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第34話 精霊魔法の対策

「と、してもだ。どうする?」


 移動しながら対策を練ろうと有門が投げ掛けた。マップを見る限りはまだ、すずチームは動いてはいないようだったが、いつボスを倒すともわからない状況。3人ともに加速の魔法が掛けられているとしても、できる限り早く向かわなければならないが。


「さっきの敵、なんだったっけ? あの気持ち悪いやつ」


「ああ──」


 うにょうにょと動く二本の腕が脳裏に浮かんだ。


「あれは、【ナーガ】だ。たぶん。確か、インド神話に出てくるとかいう蛇の神。それが何かしたか?」


「強いの? いや、強かったわよね」


 高速で動いているせいか、瑠那の長い金糸の髪の毛が強風に煽られたかのようにバサバサに揺れている。


「中間地点にいた─えっと、中ボス?─も、強かったですよね。あの羽生えて飛び回っていた」


 車椅子を押す白い手へと顔を振り向かせながら、美歌は思い出すように言った。


「【ガーゴイル】に【ハルピュイア】だな。回復魔法も扱うから厄介だった。あいつらに先に倒されてしまったけど」


「そう。何が言いたいかというと、私と美歌ちゃんがクリアした最初のダンジョン──ベル塔にいた敵とはやっぱりレベルが全然違うということ。苦戦したほどでもないけれど、私たちでもあっさり倒すことはできなかったのだから、洞窟ここのボスはそれなりに強いんじゃないかなって」


「つまり、松嶋チームもボス戦に時間がかかるんじゃないかってことか?」


「うん。あの子達のスキルとか戦闘スタイルはわからないけど、火力だけでいえばマルチソーサリーとダブルウィッチ、そして【精霊魔法】の使える私の方が上だと思うのよね。客観的に。それに早く進むことに特化しているのならば、火力にはそこまでお金が回せないんじゃないかって」


 それはあくまでも可能性であって不確実なものではあった。本当にスピードだけに特化しているのか、強さはこっちよりも劣るのか、確かなことは何もわからない。だが、エレクトフォンの画面はまだ動いてはいない。


(こんな不確かで望み薄な可能性に賭けなきゃいけないのか? いや──)


 走りながら後ろを窺う。美歌に瑠那、まるで異なる性格の二人だが、大きな共通点が一つだけあった。それは、真っ直ぐに前を見据えているということ。


『私も、美歌ちゃんのまっすぐなところが好きなの!』


 ふと、しばらく会っていない妹の言葉が頭に浮かんだ。


(こいつらは、違うんだ。ひたすらに真っ直ぐに、確実性が何もない可能性にだって自分を賭けられる。運命を賭けることができるんだ)


「だからか……」


「え? 何?」


「いや、なんでもない。このまま、真っ直ぐに進むぞ!」


「言われなくても!!」


『目標地点まであと500メートル。このままのスピードで進めば一分ほどで到着します』


「もう少し! 着いたら速攻でボスを葬るわよ!」


「はい!」


「りょーかい」


 ──返事を聞きながらも、瑠那の頭はもう戦闘体制に入っていた。考えているのはただ一つ精霊魔法のこと。


 精霊魔法は、精霊と呼ばれる特殊な概念を呼び出して使役することで発動する魔法で、これまでの攻略の上ではまだプレイヤーの誰一人として成功させたことのない魔法の一つでもあった。それは主に二つの理由からによる。


(一つは、スキル獲得に必要な金額が途方もない額だということ。そして、もう一つは特定の条件を満たさないとスキルを持っていても発動しない上に一回の冒険において、一精霊につき一度しか使えないという条件の厳しさ)


 だがそれゆえに精霊魔法の威力はこれまでの魔法を遥かに超えることが期待される。バードの音楽魔法よりも、恐らく威力だけで言えば上。それだけに、発動条件はいまだ不明とされていた。


(──のだけど、たぶん合っているはずなんだ。というか現状これしか考えられない)


『到達地点まであと100メートル。残り約10秒弱です』


 暗闇のせいだった。一歩先も見えない暗闇のせいで直線上であるもののボスの姿はいまだに捉えられなかった。


「美歌ちゃん。有門。できるだけ時間を稼いでほしいの。っていうか倒せるのなら倒してもらって全然構わないんだけど。精霊魔法を発動させるから」


「発動条件はわかったのか?」


「ううん、明確には。だけどたぶん、これで合っていると思う。だから──」


「わかりました! 瑠那さんの、その精霊魔法でやっつけてください! それまで私、全力で頑張ります!」


「うん! お願い美歌ちゃん!」


 ポンッと弾いた鍵盤のような声が弾けると同時にそれは現れた。暗い洞窟の中に突然と目を瞑ってしまうほどの強烈な光が溢れた。


「……なに……あれは……?」


 予想を越えたその造形に、美歌は絶句した。

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