東京のシンボルでもある赤く輝く東京タワー。
午後22時にトップデッキの上部は「ダイヤモンド・ティアラ」とメインデッキ上部の「ダイヤモンド・チョーカー」はピュアホワイトのライトで光っていた。遠くからは赤く見えるが、部分的にはホワイトだなんて近くに寄らないとわからない。灯台下暗しだ。
迅は、烏兎翔の両足につかんで空を飛び、九尾の狐を追いかけると、東京タワーのてっぺんにまっすぐ立っていた。
歌舞伎町のキャバクラbutterflyJのお店からたいぶジャンプを繰り返してきた。約7.7キロの距離だった。タクシーで移動すると約25分くらいかかる。迅をひっぱって飛んできた烏兎翔もだいぶスタミナを削ってぐったりしていた。
九尾の狐は、すっと東京タワーの一番上に佇んでいる。
ブラウンのアイシャドウとつけまつげに黒いアイラインが釣り目になっている。銀色のインナーカラーをなびかせて、ぷっくりとした唇にはコーランピンクのルージュをつけていた。まるで人間そのものだ。狐がすっかり人間に化けている。服装は、レースカーテンのようにひらひらで白くノースリーブ、フェミニンなミニドレスを身に着けている。キャバクラで働くにはおしゃれすると誰に教わったのか気になったが、首で横でブンブン振った。
迅は札を2本の指でつかみ、膝を曲げて、構えた。九尾の狐も何か攻撃しているのだろうと察知して、ジャンプして、地面に飛び降りる。
『急急如律令!!!』
地面に飛び降りた九尾の狐に強く激しい風が吹き荒れた。髪が揺れ、着ていたスカートがめくれた。小ダメージを与えた。さっと手でおさえるが、どこから出したのかピックのような鋭利な刃物を迅に向かって迫った。
「何?!」
「お前もお稲荷さんにしてやろうか!?」
可愛い顔をして低い低い声を出した。女性なのに男性の声を出すのは今流行りのYouTuberかと疑ってしまうほどだ。お尻からはうねうねと白くふわふわの尻尾をなびかせている。迫り狂う九尾の狐に迅は、手のひらから青白く光る霊剣を取り出して対抗する。思ったより力が強い。東京タワーの駐車場で二人は右に行ったり左に行ったりと何度もやりあう。いつの間にか九尾の狐の優勢になり、持っていたピックがぐぐぐっと迅の腹に入り込んできた。
(こいつの攻撃するところは腹だった……)
分かっていたはずの防御しなければならないところを防御できなかった。迅は迂闊だったと、苦しみ悔しんだ。ぽたぽたと血が滴り落ちていく。
「弱いな。今までのやつより全然弱いなぁ!!」
とどめを刺すようにピックを奥まで差し込んでくる。
「ぐはぁ」
迅は、吐血した。九尾の狐はやりきったと嘲笑って後退する。ピックを地面に投げ捨てた。刃物の落ちる高音が響いた。
「それだけか?」
迅は口から血を垂らして、九尾を狐を見る。
「お前はまだまだやる気だろ? 油揚げを腹の中にぶちこむんだろ」
「…………」
口角を上げて、大きな声で笑い出す。迅は、ホテルで亡くなった遺体の様子を思い出す。足跡を残したかったのか理由はわからない。
「油揚げだ? 誰がそんなことするか!!」
そういうと両手に大量の油揚げを持って、高くジャンプして、迅を地面に押し倒し、腹の手術をしようとどこからともなく出て来た手術用のメスを出す。
「なるほど、それが凶器か」
札を九尾の狐の額に張り付けた。迅は寝っ転がりながら、顔の前に指2本を出す。
「なに?!!」
『臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前』
目を閉じ念じた。札をつけられた九尾の狐はたちまち炎にどんどん包まれて、体全体が燃えていく。うろうろと逃げ惑うが炎は消えない。白いドレスはすべて消えてなくなる。
念の力で人間の姿から大きな白く九本の尻尾の狐の姿に戻りながら、砂のようにサラサラと風に流されて消えていった。
「ぐわぁああああーー」
立ち上がり、後ろ姿で九尾の狐を見送った。迅はタバコに火をつけて、煙を吐く。地面に血が混じった唾を吐いた。
「めんどくさいやつだったな……」
「かぁ、かぁ! どんくさ」
烏兎翔は迅の肩に飛び乗って言った。
「うっせーよ。不意打ちにやられたんだ。香水の匂いが気になったから」
東京タワーの向こう側で満月が光輝いていた。今ごろになって、駆けつけた鬼柳はフラフラになって手を振っている。まだ酔いがさめていない。
「先輩の出番はねぇっす」
「げーーー。なんでよー、せっかくタクシー乗ってここまで来たのに」
「ちょうどよかった。俺乗ります」
バタンとタクシーの扉が閉まった。だんだんと窓をたたく鬼柳。
迅は、自宅の住所を言って、先に行ってくださいと運転手に告げた。
走って追いかけてくる鬼柳は置いてけぼりを食らった。
「おーい!! 土御門」
鬼柳はひゃっくりをして、その場に座り込んだ。
「ちくしょ……」
鬼柳の式神を呆れ顔で飛び立っていった。
午前0時、東京タワーのライトがすっかり消えてしまっている。