「マジか500万!?」「それになんでもスキル一つもらえるって!」「ボーナス報酬えぐいな」──周りを取り囲むプレイヤーが興奮したように次々と声を上げた。
「そしたら私はこれにするわ!」
周りの声を気にすることなく瑠那が選んだのは、精霊魔法スキルの『サラマンダー』。火の精霊サラマンダーを召喚する魔法だ。
「熟練度の概念が導入されたって言うから、どんどん競争が激化していくでしょ? 誰でも使えるわけじゃない精霊魔法をいよいよ覚えていったほうがいいかなって」
「なるほど。確かにこれからマルチソーサリーはどんどん増えていくだろうな。それならシャーマンの特性を活かして精霊魔法に進むのは、悪くない」
有門は感心したような声を出すと、そのたくましい腕を組んだ。
「それで、美歌はどうする? 上手く選択すれば、一気にパワーアップするチャンスだが」
「えっと……」
目の前に表示される項目が多すぎて、どう考えたらいいのかさっぱりわからなかった。最初にスキルを購入したときは、瑠那の言うとおりに購入したことで借金が膨らんでしまったわけだが。
(バードは、音楽魔法と相性のいい職業……だよね? だったら他の音楽魔法を覚えたほうがいいのか、それとも新しい楽器スキルを覚えたほうがいいのか、ギターも別のものがほしいし、うーん、えーっと……)
エレクトフォンを茶色のジャケットに入れた瑠那が、美歌に顔を近づける。
「美歌ちゃん! 別の音楽魔法選んだ方がいいよ! 5属性のうち、土と雷はまだ持ってないよね? 一つは今もらって、もう一つは買って、まず5属性をそろえたほうがいいと思う!」
美歌の指が本をめくっていく。土だと『シュタルク』、雷だと『トナンテ』――このどちらかにすれば。
「いや、ここは音楽魔法よりもお金がかかる楽器スキルか、いずれ習得する予定の楽器をもらうべきだ」
余計に悩ませる声が上から降ってきた。
「特に『ソングスキル』は他の楽器スキルと併用が可能だから、単純に効果が2倍になる。熟練度にもよるが。あるいは『エレキスキル』で威力アップを狙うか。そっちの方がお得だと思うぞ」
ページを戻す。ソングスキルにエレキスキル? もちろん歌のレッスンも受けてはきたけど。
「いや、音楽魔法スキルをそろえた方がいいって! これからどんな敵が出てくるかわからないんだから」
「だから、逆に楽器スキルだろ? 今言ったようにソングスキルならギターを弾きながら歌うことで、効果が何倍にもなるし、それぞれ別属性の音楽魔法を使うことで戦闘時にさまざまな工夫が――」
「あんた、わかってないわね! まずは全属性そろえる方が先!」
「わかってないのはそっちだろ。魔法はお前が全部カバーできるんだから、楽器の選択を増やした方が使い勝手がぐんとよくなるって」
瑠那と有門がまた険悪なムードになりかけていた。
(どうしよう、だ、誰か教えて~!!)
「ミカの好きなようにすればいいんじゃない?」
スラッグがまたもや助け舟を出してくれる。無邪気な声色は、人の心を落ち着かせるようで。
「私の好きに……?」
「そう、ミカはこのダンジョンでどんなふうになりたいの?」
「私は――」
このダンジョンに来て、美歌は人前でギターを演奏することができた。瑠那とリアルに出会い、デビューのチャンスを与えられた。デビューに向けて、瑠那と曲も作らないといけないし、ライブでのパフォーマンスを磨かなければならない。ボーカルは瑠那だが、そのうち、叶うことならば。
(私も歌を歌いたい。瑠那さんといっしょに。ダンジョンの演奏が、現実世界でどう影響するかはわからないけど、それでもきっと歌うことができるなら、何か変わるかもしれない)
たった一度のギターの演奏が、自分自身に衝撃を与えたように。
「瑠那さん、私、ソングスキルにします!」
美歌はちょうど開いていたソングスキルの項目をタッチした。淡い赤色の光が画面から溢れ出たと思ったら、本は閉じられ、代わりに「ソングスキル習得」のメッセージが現れた。
様子を見守っていたスケールが杖を持ち上げ、何もない空間を押した。巨大なスキル画面が有角たちの目の前に現れる。
「これでボーナスの授与は終了する。他に購入したいスキルがあれば、買っていくがよい」
もう、熟練度について文句を言うプレイヤーはいなかった。彼ら彼女らの頭は、次のダンジョンをどう攻略しボーナスをゲットするか、そのことしか浮かんでいなかったから。
*
「ふーん、あれが瑠那さんと組んだ車椅子の齋藤美歌か。なんだか頼りなさそう……あれじゃ、瑠那さんがかわいそう」
遠巻きに見ていた一人のプレイヤーがそう呟いた。長い木弓で何度も床をつつくあたり、軽く微笑みながらもイライラしている様子がうかがえる。横にいた長髪の青年は首に手を当てて、その言葉に不同意を示した。
「齋藤美歌はそんなかわいい性格じゃない」
「まあまあ、落ち着いて。怒りを剥き出しにしても攻撃できませんから――今は」
白いフードを目深にかぶった男の口元が楽しそうに微笑んだ。