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第7話 声を失った少女 壱

 だだ広い公園の遊具で小学生たちが遊んでいた。遊具遊びかと思ったら、鬼ごっこが始まっている。チューブ型の滑り台に興奮してる小さい女の子もいた。

 鷲尾凪煌わしおなきは、歌手を目指してる小学5年生だった。小さい頃からオーディションを受けて、落ちてしまっていた。何度も挑戦して、最近、地元で開催されるミュージカルのオーディションに受かったところだった。今日は、小学3年生の妹の葵沙きさとともにバドミントンをしていた。両親はベンチで水筒のお茶を飲みながら見学していた。


「葵沙、がんばってとってね」

「うん、ほら。大丈夫。まだやるよ!」

 ぽんぽんとラリーが続いていた。その姿を眺めながら、家族は平和なひとときを過ごしていた。


 そんな時、小さな神社の鳥居の奥、ちょろちょろと流れる小さな川を真っ黒い物体がぞろぞろと地面を這いずり回っていた。針葉林に黒い烏が飛び交って鳴いている。灰色の霊気が漂う。ベンチに優雅にお茶を飲んでいた両親の体を不意打ちに頭から悔いむさぼり食った。瞬時に腕や足があちこちに飛び交う。胴体をがぶがぶと食い散らかした。美味しいのは真ん中の部分らしい。

 『牛鬼ぎゅうき

 残忍で獰猛である。頭が牛の形、胴体は鬼の形であり、体全体は真っ黒で泥の中を這いずり回ったため、汚れていた。

 公園の端っこ。平和であるはずの場所で事件は起きた。

 両親が座っていたベンチから水筒が転がって、バラバラの体から赤い血が飛び交っている。

 近くでバドミントンをしていた姉妹の凪煌と葵沙は現実を受け止められなかった。じりじりと後退し、凪煌は両手で口を塞いで、喉をおさえた。何か声を発したくても何も話すことができなかった。深呼吸して、息を吐こうにも声だけは出ない。


「お姉ちゃん、お姉ちゃん!!」


 妹の葵沙が声を掛けたが、全然意識がこちらを向いてない。後ろにばったりと倒れてしまった。


 数分後、公園にパトカーのサイレンと救急車のサイレンに響いた。白い手袋をつけて、珍しく本物の刑事のように真面目に迅が仕事をしていた。公園周辺にKEEPOUTと書かれた黄色いテープが張られていた。刑事だけではなく、鑑識もかけつけていた。


「この仏さん、人の手ではないなぁ……」

 手を合わせて合掌してから鬼柳は遺体の飛び散った残骸をゆびさした。明らかにバラバラになりすぎている。短時間で出来るものではない。なおさら、人間の手では無理と判断する。迅は、こめかみの痛みと高音とともに怨念が感じられた。


「来る!?」

「何?!」


 恐怖を感じた迅が叫ぶと、鬼柳も瞬時に判断して、高くジャンプした。迅は、ズボンのポケットに入ったお札を取り出した。


急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう!』


 迅は念誦を唱えた。式神の烏兎翔は紫の瞳で姿の見えない牛鬼に向かって襲いかかった。瞬時に体が実体化されていく。何も効果がない。なかなか手ごわいようだ。迅は悔しがった。


『朱雀!』


 鬼柳は札を構えて叫んだ。天から大きな火を操る聖獣が飛び降りてきてすぐに巨大な炎を吹いた。

 牛鬼に大ダメージを与えたが、まだ動いている。鬼柳は舌打ちをする。


「これじゃだめなんだな。」

「先輩、すぐ諦めないでくださいよ!!」


 牛鬼の技をジャンプして避けては走り回る。迅はもう一度札を出して、念誦を唱えた。


『疾風!』


 牛鬼のあたりに風が巻きおこり、空中からズドンと地面にたたきおこすかと思われたが、ひょいと技を避けて、逃げられた。


「げげげ、ちくしょ」

「甘い、甘い!!」


 鬼柳は走り飛び回りながら、ああでもないこうでもないと何度も繰り返し攻撃していた。

 少し疲れた迅は、しゃがみこみ、公園の端の方でおびえていた鷲尾姉妹に声をかけた。


「ん? どうした?」

「おねえちゃん、声出ないの。さっきの衝撃で出なくなった」

「……それはひどいやつだな。俺に任せろ。やり返してやるから」


 その話を聞いて、迅の攻撃力が倍増する。牛鬼に向かって、猛ダッシュで進んだ。走りながら、手のひらから霊剣を取り出す。青白く光る剣がいつもより大きくなっていた。


「おりゃあぁああ!!」


 牛鬼に立ち向かうが、体が硬いようだ。

 公園の烏たちが騒がしくなる。

 戦いはまだ終わらない。

 なかなか決着がつかなった。

 迅が霊剣で戦っているときに

 鬼柳は、新しいお札を取りだした。


 辺りは一層暗くなり、暗雲が立ち込めてきた。

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