画面に映し出されたのは、黒く縁取られたシンプルな白い横軸。右端が0%、左端に100%と書かれ、数十の黒丸がバラバラに配置されていた。
「一つだけ赤丸がありますね。それがご自身の現在地点です。他の黒丸は全員がプレイヤー」
(……仲間同士色分けできないのか)
「その機能は未実装です。ご要望があれば採用される可能性があります」
「それはあとだ。行くぞ! 瑠那に美歌!」
がむしゃらに全力で走り始めた有門の背中に、瑠那は制止の声を投げつけた。が、聞こえているのかいないのか、全く後ろを振り向くことなく有門は暗闇の中に消えていく。
「もう! 美歌ちゃんはそんなに早く移動できないって!」
「でも、このままじゃ、有門さんが危険です。この奥にはなんか強いモンスターがいるんですよね?」
「そう。中ボスね。どんなのか知らないけど、前衛が突っ走ってどうするのよ! なるはやで行くから美歌ちゃん、しっかりと車椅子に掴まっていて!!」
「はいっ!! うわっ!」
「ラピダ!!」
残り回数が最後の速度上昇魔法を自身にかけると、コンクリートの平面を疾走するかのような速さで二人は狭く、曲がりくねった洞窟を駆け抜けていった。さしずめ、美歌にとっては安全バーのないジェットコースターのようで、 目を閉じてしがみついているだけで精一杯だった。後ろが瑠那じゃなければ、あるいは叫び声も上げていたかもしれない。
「追い付いたわ。勝手に先に行くなんてまったく……」
車輪が動きを止めたのと、瑠那の言葉が止まったのはほぼ同時だった。美歌が目を開くと、その原因となる2体のモンスターが空中で翼を羽ばたかせ、目の前にいる有門目掛けて急降下してきた。
「危ない!!!!」
(確かに、演奏なら間に合わない。魔法の詠唱も。だが、技は違う)
「
肉を抉るように突き立てられた4本の爪が有門の剣によって弾かれ、すぐさま切り返される。
「
怯んだ隙を狙って、剣を正面に水平に構えて刺突。
(ここだ!)
単体で繰り出される技は、魔法のような派手さと威力はなかった。だが、技には魔法よりも優れている大きな特徴がある。それは、技と技を組み合わせられるということ。組み合わされた技は、区別されるためにこう呼ばれる。
「『秘技』! 『スリード・レイン』」
エレクトフォンから技名が流れると同時に、有門の体が加速した。
時間にすると一秒にも満たない一瞬のうちに、有門は2体のモンスターの真後ろへ移動していた。大きな丸い美歌の瞳が瞬きした直後に、血飛沫が舞い、モンスターの体がでこぼこの地面に倒れていく。
「すごい……これが有門さんの力……」
「正確に言うと、前衛職の力。魔法ではできない技の力」
(……さすがに使いこなしてる。これは、仲間に迎えてよかったかも、ね)
有門は剣を鞘に納めると振り返った。自信に満ち溢れるその顔が魅力的に見えたのは、暗がりのせいか。
「これで、中ボスは倒した。報酬はオレたちのものだな」
近付いてくるその顔を見ていられなくて、瑠那は顔を背けてしまった。
「え、ええ。あっ、言っておくけど報酬は山分けよ! ね、美歌ちゃん! ……美歌ちゃん?」
何かに気がついたように目を大きく開いた美歌は、ギターを構えた。
「有門さん、剣を抜いてください! まだ微かに呼吸の音が聞こえます!」
「なに!?」
モンスターの方へ体を捻らせる。その先には、震えながら伸びる一本の腕が。
『リアキロ』
消え入りそうな高い声がそれを告げた。
「魔法の詠唱!?」
その声は三人の誰のものでもなかった。というよりもおよそ人間の声とかけ離れていた。それは明らかにモンスターから発せられていた。
有門の目の前に再び鋭い爪が現れる。咄嗟に柄へと手を伸ばすが、刀身は鞘に納まったまま。
(ダメだ! さすがに間に合わない!!)
相応の痛みを覚悟して目を瞑るも、予想していた衝撃は訪れなかった。
「有門!!」
瑠那の呼び掛けに目を開くと、目の前にいたはずのモンスターの姿が消えていた。元々何もそこにいなかったようにぽっかりと空洞が広がっているだけだった。
「モンスターは!? いや、そうか!!」
有門はポケットからアラートを鳴り響かせるエレクトフォンを取り出し、画面を表示した。そこには、「中間地点突破」の文字が。
「くそっ! 先を越された!!」
有門は、エレクトフォンを投げ付けんばかりに大きく振るった。