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第45話 鼻高々の天狗 弐

 真っ赤な体の天狗は、黒い翼をバサバサと動かして、森に向かって飛んでいた。飛行能力、分身術、天候を操る能力、人の心を読むというたくさんの能力を持ち合わせている。迅の考えていることも把握し、数十メートル先で烏兎翔の足につかんで飛んできているのに気づいていた。


「おいおいおい、逃げるの早くないか。追いつかないぞ。烏兎翔、急げよ」

「無理言うな。これでも早くしてる!! 文句があるなら地上でジャンプして行け」


 ご機嫌ななめになった烏兎翔は、ちょいちょいと足を動かして、迅の手を振り払った。不本意に手が離れて、地面落ちそうになるが、念を唱えて、風を起こした。


「ちくしょー、まったく、ポンコツ式神だなぁ」

「なんだって!」

「いえいえいえ、とても素敵なカラスです。いえ、いや、本当。最高ですね。頭脳明晰で」

「ふん!!」


 機嫌を悪くしたまま空高く飛んでいく式神の烏兎翔は迅を見放した。


「俺、1人でも平気だし」


 強がりながら、涙が出そうになる。本当は寂しくて1人になるのが苦手だったが、強がった。式神がいるだけで敵のステータス情報を得られたり、札が切れた時の能力回復も可能だった。デメリットがあるが、仕方ない。


「よそ見すんなよ」

 ボソッと耳に入って来た言葉だった。天狗は、持っていた扇子を仰ぐと大きな風が吹き荒れる。森からたくさんの木の枝が凶器のように迅に向かって飛んできていた。青白く光る弓矢が枝に何度も放たれた。顔ぎりぎりに当たらずに済む。


「助かった……」

「弱すぎんだよ」


 木の上の方で弓矢を放っていたのは白狐兎だった。


「調子乗るなよ? 天狗はレベルが違うんだ。お前に倒せない」

「はぁ?! 馬鹿にすんなよ。俺の力、見せてやるって」


 地面に大きな魔法陣を浮かばせた。ズボンのポケットから札を取り出し、力を込める。


雷槌いかづち・弐」


 迅の瞳と手のひらは金色に光り出し、地面から風が沸き起こる。札を掲げて、雷槌が何度も天から放たれる。ひょいひょいと身軽に天狗は避けていく。扇子を仰ぐと、灰色の雲がどんどんと空に集まってくると一瞬にして雨が降り始めた。バケツをひっくり返したような雨が降って来る。洪水になりそうだ。迅と白狐兎は、木の枝にジャンプして、水たまりが川になりそうになるのを見届けていた。


「ゆっくり眺めている場合か?!」

「来るぞ」


 赤天狗は、翼を大きく広げてこちらに近づいてきた。扇子を振り回すと、森の中で休んでいたクマやミツバチ、リス、いのししが赤天狗の魔力により、赤い目で襲いかかって来た。烏兎翔がいない迅は、走って逃げることしかできなかった。


「やだやだ!ぜってーー蜂には刺されたくない!」

 腕を大きく振って走って逃げる迅。地面を高く術でジャンプしながら逃げる白狐兎は空中で魔法陣を描き、札を握った。


『改・朱雀』


 空高くから、体の大きな赤い鳥の朱雀が豪快に現れた。迅と白狐兎に近づいていた動物たちは怖がって逃げていくが、蜂だけは、気にせず、迅の体にちくちくとさす。


「痛い痛い痛い!! なんで俺だけさされるんだよ。ちくしょーーー」


 朱雀は、大きく翼を広げて、赤天狗に勇敢にも向かっていくが、状況が読まれているせいか、どうしても近づくことができない。


『炎舞』


 白狐兎は朱雀に指示を出して、口から赤天狗に炎を出した。簡単に避けられてしまう。舌打ちをして、朱雀を手放した。朱雀は、天高く、飛んで消えていった。


「あいつには勝てない」

「蜂にさされた俺は無視かよ」

「…………」

 白狐兎は面倒な顔をして、手のひらを迅に向けると緑色の光で蜂にさされた体が徐々に回復していった。


「案外優しいとこあるんだな」

「……俺が最強だからな」

「一言、言わなければ可愛いのにな」

「…………」

「次は俺のターン。いっちょかましますかぁ」


 ぽきぽきと指を鳴らして、仕切り直す迅は、札を顔の前に出して、術を唱える。


急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう


 迅は唱えるが、何も起こらない。雨が降り続けるだけだった。


「あ! 烏兎翔がいない。あいつがいないといけない技だった」

「最悪だな」


 赤天狗は扇子を仰ぐと、雨風が強く吹き荒れた。あまりにも強くて、立っていられないくらいだ。迅と白狐兎は、近くにあった木にしっかりとつかまり難を逃れた。


「どうすれば……」


 なかなか倒せない赤天狗に2人は困り果てていた。今はただただ、攻撃を避けることだけしか考えていない。体力が消耗されつつある。


 赤天狗は面白がって、次々に扇子を仰いでは風をおこしていた。

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