「け、刑事さん。これ、どういうことです?!」
ⅤTuber星型マカロン王子こと木村芹斗の母、木村美智子は、木村芹斗のネット銀行の口座入金額に目を大きく見開いた。パソコン画面を指さして、手が震えている。売れっ子ⅤTuberは平均月収を約1000万をゆうに超えていた。まさかそんなに稼いでいたとは知らなかった美智子は愕然と膝を床につけた。
「あ、あんなに生きてて意味があるのかと何度も思った息子がこんなに稼ぐ人だったなんて、もっと早くに知っていれば、あんな対応しなかったのに、どうして、どうして!!!」
顔を手を覆って泣き始めた。横に座って、背中を撫でる鬼柳をよそに地下室の端の端で、迅は、死んだ芹斗の霊につかまっていた。
「やっぱり、母さんは俺の事死んでもいい人間ってずっと思っていたんだ。すっげー、がっかりだ」
「あんたさ、成仏できないのって親孝行をしっかりしてこなかったからじゃないのか。お金たっぷりと残したところで親は納得してないと思うぞ」
「……まぁ、確かに。んじゃ、刑事さん。母さんに伝えてくれよ」
「俺の仕事はいつもこれだけどさ……」
両手を挙げて、呆れる迅は、芹斗の想いを聞いた。すぐさま美智子に伝言する。
「芹斗くんのお母さま。今、芹斗くんから伝言を預かりました」
「え。芹斗が? 私に? 近くにいるんですか?」
泣いていた顔を上げて、迅の方に顔を向ける。
「ええ、そうです。芹斗くん、生前はご両親に大変ご迷惑をおかけしたと言っております。このⅤTuberの仕事が軌道に乗るまでかなりのお金をつぎ込まれたとか……そのご恩は忘れないと、それと、素直にこの仕事のことをずっと秘密にしていて申し訳なかったと言ってます」
「……そうね。この芹斗が稼いだ月収約1000万どころか、一生涯の育児にかかる金額は平均で1000万かかると言われる時代に芹斗の場合は大学4年に加えて、大学院。そして就職もできずにずっとひきこもり。それからの生活資金とパソコンの仕事で使うからと突然の出資額約100万で全部で合計2000万円以上はつぎ込んだと思うわ。そのお返しとしたら、まぁ、プラスマイナスゼロってところね」
ため息をついて、思い返す美智子は、迅の顔をじっと見つめる。鬼柳は腕を組んで見守った。
「育児って結局、お金じゃないのよ。健康で過ごして行けるか。でもね、ひきこもりになってしまった時は私もどうしたらいいかわからなくなったわ。今している仕事を投げ捨てまでお世話できるわけないし、ホームヘルパー頼むのも世間体が気になっていた。でも、芹斗は世間体なんて気にもせずたくさんのお金を稼いでいたのなら、もう少し寄り添っておけばよかったって思ってる。芹斗、生まれて来てくれてありがとう。たくさんの人たちを笑顔にする仕事をしていたなんて誇りに……母さんは思うわ」
涙を流して、天を仰ぐ。
その言葉を聞いて芹斗は心洗われた。
満足して空高く屋根をすり抜けて飛んでいった。迅は口角を上げて、手を腰にあてた。
青空には大きな虹がさしかかっていた。