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第56話 鬼柳の秘密 七

 どこかで見た景色。ドアの向こうから冷たい風が吹く。体がぶるっと震えた。少しずつ夏が終わりを迎え、冬に近づきつつあった。迅の部屋のドアは完全に壊れていた。


「土御門!!! 着信を無視するんじゃねぇぞ」

 怒り心頭の鬼柳が入ってきた。時間が朝じゃないかと勘違いする。今は午後5時。まもなく、日が沈む時間だ。仕事も終わる時間に珍しく、ピリピリとした鬼柳がやってきた。


「せ、先輩。どうしたんすか。急に……すいません。スマホの電池が今切れたところで充電します」

「あぁ?! 今から充電ってどういうことだよ。まだこっちは仕事が残っているんだぞ。今、駅前のファミレスで妖怪が増殖してるんだぞ。何、さぼってるんだ!!」

「増殖?! なんで、俺、そっちの念に気づかなかったんだ……」

 気を集中させると、こめかみの部分が痛くなるくらい念を体中に感じた。心咲は、自分のせいだと申し訳なく思い、ぶるぶると震わせていた。鬼柳の怒りにビンビンとネガティブオーラを感じていた。


「ごめんなさい。私のせいかもしれません」


 手を合わせて、鬼柳に泣きながら謝った。きょとんとした顔をして、迅の耳をつまみながら、心咲を見る。


「貴女のせいではありませんよ。仕事をしないこいつのせいです。お気にならさずに……」

「はぁ、そうですかね」

「いたたたた……先輩、耳痛いっす。やめてください」

「いいから、行くぞ。今、白狐兎くんに頑張ってもらってたから。新しいメンバーも増えていたみたいだけどな」

「新しいメンバー?」


 ズルズルと迅の耳を引っ張りながら、鬼柳は心咲が亡くなったファミレスへと向かう。迅の部屋のドアが開いたままの状態で隙間風が吹き抜けていた。


 霊体の心咲は、2人の様子を見送った後、ふわりと天井を突き抜けて、空をふわふわと浮かび、亡くなった場所のファミレスに何の抵抗もなく進んだ。




 ◇◆◇



「ちくしょ! こいつ、しつこいな!!」


 白狐兎が、何度も青白く光る進化した弓矢を出し、ファミレス前の路上にて迫りくる大量のふたくちおんなの妖怪を何度も除霊するが、どんどん湧き出て、きりがなかった。その両端には修行の身でもある空狐と風狐も微力ながら、指でパチンパチンと除霊していた。ふたくちおんなの霊力はそこまでいうほどの力は強くなかったが、分身の術を使うのか、やられても次から次と増えていく。特に、心咲のファミレスの中、亡くなったテーブルが一番多く発生していた。


「白狐兎~、助けてよぉ。無理だよぉ!」


 風狐は逃げ惑いながら、おびえつつ、何とか1体ずつ除霊していた。空狐は冷静な態度で真剣に除霊していた。


「今、戻ったぞ!」


 鬼柳が式神カラスの影虎の足につかみながら、空からぴょんとジャンプした。迅は致し方なくというような表情をして、烏兎翔の片足につかんでいた。さらに後ろから心咲の霊体が現れるとすぐに白狐兎は表情を変えた。


「お、お前、なんで一緒にいるんだよ」

「え?」


 迅は、見たこともないくらいの怖い顔の白狐兎を見て、驚いていた。迅の頬をすり抜けるのは、白狐兎の青白く光る弓矢だった。後ろから着いてきていた心咲の霊体の右肩に突き刺さる。


「な、何するんだ?!」

「……土御門迅、お前、狂ってるぞ」

「???」


 心咲の霊体はだんだん気が弱く、小さくなっていく。このままでは正常な状態で除霊はできない。迅は、急いで、白狐兎が放った霊矢を外そうとした。


「やめろ、無駄な力を使うな! このふたくちおんなの増殖原因はその女だぞ」

「なんだって?!」


 迅の手が白狐兎の声を聞いても、止めることができず、無意識のうちに弓矢を引き抜いていた。


「うわぁああああああああああーー」


 女性の声が叫んでいくうちに野太い男性の声に変貌する。閻魔様と同じくらいの3mくらい大きさの赤い体の黄色い角を持った≪鬼一口おにひとくち≫が現れた。心咲の霊体にとりついて変貌した。人間を一口で食い殺してしまう鬼だった。口から大量のよだれを垂らして、少し歩いただけでも地面を揺らした。


「余計なことを……」


 せっかくの除霊のための矢を迅の手で引き抜いてしまったため、強さが倍増した。白狐兎は、額に手を当ててうなだれた。鬼柳は、何も言わずに少しだけ口角を上げる。


「ちょっと、大変じゃん。また増殖してるよ~!」 

 風狐が騒ぎ慌ててたくさんのふたくちおんなに囲まれて何度も繰り返し、除霊する。


「…………」

 空狐は喋る暇もなく、汗を大量にかきながら必死で除霊していた。


「来るぞ」

 白狐兎は、腕をふりあげた鬼一口の前で体制を整えた。迅も続けて、札を用意する。鬼柳は、少し離れたところから1人タバコをふかしていた。


 遠くの方でパトカーと救急車のサイレンが鳴っていた。









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