熱く散らかった迅の部屋に白狐兎がいた。白い着物を着て、いつものお面を顔に狐兎の順番に何枚も忘れずつけていた。
ベッドの上でもがき苦しく紺色のカルバンクラインのボクサーパンツとプレイボーイ の白いランニングシャツを着た迅がいた。額には白狐兎が作った札を貼っている。ここにいるのは本物の迅で、今、時空金剛鬼と戦っているのは白狐兎が作った迅の分身だった。本体を出したら、きっと殺されるだろうと予測していた白狐兎は前もって分身を送りこんでいた。分身と言っても見えているもの攻撃された痛みなどは全部本体に感覚として伝わって来る。死ぬことはない。今までにないくらいの強さと予測してのことだ。
「そろそろ、俺も行くべきか……泳がせておくか。どうするか」
「うわぁーーー」
横になりながら、叫び、もがき苦しんでいる迅がいる。何か時空金剛鬼に攻撃されているようだ。うねうね動いてるだけで出血してるわけじゃない。白狐鬼はじっと見ていると、フラワーロックのおもちゃを見ているようで面白かった。そんなことしてる場合じゃないと首を振る。
「俺も行くか」
額に札を付けて、念を唱える。うめき苦しく迅の横で白狐鬼は気を込めた。
『分身の術』
青白く光が体を包み込み、隣にもう一人に自分が現れた。お面の数は少ないようだ。
「俺は、時空金剛鬼のところへ行く。お前はここにいろ」
「わかった」
エコーかかった声が重なった。本来の力が発揮しないため、白狐鬼は、本体が時空金剛鬼のところへ向かう。分身は、迅の様子を見守る役だ。迅の本体が札をはがしてしまうと、戦っている本体がここに戻ってきてしまう。それを防ぐためだ。すっと札を2本指でつかみ、瞬間移動をした。迅が時空金剛鬼に立ち向かっている現場にたどり着く。
迅は幼少期に酒吞童子と出会って、闇の力を手に入れてしまう瞬間を目撃していた。大人の迅がとめようとするが、透明がガラス窓が邪魔をして進めない。後ろから白狐鬼が青白い弓矢を放つとバリンと割れた。
「え?!」
「何をしている。よそ見をするな。前を向け」
「あ、おう」
迅は、割れたガラスを通り抜けて、幼少期の自分の近づき、酒吞童子から体を離してジャンプした。白狐鬼も一緒に中へ進む。次元のゆがみが起きていた。電気が走るようにびびっと音が鳴る。
「え、え? 怖い。お兄ちゃん、だれ」
「静かにしろ。お前を助ける」
「助ける? 心外だなぁ。我は、童に力を与えようとしていたぞ」
「お前の力など、必要ない!」
「…………お前はその子の誰だ!?」
酒吞童子は怒りを抑えきれず、手に持っていたひょうたんを投げつけた。迅は返事をせずに札を2本指でつかみ、大きな式神を呼んだ。肩には烏兎翔が珍しくご機嫌で乗っていた。
『白虎!』
白い体に黒い縞模様特徴の虎だ。鋭い牙を持っている。赤く三角のひらひらの飾りをつけた酒吞童子は酒で酔っていた。体をフラフラにしながら、こちらに向かってくる。お酒の入ったひょうたんを拾い、中から煙を出した。中から想像を絶するような大きさのニシキヘビがぐるぐると輪を作って、舌を何度もぺろりと出している。
明らかに蛇よりも白虎の方が何倍も大きかった。あっという間にかぶりついて食べてしまった。
「ちっ……仕方ないわね。今回だけはお預けよ」
酒吞童子はポケットに入れていた扇子を取り出して、風を起こした。一瞬にして姿を消した。
迅と白狐鬼は灰色の空間を平らなエスカレーターに乗るように移動した。場面がスライドショーのように切り替わる。芹斗の地下室に戻った。そこでは時空金剛鬼が背中の時計を振り回して、投げようとしていた。
「過去に戻って殺されてこなかったのか?!」
時空金剛鬼は、大きな時計を振り回して、飛ばしてくる。迅は、体を下にかがませた。そうしてる間に後ろからもう一つの時計が襲い掛かって来る。
早すぎて避けきれない。背中からナイフのように突き刺さる。
「うわぁぁああああーー」
この声は白狐鬼が迅の部屋の中で聞いていたまったく同じ声だ。この場面で痛みがあったのかと気づく。白狐鬼は、走り込んで、時空金剛鬼後ろに移動した。
札を2本の指でつかみ、術を唱える。
『改・疾風かまいたち』
強い風から下から巻き起こると、空中に飛んでいた時空金剛鬼の時計があちこちに散らばって、粉々に破壊された。風がまだやまない。時計が刺さった迅はかなり負傷した。その場に崩れおちる。
「お前に倒せない」
「そんなことはない!! 俺の力ならできる」
ポケットから札を取り出そうとしたが、どれも白紙だった。時空金剛鬼の影響で術使えなかった。
「ちくしょう!!」
「そこで大人しく休んでろ!!」
白狐兎は、走り出して、時空金剛鬼に滅矢を放ち、手から霊剣を取り出して、斜めに切り込みに行った。叫び声をあげて、消えていく。やっとこそ、戦いが終わった。時空金剛鬼は時計が無いと攻撃できない。壊れた今、何もすることができず、白狐兎の攻撃で一瞬にして戦闘不能になった。
「うわぁわわわわ」
叫び声をあげて、砂のように消えていく。背中とお腹に時計の鋭利な部分で切り込みが入った迅は倒れ込んだ。
「終わった!」
「我は許したわけじゃない。土御門迅、お前は、我のライバルだということを忘れるな」
迅は、その言葉が告白だと勘違いして嬉しくなった。救ってくれたようなもんだった。
「白狐兎様、ありがとうねぇ」
投げキッスをすると、白狐兎は、すぐに瞬間移動して消えていた。戦いが終わってすっきりした迅だった。そのまま天を仰いで眠りについた。
白狐兎がかけた迅の分身の術は目が覚めたときには戻っていた。
迅の部屋には分身が身に着けていた白狐兎のお面が落ちていた。