ーーー警視庁の詛呪対策本部
鳩時計の音が響いた。時計の針がカチカチと鳴る。デスクのパソコンの画面にはYouTubeで昨夜の事件ニュースを報じていた。レディーススーツにアップに結んだ長い髪に細いウエスト、豊満な胸で、白く綺麗な足を組みなおす1人の女性がいた。ストッキングが伝線してることに気づいてしまうが、あえてのスルーした。丸眼鏡を鼻の上にくいっと整える。 突然、バタンとドアが大きな音を立てて開いた。
「ちょっと、静かに開けてくれないかしら」
「
「部長です」
目を鋭くさせるのはこの警視庁の詛呪対策本部の部長
「あ、すいません」
「
「……いやぁ、どうも年下上司には部長って呼びにくいですよねぇ。ハハハ……すいませんね。以後、気をつけます」
九十九響子は警視庁の刑事第一課に配属されていたが、ある理由があり、術も使えないまま部長として配属されていた。この部長だった3ヶ月前、
「全く、あなたたちみたいに術さえも使えない私がなんでここにいるのかわからないわ。でも、頭脳派だということで抜擢されたんだと思うんだけど……あれ、土御門迅はどうしたの?」
九十九は腕を組んでため息をつく。辺りを見渡すと、鬼柳の相棒がいない。デスクにはぱんだの置物が静かに頭だけ動いている。
「あー、あいつですか。昨日の事件で、肋骨負傷したじゃないですか」
「あー、労災届がどうかって話のケガのこと? というか、術使ってケガも治せるじゃないの? 鬼柳さん、ちゃんと見張っててよ」
「いやいや、無理無理。言うこと聞かないですよ、あいつ。労災届を長引かせるためにケガは術で治したらしいですけど、特殊メイクだか、アクリル絵具で血のりを再現したってらしいです。医者騙してがっぽり稼ぐって言ってましたから……」
「は? バカじゃないの。違法じゃない。なんで止めないの」
「それがまた、名演技でして……。録画しても録音してもあいつの勝ちじゃないかと思いますよ」
「……え?」
九十九はあっけにとられる。
ーーーとある整形外科クリニックの診察室にて
「土御門迅さん、大丈夫ですか?」
心優しい看護師さんとお医者さんは丁寧に診察していた。
「先生、俺、ダメかもしんないです。ほら、かさぶたできてもすぐ血が噴き出るし、治らないんじゃないですかね」
「あー、肌の治りが遅いんですかね。おかしいなぁ、きちんと針で縫ったはずですけど……様子見ていきますか。痛み止めありますか?」
「ないです。もう飲み切りました。湿布や軟膏もお願いしていいですか? なんだか肋骨のここあたりも痛む気がして……」
「診察台に寝てみてください」
迅は、そっと胸を抱えて、横になる。
そっと医師は痛む部位に触れてみた。
「いったーーーーー」
「あー、後遺症にでもなってるのかな。治療は長引きそうですね」
「……ですよねぇ」
半泣き状態の迅は、そっと体を起こす。本当は痛いところなんてこれぽっちもない。ドアをノックする音が響いた。
「はい、まだ診察中ですよ」
「すいません、土御門迅の上司であります九十九です。その診察、待ってもらっていいですか」
九十九響子は、鬼柳に案内されて、迅の整形外科クリニックにかけつけた。これまでの診察は嘘だということを説明すると、担当医はほっと胸をなでおろした。手術したところがまた再発するなんて自傷行為でもしないと痛みが発生しないだろうと思っていた。
整形外科クリニックの駐車場にて、迅はふてくされる。
「土御門、労災をだまし取ろうなんて変な考えはやめなさい。あなたそれでも刑事なの?」
「俺は、術師です。れっきとした陰陽師ですよ。誰が刑事なんかなりたくて配属してるんだか……給料もたかがしれてる。仕事もしてないわけじゃないのに」
「……土御門!! あなたね、ろくに出勤もしないでよくも言えたわね。タイムカードも切らずに給料もらえるだけでもありがたいと思いなさい!!!」
「ちっ……だからこずかい稼ぎしようと思ったのに」
小さい声でブツブツと唱える迅に鬼柳は背中をポンポンとたたく。
「俺が起こしに言ってやるからな」
「ぜってぇ、やだ。またドア全壊されるから」
膝を抱えて、イジイジと地面をいじる迅。九十九と鬼柳は大きなため息をつく。
「公務員は副業禁止です。むしろ、さっきのあなたの行為は犯罪よ。詐欺罪だから」
「……」
迅はいつもはあげない式神の
「土御門!!!」
こぶしを振り上げて、鬼ごっこが始まった。逃げ足のはやい迅はジャンプをして飛び立つ烏兎翔の足につかまって空高く逃げて行った。
「つかまらないよーだ!」
迅は、九十九に向かって、あかんべーをした。
飛んでいる間にも無意識のうちに指パッチンして浮遊霊を除霊していた。
「ったく、もう。本当に大丈夫なんですかね、あんなんで」
腰に手をあてて、鼻息を荒くする。
「ああ見えて、陰陽師クラスは超特級クラスなんですよ」
鬼柳は呆れ顔で答えた。
「信じられないわ」
迅はドヤ顔で烏兎翔の足をつかみ空を飛び続けていた。
街中ではパトカーのサイレンが鳴り響いていた。