赤鬼が鬼柳と迅に襲いかかってくる隙間に、白狐兎がスライディングで割り込んだ。手のひらから緑色に光る霊剣を取り出して、赤鬼の首に目掛けて、きりかかった。判断が遅かった2人は白狐兎が赤鬼にとどめをさした瞬間を目の当たりにした。先に倒されたことが悔しくて、地団駄を踏む迅に、ため息をつく鬼柳だった。迅の肩をポンポンとたたくが、すぐに払いのけられる。
赤鬼の首は霊剣により、切られ、首が床に転げ落ちた。すると、みるみるうちに砂のように消えていった。
「ちくしょー……。俺が倒そうとしたのに」
「判断が遅かったな……迅。俺の勝ちだ」
白狐兎は迅の横を通りすがる。ケガ1つしない白狐兎はすっきりとした顔をして割れた窓から飛んで出て行った。どこか懐かしい雰囲気を思い出す。一瞬、過去の記憶が脳裏に映し出されたが、思い出せない。
「土御門、あいつの勝ちだな。残念だったな。まぁ、サバでも食いな」
「俺はサバアレルギーだ!」
バシっと鬼柳が持っていたサバを床にたたきつけると少し濡れた床を滑って行った。
「ちょっと!!! 鬼柳さん!! ドア開けてもらっていいですか?!」
だんだんと大きな音をたてて、ドアをたたく九十九部長の声が聞こえた。鬼柳はぐすんと涙を流しながら、床に滑っていったサバを拾い上げて、ドアを開けた。
「すいません。お待たせしました。今、鬼を追い払いましたので、ご安心ください」「どうして、私たちをドアの外に追い出したんですか! デスクに大事なスマホを置きっぱなしだし、何が鬼を追い出したって、目に見えないんだから分かりません!!」
「そ、そんなこと言われましても、俺たちの仕事って除霊なんじゃないですか? ドアのプレートに詛呪対策本部って書いてるじゃないですか」
鬼柳は、ブツブツとドアの外側についていたプレートを指さしたが、誰も聞いてはいない。散らかったデスクや床に落ちたパソコンモニター、濡れた床の掃除を始めている。
「誰も聞いちゃいねぇ……」
ぐったりとうなだれた。手に持っていたサバの目はキラキラと輝いていた。
「味方は君だけだ。サバちゃん」
頬を摺り寄せて、サバを愛撫した。サバのうろこに当たっても平気なようだ。
九十九と迅、大津、大春日の4人は散らかったフロアを黙々と片づけ始めた。鬼柳だけ単独行動でサバをクーラーボックスに入れて、外に出ようとする。
「鬼柳さん!!」
九十九部長は叫ぶ。
「どこに行くんですか?」
「えっと給湯室の冷蔵庫にこれを入れに行こうと思ってました」
「そんなの後にしてもらえますか? どのくらいの弁償金になるかわからないんですから」
「??? え、それって誰が払うんです?」
「…………」
九十九はにこっと口角を上げて、笑い出す。言葉を発することはなかった。
「ま、まさかのまさか。俺が払うわけないですよね」
「えへへへへ」
体をのけぞるくらいに笑い出す。九十九の手は鬼柳の首根っこをつかんでいた。
「俺は絶対無理っすーーーーー」
「大丈夫、ベテランさんだから。給料一番高いんですよぉー」
「……九十九部長! こういう時ばかりベテランとか言うのやめてもらっていいですか。俺は、九十九部長の部下ですからぁーーーーーー」
「え、俺は関係ないっすよね」
迅も九十九部長のそばに駆け寄って、確かめる。
「土御門、一番あなたが原因だから、給料から差し引いておきます」
「……マジかよ。聞かなきゃよかった」
「聞かずとも自動的に減る!!」
「え?! 鬼だ。鬼だ。九十九部長は先輩よりも鬼だ!!!!」
「鬼は鬼柳さんです」
「……いーーーー。腹立つ。どうにか天狗と鬼を倒したのに!!」
「見てません。わかりません」
九十九部長はうまい具合に経費の手続きをしない方向を狙う。誰も信じてくれない窓ガラスの破損の原因。どうやって経費で落とすというのか。苦労を知らずにして、額に筋を作る。動画に撮っても映るわけもない。証拠も取れない。どう頑張っても迅と鬼柳、不法侵入者の白狐兎しか映らない。九十九にとっての悩みの種だった。
「報われねぇなぁ……」
あぐらをかいて、頬杖をつく。部屋の片づけをする気もない。そんな中、大津と大春日はああでもないこうでもないと掃除をてきぱきとこなしていた。