俺には存在価値がない。生きていて何になる。学校に行っても、家に行っても嫌なワードが飛び交う。どうして、ここに生きていなければならないのか。
マンションの屋上で
「俺は、もう決めたんだ」
長い前髪を避けて、こぶしに力を入れるが、気持ちだけで足はぶるぶると震えている。
その頃の土御門 迅は――
「あー……来た来た!! よっしゃー、大量だ」
仕事中にも関わらず、お気に入りのパチスロでジャラジャラメダルが出て来ていた。次から次と数字の7が揃っていく。運がいいとテンションがあがり、アドレナリンがたくさん放出していた。連続で当たっている。鼻歌が自然と出る。
「今日は、高級寿司でも食いに行くかなぁ……あ」
そこへ、仕事の依頼をお知らせに来たカラスの烏兎翔が連続で当たっているにも関わらず、パチスロ台をぶち壊し、迅の背中を両足でつかんで強制連行していった。
「おいおいおい!! メダル……俺のメダル! 当たってるんだよ。20スロットが5000枚! 今日の夕飯、高級寿司がぁーーーー」
烏兎翔は迅の言葉を理解していない。今はお金でもスロットでもない。妖怪が出たところへ迅を連れていくことが任務。それだけしか考えていない。何をしようが、何を言おうが、無視。問答無用でパチンコ店の窓をぶち壊して、迅を連れていく。また修理費用がかさむ。烏兎翔につかまれながら、涙がとめどもなく、滝のように流れていく。
「お、俺の……金。終わった……」
「任務遂行が先だ」
「へいへいへい……分かってますょーだ。ちくしょ……」
◆◇◆
「これは飛び降りですか?」
鬼柳兵吉は、現場にいた巡査部長 斎藤慎也に聞きだす。1人の男子高校生が路上に倒れているのを通行人の会社員の男性が見つけた。
「そうですね。マンションからの飛び降り自殺とみて、間違いないでしょう」
「あーー、あれですか。結構高いっすね。よくも、まぁ、あんなところから飛ぼうと思いましたよね」
「よっぽど辛いことがあったんでしょう……ここって何だか名所になってるようなので調べてほしいと依頼がありました」
「え、そうなんですか」
「あの公園にいるママさんからの依頼です」
「はい、わかりました」
鬼柳は誘導されると、公園の出入り口にベビーカーを引くお腹を大きくしたポニーテールの女性に近づいた。話そうとすると、邪魔するように迅がスライディングで通りかかる。
「おい! 邪魔すんな」
「先輩、それ、俺聞きますから」
いきなり仕事モードがオンになる迅に、鬼柳がイライラする。出遅れてきてどういうことだと鼻息を荒くする。営業スマイルで対応する迅に腕組みをしておとなしく待つ鬼柳だった。いい大人が喧嘩しているのはおかしいなと思いながら、依頼人が話し始める。