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第5話 夢のような会話

「えっ!? ウソ!? 美歌ちゃんも夢見てないの?」


「は、はい。家で浦高AFTERSCHOOL見てたんですけど、気づいたらここにいて」


「よかった! 私もそうなの。なんか他のプレイヤーは夢の中でダンジョンに入って、それからここに来たって言ってて私だけ違うのかなーってちょっと不安だったんだよね。ってか、浦高AFTERSCHOOL見てたんだ! ちょうど今日卒業生特集じゃなかった? 私、変じゃなかった?」


「全然変じゃないです! いつもそうですけど、さ、さらにキレイでかわいくて。瑠那さんの自己紹介の番これからってところだったから、ホントは早く帰って続き見たいなと思ってたんですけど……」


「まさかの本物に会っちゃった?」


 ふんわりとした笑顔が美歌の至近距離にあった。出会ってからまだ数分しか経っていないのに、こんなに話が弾むことが美歌にとってはそれこそ夢のようだった。──夢なのかな? 夢だとしてもこうやって会話できるなんて幸せすぎる。


「み・か・ちゃん!」


 眩しいくらいの綺麗な顔が後ろから近づいてきた。


「はっ、はい! すみません!」


「大丈夫? ボーッとしてたよ?」


「あ、その、なんか夢みたいだなって。こうして瑠那さんといろいろ話せるなんて」


「ホント!? 私も嬉しいよ! ほら、私って一人っ子だからさ。美歌ちゃんみたいな可愛い妹がほしいとずっと思ってたんだ~」


「本当ですか? 私でよければ──」


 二人の会話を遮るようにポーンと半透明の青色の物体が美歌の頭の上に乗った。


(あ……気持ちいい)


「ちょっと! もう、関係ないおしゃべりはおしまい! 時間あんまり残ってないんだよ! 急いで説明しないと!」


 左右に忙しく体を回転させながらスラッグは早口でまくし立てた。その体を瑠那は手でつかむと、ほっぺのそれのように引っ張る。


「あ、ちょっと気持ちいい」


「いや、ひゃの、ひゃめてください!」


 口元を綻ばせながら数秒その感覚を楽しんだ瑠那は、パッと手を離した。急に放り出された形になったスラッグは美歌の頭から落ちそうになる。


(……瑠那さんって、意外におちゃめなのかな?)


 瑠那の顔が視界から消えて再び車椅子が動き出す。大広間にはさきほどはいなかったプレイヤーと思しき人がちらほら歩いていた。


「じゃ、説明を続けるけど、今言ったとおり、お金があればなんでもできる。ここはそう、マネーダンジョン」


 硝子玉を鳴らしたような澄みきった声が美歌の耳に滑り込むように入ってきた。画面やマイクを通してではなく直接語りかけられることに、この上ない特別感を感じる。


「今、向かっている【教会】は、主にクラスやスキルの購入ができる施設なんだけど、どんなクラスになるにも、どんなスキルを身につけるのにもお金がかかるの。そのほかにも、アイテムや武具を購入するにもお金がかかるし、このエレクトフォンを使うのにも無料じゃない。現実の日本と同じように全部お金がかかる」


「そうそう!」


 頭の上でスラッグがピョンピョン跳ねる。その度に美歌はちょっとした快感を味わっていた。温かいジェルが被さってくる感じだ。


「それで、お金はダンジョンでモンスターを倒すことでもらえるんだ。そのお金の名前が『エレクトロン』! 紀元前670年頃にリュディアってところで造られた世界最古の貨幣から名前を取っているんだ!」


 美歌は前髪を整えると額を指でかいた。──リュディアってどっかで聞いた気がする。


「ほら! 最近CMでやってない? 裏高AFTERSCHOOL見てるなら毎回やってると思うけど、仮想通貨の──」


「あっ! 仮想通貨のリュディア!」


「そうそう。その会社で主に取り扱っているのがエレクトロンって名前の仮想通貨なんだ。リュディアはもちろん仮想通貨の取引会社なんだけど、このダンジョンを創ったマスターと裏でつながっているみたいで、ダンジョンで得たエレクトロンがそのまま現実世界でも使えるし、円に換金して本物のお金として使うこともできる。そして、その逆もできるの!」


 瑠那はパンッと手を叩くと、早口すぎて頭がまだ追いついていない美歌の前に出て、両手を広げた。


「お金があればエレクトロンを購入して、好きなだけスキルやクラスやアイテムや武具を買うことができる!」


「えっと、つまり、だから──」


 美歌と瑠那はお互いに人差し指を差し合い、同時に声を出した。


「「お金があればなんでもできる。ここはそう、マネーダンジョン」」


「そう、そして私は、お金だけは持ってるから、このゲームでは有利なの!」


(そうだった。瑠那さんはカリスマアイドルというだけじゃなく、 大企業の社長令嬢でもある)


「よし! 説明はここまでにしてさっそくスキルを買ってみよう!」

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