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第43話 神隠しが発生する 六

 ざわざわと賑わう高校の昇降口、迅の中に憑依した駿がいつもとは違う様子で肩にバックをかついで、歩いているとさらにざわついた。


「ねぇねぇ、あの人、何年?」

「髪色、銀色じゃない? 今日、風紀委員の日じゃないけど、あんなに色抜いていいの?」

「ちょ、ちょっと、恵美!! 見てよ。かっこよくない?」

「なぁ、あれ、おっさんじゃないか? 年齢不詳?」

 通りすがりの生徒たちが迅の姿を見るなり、指をさしてどこの学年だ、どこのクラスだと騒いでいる。


(やっぱ、この人に憑依してよかったわ。みんなして俺を見てる。今まで、幽霊みたいに素通りする人多かったのに、こんなに注目されるなんて、最高だなぁ)


 にやにやと顔を緩ませながら、いつもの靴箱に自分の外靴を入れて、上靴を履こうしたが、何も入ってなかった。空っぽだった。自分自身はここに存在してはいけない。もうこの世には存在してなかったことを思い出す。水晶の中に閉じ込められた迅の霊体は、未だにあぐらをかいてため息をつく。


「ちぇ……俺の体使っていいお身分だなぁ。まぁ、それで満足して上に帰ってもらえばいいけど?」


 駿は迅の体に憑依したまま、鼻歌を歌って、スリッパを履いて、教室に向かう。亡くなったのは数週間前だが、懐かしい。またこうやって、学校に通えるなんてと喜んでいた。あんなに人生に悲観して死にたがっていたのに、本当は学校が好きだった。廊下の手すりにつかまって学校新聞を読んでみる。ぞろぞろと近くに学校生徒たちが近づく。


「あ、あの~……。何年ですか?」

「……?」

 本当の自分じゃないことにちょっと悲しかったが、笑ってごまかして、首をかしげて、逃げた。もちろん、女子たちは追いかけて来る。


(囲まれるのは、マジ勘弁!! モテるっていいなって思ってたけど、女子が怖いぃぃぃ~~)


 駿は、背の高い女子、体格のいい女子、胸の大きい女子、陰キャラ、ギャル様々な女子に囲まれて、嫌気がさしてきた。モテるのはいいなってここで好かれるような対応だなんて、面倒に決まってる。階段下の倉庫に慌てて、隠れた。追いかけてきた女子たちは憶測で屋上に行っただろうと階段を駆け上がって行った。静かになったところでバタンと倉庫の扉を開けて、頭にホコリをつけて外に出ると、見たことのある女子が1人本を持って立っていた。


「佐々木……沙那……」


 思わず、声を出してしまった。駿の幼少期からの付き合いのある女子だった。近所に住む幼馴染だ。高校になってからお互いに同じ学校だったことは知っていたが、話したことはない。なんで、初対面なのに名前を知っていたのか気持ち悪くなって、悲鳴をあげて、逃げていく。沙那はかっこいいとか全然興味がなさそうだ。何だか、複雑な気分だった。せっかくかっこよくなったのに、どうして、逃げられてしまうんだろう。これは本当の自分だった会話できたのだろうか。今は、一緒のクラスではなかったため、お互いに話す機会もなかった。でも、名前も知っていて、容姿も分かる。生きていたら、過去の思い出も話すことできただろうなと後悔する。別に付き合ってるわけでもない。望みがあるわけでもない。


≪おい……どうしたんだよ≫


 ずっと立ち止まる駿は、迅の声が頭の中に響いた。霊体から駿に念で送り込んだ。


「あ、すいません。今の自分には、かっこよさはあっても揺るがない何かがあるみたいで……本当の自分の方が良かったかなとか思っちゃいました」

≪……戻るのか。戻るなら、俺は願ったり、叶ったりだ≫

「まだやめておこうかな。とりあえず、教室に行きます」

≪受け入れられるのか? 俺の体で?≫

「確かに……来てみたものの、結局自分ではないし、あんたになったところで、変わらない。帰りましょう」

≪分かった。もう一度、お前の姿でやってみろよ≫

「え、そんなことが?」

≪肉体じゃないけどな?≫

「え? どういうことですか?」

≪まぁ。なんとなく感覚で分かるさ≫


 迅は手ひらを合わせて、念を唱えた。風が床から沸き起こり、迅と駿の霊体は瞬間移動して入れ替わった。水晶の中に今度は駿が閉じ込められた。


≪え、これって罠?! 俺、閉じ込められた≫

「違うっつーの。さっきの女子が気になるんだろ。俺に任せろ」

 ズボンのポケットから二本の指で札を取り出し、目をつぶり念を唱える。


 すると、窓も開けてないのに風が沸き起こり、水晶の中にいた駿が学校の廊下に霊体が移動していた。両足が透けている。ふわふわと浮かんで、佐々木沙那が廊下の窓の外を覗いていた。そっと近づく。霊感がない沙那は姿が見えなかったが、風が吹いて、スカートが揺れた。すっと、嗅いだことのある匂いがした。


「ん? あれ、駿の家で飼ってる猫の匂いがする」

 髪をかきあげると、迅が廊下を歩いていた。目をこらすと、ぼんやりと駿の上半身だけ浮かび上がった。


「……駿?」

 何を話すかなんて決めていない。にこっと微笑むことしかできなかった。怖がる様子を見せずに、体に触れようとしたぱっと消えて、風が強く吹いた。


「菅原 駿……あんたに会いたかったらしいよ」


 ボソッと迅は話す。沙那は、口角をあげて表情を緩ませた。


「さっきの駿だったんですね」

 霊感がなかったが、沙那じゃ勘が鋭かった。


「ああ、そうだ。俺じゃない」


 沙那は、屋上が見える中庭を窓から見ると、一枚の葉っぱが舞い上がった。最期に沙那に近づけて良かったと安心して成仏して行った。沙那はきっと駿が行ったんだろうと手を振って、別れを告げた。


 想像と違った終わりに納得できなかった迅はラウンジで電子タバコを出そうとしたが、通りかかった女性教頭に注意されて、学校生徒でもないのに停学処分になった。校長先生の説教が延々と続く。成人なのになんでこんなに目に遭うんだと、九十九部長に電話して迎えに来てもらおうと思ったら、出なかった。鬼柳にもしたが、コールし続ける。


 誰も助けに来なかった。いくら、警察手帳を見せても高校生と信じられてしまう。若く見られたくないとこの時だけは思った迅だった。


(ちくしょーーーーー)


 学校の屋上にあるカザミドリには何もすることなくてラッキーと思っていた烏兎翔がいた。


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