んだ。空中に浮かぶ、迅が召喚した四神は鬼柳の上でぐるぐると周り始めた。鬼柳は口から出た血を拭うと、天高く両手をあげて、野太い叫び声をあげた。
「ぐううううおおおおおおおーーーーーー」
迅は今まで見てきた鬼柳兵吉という人間はなんだったのかと目を見開いて驚いていた。白狐兎は恐れのあまり、何本のものの矢を手のひらから召喚して、地面に置いた。今は何か行動していないと落ち着かない。目を話した隙に人間だと思っていた鬼柳の体がみるみるうちに筋肉ムキムキと赤い鬼へと変貌を遂げた。
「やっとこの姿になれて、身も心も何だか清々しいですよ。人間の姿は邪気が多くて……」
鬼童丸は浮足だって子供のようにジャンプし始めた。体が大きいため、跳ねるたびに地震が起きる。
「さーて、こっからどうする。2対2で公平だけど、強さはわからねぇぞ」
「ささっと動かないとやられちまうぞ」
先に動いたのは白狐兎の方だった。何本出したかわからない矢を着物の帯のところに差し込み、まずは1本の矢を鬼柳ではなくあえての鬼童丸に向けて放った。
≪かまいたち≫
矢とともに地面から強い風が渦を作って沸きあがる。何の効果もないようで、笑う鬼童丸だった。迅は、鬼柳の上でだんごになってもつれあう四神たちに指示を出す。いつの間にか誰が先に出るかと喧嘩していた。
「おいおい、今から戦いだって言うのに何を喧嘩してるんだ。やるぞ!」
迅の言葉にどうにか落ち着いた四神が仕切り直して態勢を整えた。
≪青龍・青天の霹靂≫
迅は右腕を振り下ろすと、青龍は天空の力とともに雷を何度も振り下ろした。あらゆる地面に大きな地響きとともに攻撃する。鬼柳は、負傷しつつも、身軽に交わしていく。本来の力を手にすることができたせいかいつもより力が倍増していた。
「軽い軽い!」
「ちくしょ、ほら、次、行くぞ」
迅はたちうちできない攻撃にイラ立ちを隠せない。四神に声をかけるが、次はだれかまだ決めてなかったようだ。白狐兎は自分の中で最強と思っている狐火を召喚した。地面に緑の魔法陣が浮かび上がり、中央にリラックスした狐火が現れた。これから戦闘というときに不安で仕方なくなる。
「師匠、行きましょう」
白狐兎は狐火を崇めているようで頭があがらなかった。やっとやる気が出た狐火は体をしゅわっと逆立てながら大きくして、ゆっくりと鬼童丸に近づいた。ペットのようにかわいがった鬼童丸は終始笑ってばかにしていた。猫のように撫でられて喜んでいた狐火は、くわっと大きな口を開けて、不意に鬼童丸の腕をかみついた。かみついた口から炎が巻きあがり、これでもかと熱い炎を送り込む。炎に弱い鬼童丸は真っ黒くこげて、ばったりと体を倒した。
「鬼童丸様! まだ生きてます。しっかりと」
「ぷはぁ、丸焦げで豚になりそうだ。早くあいつらを片づけて向こうに行くぞ、鬼柳。影虎、酒杏童子様に報告しろ!」
鬼童丸は、近くの電線で休んでいた式神の影虎に声をかけた。何も言わずにバサッと翼を広げて飛び立った。
「俺らがここでへこたれると思うなよ!!」
迅はもうどうにもなれと近距離攻撃で手のひらから霊剣を生み出し、力いっぱい振り上げた。鬼童丸に気を取られた鬼柳は肩に傷がついた。
「よくもまぁ、平然と攻撃ができるな」
鬼柳は肩にあたった霊剣をにぎりしめて、持ち上げ、地面にたたきつけた。そこへ、さっきまで喧嘩していた四神の玄武が空中を飛んで鬼柳に襲いかかった。蜷局を巻いた蛇と亀の硬い甲羅が効き目があったようで、ガンと体が横に倒れていった。
「ハハハ、いつもの先輩だわ」
「うっせー」
横に寝ころびながら、つぶやく鬼柳をしゃがんで見つめる迅は、容赦なく、鬼柳の額に札を置いた。
≪オン・アビラウケンソワカ≫
呪文を唱えるとすぐに神々しい光に鬼柳の体は包まれた。やっとこれで、戦いが終わるそう思った時、鬼柳は持っていた札を指で挟んで、目をつぶりパチンと念じた。迅の力が遮られ、額に貼っていた札が破られた。
「甘いな……。術使いに効くわけないだろ」
「な?! なんだって」
迅は強力な術を唱えたつもりだった。まさかの術破りをされて、ショックを覚える。
「これだから無能は……」
迅は、わなわなとこぶしが震えて、思わず、鬼柳の頬を殴った。
「術関係ねぇーーー!!」
鬼柳の声がエコーがかかる。想像以上に体が遠くに吹っ飛んだ。
まだまだ戦いは終わらない。白狐兎の足はぶるぶると震えていた。