「いらっしゃいませ」
ざわざわと店の中は騒がしいキャバクラ『
「警視庁の鬼柳平吉です。事件真相のためにお客さんやスタッフに聞きたいんですが、よろしいでしょうか」
「あ、刑事さんですか。ぜひ、お酒でも飲みながらどうぞどうぞ」
「い、いや、勤務時間中はお酒厳禁なんですが!」
「良いから、良いから。どうぞどうぞ。中の方へ」
ホールスタッフの2人にそれぞれ鬼柳と迅の背中をずんずん押された。席に着いてすぐにお酒を注がれた。本当はお酒が大好きな鬼柳は遠慮せずにがばがば飲んでしまう。たばこは吸うがお酒は全然飲めない迅は、何も言わずにぼんやりとやり過ごした。媚を売られるのは好きじゃない。胸の大きい女性も興味ない。優しくされても興味ない。そんな迅は、辺りを見渡してNo1がいる席でシャンパンタワーが盛り上がってるのに目がついた。こめかみが痛くなる。人間しか集まらないここにどこに妖怪や鬼がいるというのか。ピキンと頭痛がする。ふわふわのウェーブにポニーテールを揺らしていたホステスしょうこは白いドレスに身を包み、シャンパンタワーの一番上のグラスを楽しそうに飲んでいた。迅は、一瞬自分の目を疑った。彼女の後ろ側に鏡の壁に現実にはありえないお尻から長い尻尾が一本のびていた。
目をこすってもう一度確かめる。次は何もない。普通の人間だ。釣り目が気になった。本当にあれは人間なんだろうか。
空気を読まずに、迅は、ずんずんとシャンパンタワーに盛り上がっている中、しょうこの腕をガチッとつかんだ。周りは何が起きたんだと騒然としていた。タワーは迅の腕に触れて、ガタガタと崩れてしまう。入っていたシャンパンがびしょびしょにこぼれた。迅のズボンもびしょぬれになったが、迅は動じない。怖い目つきでしょうこを見た。腕をまだつかみ続けている。しょうこは細い釣り目で迅を睨む。
「お前、人間か!?」
「……だったら、なんだ」
甲高い声のはずだった。迅の問いかけに反応したのか、聞いたことのないエコーのかかった低い声で返事をする。
周りのスタッフはお客さんは感じたことのない念に恐怖を覚えて逃げ惑う。悲鳴まで響いていた。
「ちょっとちょっと、何、営業妨害しているんですか」
店長の
「うちのNo1に何をしているんですか」
店長の瞳が紫になる。これは洗脳されている。またピキンと頭痛がした。鬼柳はあまりにもお酒を注がれて、戦うどころか話に夢中になり、ドジョウすくいの踊りが始まっていた。迅に助っ人はいない。
「お前は操られてるな……」
札を指2本でつかむ。迅は、呼吸を整えた。突然、しょうこは店の中だというのに高くジャンプして、軽やかに着地した。さっきの尻尾は見間違いではなかった。しょうこの背中には9本の尻尾が実体化していく。迅の強い念を感じたしょうこは、その場からさっと飛んで逃げた。察知能力が高いようだ。
「九尾の狐だな!!!」
迅は身構えた。店の客は全員恐怖を覚えて逃げ惑う。あたふたと辺りが騒がしくなって、どさくさまぎれに九尾の狐は窓ガラスを割って外に逃げた。もう人間技ではない。迅は、すぐに追いかけた。口笛を吹いて烏兎翔を呼んで空高くに飛んだ。尻尾をまわして飛んでいく九尾の狐を追いかけた。
暗雲が立ち込めて来る。酔いが深まった鬼柳は席で爆睡していた。
式神の烏が何度も額をくちばしでつついたが、鼻ちょうちんを作って
起きなかった。