迅の体に憑依した駿は、いつもの通りに自宅に向かう。家族は、迅の体にびっくりして、どうして自宅の中に平気で知らない人が入って来るのか、追い出そうにも言うことをきかない。力が強い。
「どちら様ですか?! 勝手に中に入るなんて、警察呼びますよ!!!」
菅原駿の母親、亜希子は、迅の体を押して、外に追い出そうとする。母であるはずだと思っている駿は、迅に入っていることを忘れて、慌てて、ジャケットのポケットに入っていた警察手帳を出した。名前は土御門迅と書かれていた。
「え?! 警察の方?」
「そういうことですので、中に入らせてもらいます」
あたかも警察だと演技をして、ごまかした。玄関横にある全身鏡を見て、自分は駿じゃない体だということを認識する。亜希子は、状況がわからずにつかんでいた手を離した。駿は、自分の部屋に入って、周りを確認する。死んだことがまだ信じられない亜希子は、片づけをしていなかった。そのままの状態で残っていた。
「ここに戻って来られるなんて思わなかった」
独り言をつぶやきながら、椅子に座って、机に向かう。いやいやながら勉強をしていたことを思い出す。顔を机につけて、冷たさを感じた。
「……俺、死んじゃったんだよなぁ……」
迅の体に入った駿は、泣きたくなってきた。水晶の中に閉じ込められた迅は駿の言葉をダイレクトに聞こえる。もう肉体に戻れない悲しみが溢れている駿がかわいそうになってきた。
「死にたくて死んだわけじゃないんだもんな。辛いよな……」
あぐらをかきながら、天をあおぐ。今は閉じ込められて、どうすることもできない。駿の霊体が出ない限り、迅は元に戻れない。
クローゼットに入っている制服に着替えてみた。偶然にもサイズがぴったりだった。
「やった。よし、明日はこの恰好で学校行くぞ」
ガッツポーズをして、駿はご機嫌になった。迅は、まさか駿の制服のサイズが体に
ジャストフィットするとは思わなかった。自分の体が自由自在に使われていることに複雑な思いを浮かべる。
翌日、生きていた頃と同じように自分の部屋で過ごすと、駿の妹がドアの隙間から駿の部屋をのぞき込んでいた。迅の姿で駿の部屋にいることが不思議で仕方ない。住人のように過ごしていることがなぜだろうと見つめる。
「お母さん。あの人、誰」
「う、うん。何か、よくわからないんだけど、警察の人だって」
「え、なんで。夜までいるの? 住んでない?」
「……それが、よくわからない」
亜希子は首をかしげて、妹の陽菜子と話す。迅の中に入った駿は、生きている時と変わらず平気な顔をトイレに行こうとすると、陽菜子と廊下でばったりと目が合った。迅の顔が猛烈に好みだったようで、目がハートマークになり、とろけるように体がくだけた。
「……???」
いつも悪態をつく妹が何も言わずにくたくたになる様子を見て、不思議に思った駿はトイレにそのまま移動する。
「お、お、お母さん、さっきの人誰?!」
「……だから、警察の人だって」
「なんで、ここに?! マジかっこいいんだけど」
「え、あ、そうだった? お母さん、あまりしっかり顔見てないのよね。後で確認するから、夕ご飯作らないと……」
「もう、ずっと住んでもらって良くない? かっこいいし。もう、おもてなししちゃお!!」
「え? なんで? 警察の人……」
「あの!! 夕ご飯食べてってくださいねぇぇ」
どこから声を出しているんだか、駿は陽菜子の声と思えなかった。
「……はぁ」
トイレに出てすぐに陽菜子に手をひっぱられて、食卓に座った。亜希子は急いで、台所に、向かった。迅の体になった駿はいつもより豪華な夕食になっていることに運が良かったと喜んだ。
水晶の中にいる迅は、ぶすっと、機嫌悪く、頬杖をついていた。早く外に出たいという一心だ。