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第26話 引きこもりVTuberの最期 壱

真っ暗な部屋に青く光るパソコン画面を見つめる男性がいた。


「何とかなるなるぅ。生きてればそれだけでいいんです!みんなばんざーい」


 イケメンのアバターに声をあててアニメーションを動かす話題の職業である。それをバーチャルタレント、バーチャルシンガーとも言われるVTuber。『星型マカロン王子』で有名なタレントであった。本名は木村芹斗きむらせりと体はガリガリ、眼鏡をかけて髪がぼさぼさでリアルは過ごしている。基本部屋着はシャツとハーフパンツ。インドアで外に出ることはめったにない。両親にはVTuberであることをひた隠しにして過ごしている。食事はほとんど取らない。たまに扉の外にトレイに乗ったごはんをつまむだけ。知られたくない。パソコンで仕事をしていることを。外部に漏れたくない。そういった理由から、引きこもり生活の息子を育てられないと母親は外部に相談して無理やりにでも外で働かせようとするが、話をすることも拒否る。関わりたくない。WEB上では誰にでも気さくに話せる人気者であった。

 今日も配信のためにパソコンに向かう。


「おはようございます。さて今日の天気は曇りですねぇ。みなさんはどうですか? 初見さんいらっしゃい。今日はどんな歌を歌いますかね……」


 星型マカロン王子は、マカロンが大好きなイケメン王子で名を通している。雑談トークして身の上話で盛り上がったり、歌を歌ったりしている。

 両親は引きこもりを世間に知られたくないと地下室に閉じ込めれている。

 ちょうど防音室になっていて、歌うには最適だった。パソコンがあるのは趣味ができなくなるのはかわいそうという思いからだ。これにはしてやったりと芹斗もドヤ顔だ。身なりは関係ない。イラストが動けば、自分の姿はどうでもいい。素性もばれない。なんてラッキーなんだとガッツポーズを常に作っていた。今日もスパチャを100万飛ばしてくれた人もいる。芹斗の稼ぎは人生で最高額だった。


 そんな時に、地下室が重々しい空気になった。体が細く、まるで芹斗と同じ姿の朱色の鬼が背中に大きな黄金色の時計を3つも背負って、座禅を組んでふわりと現れた。にやりと笑う。


「な?! なんだ。急に。誰かコスプレしてるんか?」


 パソコン画面にすっと姿が鬼の姿がうつった。ぞぞっと鳥肌が立つ。何も抵抗することができずに、その鬼は芹斗の前に近づいた。パチンを指を鳴らす。後ろにある時計がぐるぐると回る。


 時間が巻き戻されて、一気に景色が加速する。体の中の内臓がぐるんぐるん動いて気持ちわるくなった。芹斗はパソコンの椅子からバタンと倒れた。次元のゆがみに耐えられなって、意識を失った。


 時間はVTuberになる前の過去までさかのぼっている。

 はっと意識が戻って、日付と時計を確認する。

 この日は、就職先の面接の日だった。タイムスリップしていた。

 まだ外の世界で働こうと思っていた時だ。

 壁にスーツをかけたハンガーがかけられていた。

 ここが芹斗の分岐点だった。


 無意識にそのスーツに着替えようとすると後ろから朱色の鬼の大きな黄金色の時計を手につけて、芹斗の体にめり込んだ。ずたずたに体が切り刻まれた。もう人間としての体ではない。肉片が畳の上にあちこちに散らばった。血だらけの服がぼろぼろだった。


(なんで、俺は過去に戻って死んだんだ……)


 霊体になった芹斗は空中で悩む。急に現れた赤い鬼に突然殺された。これからVTuberとして活躍してお金をガツガツ稼ごうというときだったはずだ。いつの間にか、白い空間に包まれて、芹斗は同じバラバラの体の状態で現代に戻った。遺体の発見は、ご飯を用意しに来る母親だった。死んでから20時間後のことだった。


 あまりにも悲惨な状況にトラウマになるくらいだった。






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