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第15話 不吉な予感 弐

某小学校の駐車場にて、これから合宿へ向かう大型バスに生徒たちが乗り込んでいた。ざわざわとテンション高めの生徒たちがいた。先生たちは静止させるのに時間がかかった。


「おはよー、美嘉。例のやつ持って来た?」

「おはよう、恭子。バッチリ持って来たよぉ」

「OK」

 女子2組はバスの席に乗る際に声を掛け合って、合宿のしおりには書いてないものを持って来たかの確認のようだった。


「おっす! 隆二。聡君も来てるらしいよ。よく来れたもんだよな」

「おー。泰幸寝ぐせすごいな。てか、聡来るの? マジか。ずっと学校来てなかったやつが参加できるのかよ」

「寝ぐせじゃねぇよ。ファッションだから。来るのはさ、大イベントだからじゃね?」

「まぁ、確かに。学校行事で合宿は少ないもんな」

「いじってあげましょうか」

「おうおう。楽しみじゃんね」

  クラスメイトのカースト上位の男子2組は、しばらく登校拒否をしていた聡のことを気にかけていた。バスの一番後ろの座席にぽつんと座っていたのは黒い髪に丸眼鏡の聡が静かに窓の外を眺めていた。


 準備を終えた先生たちがバスに乗り込んで、小学校を出発した。

 これから華山合宿とは、沢での活動と野板を焼く活動や、屋外炊飯体験、キャンプファイヤーなど盛りだくさんの楽しい小学校5年生の貴重な体験だ。

 そんな中、沢登の途中で事件が起きた。山を登る途中に救命胴衣を着けて、沢に飛び込んで楽しむ生徒たちがいた。そこまでは問題はなかったのだが、何が起きたのが生気を吸われた男子が仰向けに浮かんできた。もう息をしていない。女子たちの悲鳴が辺りに響きわたった。


 山の中にパトカーのサイレンが響いた。

 keepoutの黄色いテープが囲まれた中に、迅と鬼柳は白い手袋をはめて遺体に合掌した。

「死因は明らかに人間技ではないと……出血もしてないし、外傷もない。この辺は木々に囲まれた山の中だからな。何が出てもおかしくない」

「……まだ近くにいる気がする」


 迅はこめかみをおさえて、痛みを和らげようとした。キーンとしたノイズが入る。


「天狗様か河童様か……」


 鬼柳は上を見上げて、どこにいるか確かめた。風が吹き、草木が揺れた。カサカサと葉がぶつかる。


「来る!!!」


 さらに強風が吹きすさぶ。迅は札を取り出して、顔の前に出した。鈴の音がどこからか聞こえる。川のせせらぎが強く感じる。誰もいない沢にバシャと水の音がした。また鈴の音が聞こえた。すると、癒されるハープの音が鳴りはじめた。


~♪ ルールールルールールー


 女性の高音で歌声が流れて来る。せせらぎも激しくなる。


「おいおい。マジかよ」


 鬼柳は興奮し始める。沢の岩の上に現れたのは絵に描いたように美しい妖怪だった。


『河童』

 頭にお皿、背中に甲羅、水かきが3本の水辺に出現する妖怪だ。性別はオスのイメージが強いが、メスが今回出て来ているようだ。あまりにも美貌な体に鬼柳は目の置き場所に困っていた。誘惑の技を使っているようだ。正常な判断ができないような術を琴を奏でて起こしている。迅は女性にさほど興味がなく、動じなかった。


「先輩、何に、興奮してるんですか。たかが、妖怪っすよ」

「わぁ、美人様だなぁ」


 目がもうハートマークにあふれていた。体が自然に吸い込まれるようだ。どんどん河童のいる方へと進んで行く。攻撃するわけでもない。そんなに近づいたら、相手の思うツボだ。


「先輩!!!」

 迅は、鬼柳が制御できなくなっているようでとめようとしたが、目には見えないバリケードが張られていて近づくことができない。


「なに?! ちくしょーー」


 迅は、後ろにジャンプして、札を構えた。

 河童は琴を弾きながら歌を歌う。目がうつろの鬼柳が吸い込まれていく。鬼柳のズボンは沢の中に入ってしまい、びしょぬれになっている。


『急急如律令!!!』


 ピキンと音がなる。透明なバリケードにはじかれた。


「技が使えない!」

 迅はだんだんと手でたたく。鬼柳はついに河童の目の前に近づいた。


「先輩!! 目を覚ませ!!」


 不敵な笑みを浮かべた。 胸の大きい魅惑にあふれた河童は鬼柳の首に手をまわして、じっと迅の目を見る。


「鬼柳ーーーーー!!!」


 河童は牙をきらりと光らせた。あっという間に水の中へと引きずり込まれていった。どうすることもできず、ただ茫然と見ていた。迅は、また沢の方へ行くとバリケードが消えていた。近づいてみると鬼柳と河童の姿が消えていた。


「どこに行ったんだ?!」


 森の中で野生のからすがぎゃーぎゃー鳴いている。

 鬼柳の式神がため息をついていた。


「河童に連れていかれたな」

「なに? ちょ、急に話すのやめて。ビビるじゃん」


 烏兎翔が迅の肩の上に乗って話し始めた。


「どこに行ったのさ。どうすりゃいいのよ」

「戻ってくるまで待つしかないな」

「はぁ……」


  迅は、どうしようもない状態にため息をついた。天を仰いでひたすら鬼柳が戻って来るのを待った。

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