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第23話 音の攻撃

 甲高い声──それは、まさにコウモリだった。今まで生きてきたなかで現実に目にするのは初めてだが、姿はコウモリと何ら変わりはなく、暗がりに溶け込む黒色に包まれていた。


 だが、それは当たり前のように美歌目掛けて滑空してきた。


(避けられない!)


 衝突の危険を感じて目をぎゅっと瞑ったものの、予想の事態は起こらなかった。恐る恐る開けた視界は、大きな背中で塞がれていた。





「二人とも気をつけろ! こいつら──かむぞ!!」


 有門は瞬時に背中から抜いた剣でガードをしたが、確実に硬い金属のようなものに当たった。暗闇のなかでよくは見えないが、恐らく発達した鋭利な牙。


 弾いた衝撃で床へ落ちたコウモリは、フワリと軽い体を回転させると上空へ舞い上がり、再び滑空を試みた。美歌から有門へと対象を変えて。


 その動きは決して遅いわけではなかった。現に美歌はピックをようやく指に挟むことができ、瑠那は杖を振り上げたところだった。


 しかし、有門にとっては態勢を整えるのに十分すぎる程の長さだった。


 『リポスト切り返し』──その言葉が後ろポケットに入れたエレクトフォンから発せられると同時に、コウモリの牙が待ち構えていた白銀の刀身へと当たる。


 有門は、振り上げた剣を素早く切り返し、コウモリの頭部へとクリーンヒットさせた。


 小さな鳴き声が聞こえたときにはコウモリはゴツゴツした岩肌へと激突し、それきり動かなくなった。


「よし、倒した!」





「油断しないで!!」


 瑠那が声を上げた。それに共鳴するように、甲高い声が3人の耳を襲う。思わず両手で耳を塞がなければいけないほどの。


 たとえるなら黒板やガラスのコップの底をフォークで執拗に引っ掻いたようなその音。それは特に耳のいい美歌にダメージを与えた。


「美歌ちゃん!!!」


 地面に倒れ込むのは有門の太い腕で支えられて防がれたが、手に抱いていたギターは滑り落ちてしまった。


「この! 『ヴェントキリング』!!」


 途端に洞窟内に風の渦が生まれた。渦は一方向へと集まり、手前のコウモリに強風を浴びせる。ポトリと下に落下するが、また別のコウモリが高音域を発した。


「うぁあ! もう、うるさい!!」


「落ち着け!! 敵の数が多すぎる! まずは美歌を!!!」


「わかってるわよ!!!」


 耳を手で強く塞ぎ、瑠那は思考に集中した。真横では顔面蒼白の美歌を有門が必死に支えている。瑠那は杖を固く握り締めた。


 ──私が、なんとかしなくちゃいけない。


(そうは言っても、この音の攻撃。身体に直接的な傷をつけるわけじゃないから魔法の回復は無理。どうすれば──)


 急降下の攻撃で思考が中断された。見上げれば、わらわらと黒い翼が集まってきている。一斉に攻撃されればかわしきれないのは明白だった。


(どうする? ロブで予防線を? いや、回数が少ない魔法をこんな序盤で使うのはもったいない──)


 またもや突撃した来たコウモリのせいで思考が中断された。


「もう、邪魔しないで──って、えっ……」


 後ろへ跳ねた途端に足元に落ちていた小石を踏んで、瑠那の体が仰け反る。


「うわっとと! 危ない……!!」


 手近にあった岩をつかんで転倒を避けたその瞬間だった。瑠那の頭の電球が光った。


(そうだ。魔法のターゲットは敵だけとは限らない。あれを使えば)


 瑠那は片耳から手を離すと、杖の先端で地面をつついた。


「『サブロー』!!!!!」


 それはさっき買ったばかりの土属性の中級魔法。対象を、土で固める効果を持つ。


「な、なんだ!? 瑠那!」


 有門の周りを、いや正確には美歌の周りを地から盛り上がった土が地響きを立てながら覆っていく。


「大丈夫よ! いい、美歌ちゃん、すぐに歌で攻撃して!」


 瞬く間に土の壁で埋め尽くされて、声を張り上げる瑠那の顔が漆黒の塊に隠されてしまった。





(おい、歌で攻撃っても)


「はわぁっ!」


「うお! びっくりした! いきなり変な声出すなよ!」


 上体を起こした美歌はキョロキョロと暗闇を見渡した。


「どうした!? 何かあったのか!?」


「聞こえない!!」


「はあ?」


 大きな瞳がぶつかった。


「聞こえないんです! あの、コウモリの音が!! きっとこの土の壁で覆われて──」


(そうか、そういうことか。あいつ、やっぱり2つも二つ名を持つだけあるな)


 慌ててギターを探す美歌の様子を眺めながら、有門はにやりと笑った。


「美歌! お前、もう一つ武器持ってるだろ?」


「えっ!? ……あっ! そうだ!」


「「歌だ!」」  


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