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第27話 激突と、隙

 あれから数日後、ほとんどモンスターが襲ってくるわけでなく、地下48階まで到達した。


「...下には奴がいますかね?」

「恐らくいるじゃろうな。さて、作戦を立てるとするかの」


 全員を48階のダンジョンの中心に集めて作戦会議を始める。


「...奴のいう通りであれば恐らくこの下の階にやつがいる。大河原 善弥と言ったかな。強さはかなりもの。無策で突っ込めば全滅もあり得るからのぉ...。それに向こうも無策で黙って待ってるとも想像できない」と、胡座で地面に文字を書きながら説明する。


「しかし、どう対策しますか?無詠唱どころか所作すらなく第1級レベルの魔法をぽんぽん使ってくる相手に...」と、頼光は眉間に皺を寄せながら考える。


「ですよね。私の忍法も恐らく奴には効きません。一斉に攻撃するのが最も可能性が高いとは思いますが...その場合リスクも高いですよね」と、神楽耶はおにぎりを食べながら案を出す。


「...全員が全力を出せば倒せなくはないかもですが...最終決戦前に満身創痍では意味がない」と、光来も腕を組みながらそう続ける。


「じゃあ...いっそ引き返します!?」と、霊山が笑いながらキョロキョロと見つめる。


「何をふざけことを...。答えは出たじゃろ。あの化け物の少年は我ら四人衆で引き受ける。その隙に2人は50階に向かう。これが最善じゃろう」と、粟津が提案する。


 確かに現実的にはもうそれしかない。

倒せてもボロボロでは意味がないのだから。


「...本当にお主たちで倒せるのか?」

「分からん。しかし、倒せるか倒せないかではなく、やるかやらないかじゃ。命を落としてもやるしかないのじゃ」

「じゃが、どうやって隙をつくる?」


 すると、四人衆と頼光が霊山を見つめる。


「...え!?俺!?」


 なるほど。何か秘策があるということじゃな?実際、此奴は現時点でなんの役にも立っていない。


 これまでの戦闘も全て逃げの一手のみ。

しかし、四人衆と呼ばれるのであれば何かあると思っていたが。


「今まではなんの役にも立っていなかったですが、四人衆の中で最も強いですから」

「いや!俺弱いって!何その無駄な期待!やめてよ!」と、子供のように駄々をこねるが、無視して続ける頼光。


「わかった。詳しいことはお主らに任せる。さて、問題は大王じゃな。正直、儂も詳しい能力については知らぬ。分かっていることは無尽蔵の魔力量と見た独自の能力をコピーできること...じゃな」


 その言葉を聞いて、少し驚く頼光。


「...つまり、私の五行も一度見られれば使われる可能性があるということですね」

「そういうことじゃな。だから、自分にとっての決め技は最後まで取っておくのがベスト。ちなみに、儂は前回やつと戦ったが、負けた。命からがら何とか逃げ切れたが、もう一度戦っても勝率はいいとこ3割程度と見積もっていいじゃろう」


 そう、儂は負けているのだ。

もちろん、善戦はしたが、向こうはまだ余力を残しているように見えた。


 底が見えない...というのは怖いものだ。


 そんな儂を見て、少しだけ不安そうな表情を見せた頼光に「大丈夫じゃ。前回は儂1人じゃったからな。今回はお主がいる。安心せい」と、ニコッと笑う。


 そう、今回は2人だ。

だからこそ、あれが使える。

後のことは頼光に任せて、全力を出せる。


 その後、各々が準備を始め、勝負に備えた。


 ◇


 翌日、万全の状態で49階に降りると退屈そうに欠伸をしている大河原 善弥の姿がそこにあった。


「...あ〜、やっときたんですか〜?もー、遅いじゃないですかー。待ちくたびれちゃいましたよ〜」


 改めて見てわかった。

やつは人間の姿をした化物ではなく、人間だ。

そんなことを改めて言ったところで、士気が下がるだけだし、人間であろうとそちらについたのならもう人間とは認めない。


 さて、本当に霊山にあの小僧の気を引けるのか?


「いやいやいや!絶対無理だって!」と、叫び続けている姿を見ても、どう見てもあの中で一番強いようには見えんのじゃが...。


「皆さん、流石に数日前に会った時より顔が疲れていますね。今からでも引き返しても構いませんよ?」と、やや挑発してくる。


 そんな挑発になるはずもないのだが、「まじ!?よし、帰ろう!帰りましょう!」と、霊山だけはそれを本気でとらえていた。


「...全く...どうしたもんかの」


 そう呟いた瞬間だった。


「なんであなたみたいな人がここにいるんですかね?正直、場違いというか、今日が削がれるんですよね。やめてくれます?」と、またしても突然霊山に第1級魔法【雷國雷鳴】という、雷を5つ重ねた攻撃が直撃する。


「うぐっ!?」という声と共にその場に倒れる霊山。


 逃げ上手とはいえ、不可避の速攻に対処することはできなかったようだ。

まずいの...。これじゃあ、作戦は大失敗...。


 そう思った瞬間であった。


 霊山の体がむくっと起き上がる。

おいおい...何がどうなっているんじゃ?


「ぷはっwいやー、まじウケる。ようやく逃げ上手のご主人様がダウンしてくれたおかげで出てこれたわー」と、まるで別人のような雰囲気なった霊山がそう呟く。


「...今の一撃を受けて死なないどころか立ち上がってくるなんて...びっくりしました」と、素直に感心する小僧。


「爺さんとは初めて話すな。まぁ、主人の中から見てたから状況は当然わかっている」と、体操をしながらそう言ってきた。


「状況がわからないのはむしろ儂のほうなんだが、無事だと思って先に進んで良いのかの」

「おう。一向に構わない。俺があいつの足止めをする」


 先程までの余裕の表情が小僧から消える。


 それは霊山から溢れる魔力量が先ほどまでとは、比べようもないほど大きくなっているが故である。


 つまりはダブル(二重人格)ということじゃな。


「...さて、井の中の蛙...いや、ダンジョンの中の少年というべきか?世の広さを教えてやる」と、言った瞬間、霊山は瞬間移動で小僧の背後をつき、魔力で強化した腕で攻撃する。


 しかし、儂と同様、奴の体の周りにはオートの魔法防御が貼られており、霊山の攻撃は弾かれる。


「僕に世の中の広さを教えてくれるのでは?」と、背後の霊山に向かってそう言った。


「あぁ、油断大敵ってことだよ」


 その瞬間、オートの魔法防御を突き破り、小僧の肉体に攻撃が通る。


「なっ!?」と、なんとか体を翻し、致命傷を避けた。


 それと同時に儂と頼光は地下への階段へ走り始める。


 千載一遇のチャンス。

そう思って飛びだしたが、すぐに小僧もそれを察知してすぐにこちらに向かってこようとするが、四人衆が浴衣を阻む。


「っち!どけろ!邪魔をするな!」と、これまでの余裕そうな口調は何処へやら、眉間に皺を寄せて、こちらに魔法を放ちまくるが、ようやく儂は理解した。


 無造作にどうやって魔法を放っているのか...。


 それは視界にとらえたものでなければ放たないのではないかという仮説。


 だから、煙幕の魔法を使った瞬間、奴の攻撃は標的を失って離散した。


「まてぇ!」という声を無視して、儂ら二人は地下への階段を勢いよく降りる。


 後は...頼んだぞ。


 そう心で鼓舞して、大王が待つ50階に足を踏み入れた。

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