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第12話 陸上部の男子高校生 弐

 ハッカー専門の術師の大津智司は土御門迅に事件の全貌がニュースになっていると教えていた。YouTubeに載っていた動画を直視すると、アナウンサーが現場を実況していた。青いビニールに囲まれた踏切の近くでは、野次馬たちが大勢集まっている。近所では犯人は誰だと恐れられているが、インタビューされたおじいさんは人間の仕業ではないという。無残な姿の遺体に鑑識や刑事も近寄りたくないくらいの散らかりようだった。まるで戦国時代の兵士が殺されたようだ。たった一人しか殺されてないはずなのに、肉片の広がりが広範囲だった。


 現場ニュースを見て、ただごとではないと早急に出かけた。 白い手袋をつけて、迅と鬼柳は現場に駆け付けた。まだ怨念が残っているのか、こめかみ部分が痛む。


ーー回想ーー


「ニュースでインタビューされていたおじいさんが言ってましたが、あの土地では昔から出る幽霊がいると言ってましたよ。確か『てけてけ』って言う名前だったかと……ほら、これです』

 パソコンの情報を頼りに大津智司は次々に検索画面で『てけてけ』と入力した。様々な都市伝説があるというが、共通する情報は列車事故で足を切断し、上半身だけで動く幽霊と記載がある。女子高校生だったり、口裂け女の姿だったりいろんな情報が拡散されていた。想像が膨らんでどれが本当かわからなくなったようだ。女性の霊は、車両にぶつけた後、上半身だけ残されて、そのまま歩いていた音がてけてけとする。対象者を最後まで追いかけて、ずるずると体を引きずられる。上半身だけの同じ格好にさせられるようだ。寂しさから共有したい。一緒になりたいという思いが強いのかもしれない。


「今回の霊は結構厳しいな。怖い……俺も足持っていかれるんかな。こんな長い足。ひどすぎるわ」


「迅さん、この幽霊、今回の対象者は、陸上部の高校生だったらしいです。結構イケメンの」

「むむ? なんと、メンクイってやつか。俺もいけるか。足速いし!」

「それは……どうかなと思いますが?」

「いやいや、そこイエスでしょう!!」

「…………」

 返答が面倒になった大津智司は黙々とパソコン画面に向かい、キーボードをカタカタと打ち始めた。


「ちぇ、もう俺の相手してくれないのかよぉ」

「……その、てけてけって話。3日以内に次の被害者出るらしいですよ」

 横でスマホの情報を確かめていた大春日舞子は初めて協力的に迅に話しかけた。ホラーの話で人を怖がらせるのが好きだ。

「え!? マジで? そしたら、次のターゲットは俺になる? ゾクゾクするぅ」

「それはたぶんないっすね」

「なんで?」

「イケメンじゃないから」

「……先輩!! ひどくないっすか?」

「ありのままなんよ。本当、ありのまま。ね? 土御門。君より俺の方がダンディだから。狙われるわ、ね? 2人とも」


大津智司と大春日舞子黙ったまま何度もうなずいた。

迅は、目を大きく見開いて、悔し涙を流した。


「絶対、お前ら鬼にお金積まれてるだろ? 嘘だ。絶対嘘だ。どこがイケメンだよ。ただの白髪じじいじゃねぇか」

「土御門……」

「現場で確かめてみましょうよ。どっちがイケメンか!」


 鬼柳は、迅の頬をつまみだし、睨みつけた。


「少しはねぇ、口を慎め!! 俺は確かに白髪じじいだが、ハゲてはない!!」

(ハゲって言ってないんすけど……。白髪じじいは認めるのね)

 迅は頬をつかまれながら、何を言わずにそのまま時間が過ぎるのを待った。

 さっと静かになったかと思うと何もなかったように鬼柳は椅子にかけていたジャケットを羽織って部屋を出て行った。

 迅は首をぶんぶん振って、自分の両手でバシバシ頬をたたく。


「さてと!! いっちょやってきますかね」


 迅は鬼柳とは反対に窓ガラスを開けて、ジャンプして外に出た。肩には式神の烏兎翔が飛んできていた。


「普通に出れないのか!」


 九十九部長はいなくなった迅にこぶしをあげて怒りつけた。

大津智司と大春日舞子は何事もなかったように自分持ち場に戻っていた。

九十九部長は急に静かな部屋が寂しくなる。ため息さえもつけない空気だ。


ーー回想終了ーー 


「こうも何件も同じ感じで殺されるのは……これで2件目ですよね」

 警視庁第一捜査一課の刑事の黒田隆二が対応する。

「……そうですね。毎回同じ場所の踏切です。時間も大体夕刻時で。部活終わりの高校生が狙われるようです。今回も上半身をひきずる形で肉片が散らばって……」

「あ、詳しくは大丈夫っす。見ればわかるので」

(気持ち悪すぎて聞きたくないわぁ……)

「人間であれば、こちらとしても動けるんですけどね。明らかに刃物や車両でうんぬんなわけではない証言がありまして……」

「証言ですか?」

「一緒にいた男子高校生がしっかりと犯人を目撃してるんですよ。下半身のない白い着物を着た黒い長髪の女性だそうで……もう人間ではないですね」

「ですね。下半身がちぎれているんですもんね」

「え?! ちぎれてるとは言ってませんけど、なんで分かるんですか」

「目の前にご登場です」

「何?!」


 隣にいた鬼柳が迅の声に反応して、地面を蹴飛ばしてジャンプした。迅は、風を切って走り出す。ズボンからお札を取り出して、2本指でつかむ。走りながら、式神の烏兎翔も一緒にならんで飛ぶ。

 踏切のさらに奥の線路の方に、てけてけがおでましだった。あたりは閑静な住宅街。犬の散歩中の主婦やベビーカーを押す親子も通りかかるが、騒然とするのを驚いていた。


線路の上、迅は、身を構えた。顔の前に札を置く。


『急急如律令!!』


 地面から風が沸き起こる。てけてけは、呆然と立ち尽くす。どこを見てるのかわからないてけてけは、確かに足はない。着物がストンと落ちている。前髪を長くして、顔が見えない。残酷に人をケガさせる妖怪には到底見えなかった。何がそうさせてしまったのだろうか。強く吹きすさぶ風がてけてけの髪をなびかせた。ちらりと見える顔。綺麗な瞳から涙を流している。攻撃力は浅かった。


『朱雀 壱文字!』


 鬼柳は手のひらから霊剣を取り出して、朱雀を纏わりつけた。空中に壱という字を描く。炎が沸き起こった。血の底から沸き起こる炎にてけてけは包み込まれた。着が燃えたかに思われたが、何の変化にもならなかった。すると、迅の足を白い両腕にしっかりとつかまれた。


「何?! まさか、やめろ。俺の足を持っていく気か?!」

 ズルズルと四つん這いに逃げようとするが、力が強く逃げきれない。手に力をコンクリートに爪がはがれるほどの力を込めたが、止めきれない。両足が吸い込まれるよにてけてけの手にひっぱられる。鬼柳が慌てて、綱引きのように迅の足をつかんだ。てけてけの口が鬼柳の肩に近づいて、獣のようにかみついた。

「マジか?! 足だけじゃないのかよ。うわーー!」

「先輩、よわすぎだ」

「お前に言われたくない!!」


 絶体絶命の大ピンチに思われた。


「「うわぁわあああぁあーーー」」


 体中をこれでもかと引っ張られて、骨や肉がちぎれそうになった。

 そんな時、てけてけの腕に1本の強力な青白い弓矢が突き刺さる。

 てけてけはうき声をあげて迅と鬼柳から離れていった。

 その弓矢で2人は難を逃れた。


「一体誰の弓矢……」

「お前は……」


 雑木林の上、遠くから放った矢をもっていたある男がいた。


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