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第28話 再会と、宣言

 大きな扉を開き、中に入るとそこは真っ暗な世界が広がっていた。


「...第4級魔法【ライト】」と、唱えるとパッと周りが明るくなる。


 そうして、数歩いたところに奴がいた。


「...善弥は倒したのか?」と、椅子に座った真っ暗な影に包まれたそいつは低い声で質問をしてきた。


「...いや。そいつは仲間に任せた」

「懸命な判断だな。満身創痍で我と戦うことになれば勝率は0%。まぁ、全快だとしても勝ち筋などないが。前回の戦いでそれは理解しているだろ?」


 そんな言葉で儂の心を折ろうとしてくる。

しかし、当然そんな言葉なんかでは今更気持ちが弱くなったりはしない。


「確かに儂は前回負けた。しかし、じゃからと言って今回も負けるとは限らない。そもそも状況が違うじゃろ。今は隣に優秀な仲間がいるからの」


 そうして、黒い何かの視線は頼光に移る。


「...確かにそいつはなかなかに強そうだ。しかし、所詮はなかなかレベルだ。我の足元にも及びはしないだろう」と、鼻で笑いながらそう言った。


「では、せいぜい足元を掬われないように気をつけてくださいね」

「そうだな」


 さて、どうしようかの。


 お互いが挙動を見てから動こうとしているため、視線や魔力の流れや挙動で無数のフェイントと警戒をする。


 不用意に突っ込めばひとたまりもない。

なるべく、最初は一般的な攻撃魔法で様子見をしつつ、隙をついて一気にやつの知らない能力や魔法で打ち込むというのが大まかな作戦だった。


 なので、一旦様子見で魔法を放つ。


「第1級魔法【千差万別】」と、弓を引くような動きをして、魔法の矢を無数に放つ。


 それに対して、「第1級魔法【百楽外道】」と唱えて、魔法の石像で矢から身を守る。


 ほぼ魔力を使わずにあっさりと攻撃を受けられる。


 こちらの魔力消費量と同じはずなのに、奴の魔力には全く変化がない。


 流石は無尽蔵の魔力量だ。

こんなことを続けていてもこちらには勝ち目がない。


 やつに向かって魔法を放ちながら、距離を縮める。


「ほう?我との距離を詰めるか?しかし、それは無謀だな」


 高速でざまざまな場所に移動する。

これも第1級魔法の【視認移動】。

視界に入っている場所に瞬間移動することができる。


 距離を詰めさせてもらえない。

やるな。


 しかし、移動した先に頼光があらかじめ魔法の罠を仕掛けており、金縛りの魔法が発動するが、瞬時に抜け出す。


「...っち、ちょっとくらい食らえよ」と、頼光が呟く。


 全くもってその通りだ。

こちらの攻撃をスルリスルリと躱してくるのが本当にムカつく。


 それでも、効かないとわかっていても魔法を放ち続ける。


「その程度か?前回から何も進歩していないな」と、隙あらば煽る大王。


 ったく、こっちはお前を倒すのにどれだけ苦労していることか...。

第一級魔法が飛び交うが、ここまでは全員無傷である。


 しかし、こちらはしっかりと3分の1ほど魔力を消費したのに対し、向こうは10分の1ほども使っていないように見える。


 魔力勝負はやはり限界があるな。


 そんなことを考えながらも、頼光と儂でひたすら攻撃をぶち込んでいく。


「おいおい、そんなゴリ押しで我に勝てると本当に思っているのか?」


 分かっている。そんなのは不可能なことくらい。

しかし、魔力切れは一種の狙いでもあった。


 魔力が切れれば当然油断をする。


 そこで頼光の五行の技と儂の開発した魔法をぶち込むことで、もしかしたら少しの隙が生まれるかもしれない。


 それから少しして、やや魔力が尽きはじめてきたころ、やつの油断が生まれる。


 間合いを詰めようとした瞬間、カウンターで攻撃をしながら、奴の背後に回り込んだ頼光にまで合図を送る。


『今だ!』


「五行占霊【完全式】」と言った瞬間、前回見た五行占霊の全ての攻撃一気に襲いかかる。


 眩い閃光と共に一旦その場を離れる。


 攻撃は恐らく当たった。

しかし、ダメージになっているかは甚だ疑問である。


 そう思っていると少しずつ姿が鮮明になっていく。


「...やったか?」と、呟くも奴は「いい技だな」と、笑いながらそう言った。


 ほとんど無傷だった。


「...あれだけの攻撃を直撃して無傷とかまじかよ」

「まさに悪魔...か」


 もう少しダメージが入ってて欲しかったが、それは儚い夢となった。


 そして、同時にやつも先ほどの攻撃を吸収し、自分のものへと変換しつつある。


 さて、奇襲アンド初めての攻撃は見事に失敗した。


 もしかしたらとは思ったが、やはり奴には勝てないのか。


 それからは何とか魔法をぶち込むが、あっさりと受けつつ、先ほど奪った力を見せつけるべく、俺や頼光に五行占霊をぶつけてくる。


 魔法だけでもキツかったのに、新たに得た力を我が物顔で使ってくる。


 しかし、防戦一方の状況は一切変わることはなく、どんどんと魔力は消費していき、気づくとすでに魔力は底をつきそうになっていた。


「はぁっ、はぁっ、はぁ...」

「ガッカリしたぞ、シエル。お前は一体なんのためにここまで来たんだ?前回の戦いから何も成長していないし、強くもなっていない。こんなので我に勝とうなど、100年...いや、1000年早いわ」


 ごもっともだ。

儂は限界ギリギリだし、もはや勝ち目はない。


 やはり、奴には勝てないのだ。


「...強いの。やはり...儂は勝てないかもしれない」

「かもではない。勝てないのだ」


 次の瞬間、奴の放った魔法が儂の体を貫く。


「うぐっ!?」

「シエルさん!」


 そうして近づいた頼光も魔法を直撃し、壁際まで吹き飛んだ。


「ガハッ!?」


 すると、がっかりしたようなそぶりを見せてから、奴はこう言った。


「...興醒めだな。何か策を練ってくると思ったら、ただの自爆特攻が限界か」


 そのまま儂は膝をついて舌を俯く。


「...勝負はついた...か」


 そうして、儂はニヤッと笑うのだった。

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