ムキムキの筋肉質の鬼童丸は、手を頬の横に置き、自分の手についた血をなめた。赤くドロドロとした血がまとわりついていた。執念深い鬼一口の血だ。自分の手についていることに違和感を覚える。
「今度はわしが相手してやろう。誰が先か……」
一気に辺りの気がぐわんと強くなる。迅と白狐兎はこめかみがズキズキと痛み出す。力を制御するのが難しい。額に筋が入る。
「気をつけろ」
これまで心配などしたことない白狐兎は恐れおののいた。次殺されてしまうのは自分じゃないかと不安がよぎる。生唾を飲み込んだ。
「お前らしくない。よわぁ」
人差し指2本で白狐兎をバカにした。白狐兎は迅の言葉にぶち切れて、もう何も言わなくなった。札を取り出し、目を閉じて念を唱える。いつもの調子を取り戻したと迅は笑みを浮かべる。
≪結界≫
大きな円を描くように守りを固めた。攻撃を半減できる。それでもなお、白狐兎は珍しく守りに入っていた。
「ガンガン行こうぜ」
「ゲームじゃないんだぞ」
≪カンナガラ タマチハ エマセ≫
迅は、手を合わせて、2回唱えた。
「おいおいおい。困ったときの神頼みか?」
「大事なことだ。よし、やるぞ」
深呼吸して改めて、気合を入れる。地面の魔法陣の上、札を顔の前で差し出す。
≪
今までに無いくらいの強い念が迅の周りをまとわりつく。四神の青龍・白虎・朱雀・玄武は、天の方位をつかさどる。東に青龍、南の朱雀、西に白虎、北に玄武が召喚された。あまりにも強い念に迅本人も立つのがやっとだった。いざ、これから四神が一気に攻め入ろうとしたとき、鬼童丸はどんな戦いが待っているだろうとわくわくしていたが、予想外なことが起きた。青龍の大きくごつごつとした体、口から吐き出した朱雀の炎、白虎の鋭い爪、地面を揺るがす玄武、すべての力が今まさに鬼童丸の体に当たろうとした。だが、それは叶わなかった。
そう、鬼柳兵吉が鬼童丸を守りに入った。迅が攻撃した四神の前に立ちはばかった。強烈な攻撃をもろに受けて、吐血した。
それ以上に迅と白狐兎は、鬼柳の行動に目を疑った。鬼柳の式神のカラスの影虎が、近くを飛んで、ごまかそうとしたが、ごまかしきれていない。無理に等しいだろう。影虎も鬼柳のまさかの行動に驚いていた。迅の式神の烏兎翔は電柱の上で周囲に全く興味がなく、羽根を整えていた。
「先輩、一体……何をしてるっすか……」
鬼柳の信じられない行動に迅の頭が真っ白になった。目の前にいる人は違う人なんじゃないかと疑った。
どこからともなく吹く冷たい風が通りすぎた。