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第52話 鬼柳の秘密 参

 がやがやとお客さんの会話で騒がしくなっていたのは、ドリンクバーが常駐しているファミレスだった。ボックス席に4人座っていたのは、高校から同級生同士の集まりだった。


「ねぇねぇ、何食べる?」

 佐野華愛さのゆなが、テーブルに置かれていたメニューを2枚中央に広げた。バックをソファにそれぞれ脇に置いて、次から次へと話題が途切れなかった。会えなかった5年を埋めるように思い出話から始まった。


「最近、高校行った? エンカツって先生いたでしょう。あの人、定年退職したらしいよ」


 そう、話を切り出したのは、吉村優菜よしむらゆうなだった。


「え?! エンカツって遠藤勝弘えんどうかつひろ?」


 目を大きくしてびっくりしたのは、坂田七海さかたななみだった。


「そうだよ、知らなかったの?」


 河岡心咲かわおかみさきは顔をにょきっと出して言った。


「ちょっと、ちょっと。メニューそろそろ決めようよぉ。お腹空いたよぉ」

 佐野 華愛が少しイライラしてきた。一番リーダーとして仕切り屋になるポジションだった。話が途切れないのを止めるのが、いつものお役目だった。


「よっ! さすがはリーダーの華愛だね」


 吉村 優菜はいつも話したがりで空気を読めない。また話題を振ろうとしたが、河岡 心咲が口を塞ぐ。


「ごめん、次々決めちゃお。この子、話がとまらなくなるから。急いで」

「むぐむぐ……」

「心咲も相変わらずだね」

「そうそう、いつも止める役」

「みんな変わらなくて安心する」

「ちょ、ごめん。私ここのレストランで食べられるの無いかもしれないよ」

「そうやって、食べ物の心咲のこだわりも前と一緒」

 笑いながら、華愛は心咲を指さす。学生の頃となんら変わりないメンバーだった。


「だって、アレルギーあるわけじゃないんだけど、見た目で受け付けられなかったら、おえっと吐いちゃうんだよね。みんなが美味しいと言ってたとしても……。かろうじて、このサラダは行けるかな」

「ポテトサラダやん。誰が、それだけ食べるのよ。好き嫌い激しすぎ。おふくろの味やん」

「だってー……」

「仕方ないよ。みんな集まって食べられるだけでもよしとしよう。はい、心咲はポテトサラダね」


 ブツブツ言いながら、お店のチャイムを押す。華愛が仕切って、店員が伝票を持って来ると、次々とみんなメニューを確認して注文する。その間、他の3人は恋バナで盛り上がる。1人だけ抜けていて寂しい思いを少しだけ感じていた。このメンバーのリーダーはこういうものだと割り切っていた。


 数分後、それぞれ注文したメニューがテーブルに置かれた。


「ご注文のお品は以上でよろしいですね」

「はい。大丈夫です」


 この店員の返事もいつも華愛だった。背中に暗雲が立ち込める。ネガティブなオーラがわき出て来た。じわじわと迫る霊感のあるものしか見えない灰色のオーラが、隣の心咲にうつった。

 ポテトサラダをちびちびと小さいスプーンで食べていると、背中から大きな手が2本現れた。

 後頭部にもう一つの大きな口があり、テーブルに乗っていた食べ物を全部両手で持っていこうとしていた。霊感のない者にはハンバーグやピザ、ステーキなどの食べ物が空中に浮かんで、消えていくのが見える。それを心咲にはなぜか何も見えていない。


「「「きゃーーーーーー」」」


 河岡 心咲以外の3人は悲鳴を上げて、逃げ回った。


「え?! みんなどうしたの?」


 心咲の一言であたりは一層恐怖に見舞われた。霊感の強いホールスタッフの熊谷 麻美くまがいあさみは恐怖のあまり持参していた数珠を何度もこすり合わせて、体を震わせていた。

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