そんな声に飛び起きる儂と頼光。
声のする方向に目を向けると、そこに居たのは数体のSS級のモンスターだった。
「ぎゃああ!”」「ぐぅぎゃあ”あ”あ」「あぁぁぁぁぁ!?!?!」と、意味不明な鳴き声を叫びながら近寄ってくる魑魅魍魎。
そういう...ことじゃな。
なぜ、今まで数階に一体程度しかモンスターが配置されていなかったのか。
それは弱ったタイミングに一気に畳みかけたほうが有効だと判断したから...。
「しかし...そりゃ悪手じゃな」と、儂がつぶやくと、無言で歩き始める頼光。
「...この国では魔法以外にも様々な能力がある。その一つがこれだ」と、胸元からセンスのようなものを取り出すとモンスターのほうへ向ける。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」
その瞬間、視線が一気に頼光に集まる。
「【五行占霊[炎式]】」と、唱えた瞬間、頼光の背後から黒い炎の龍が現れ、次々にモンスターに襲い掛かる。
しかし、火に耐性のあるモンスターはそれを無視して、頼光に突っ込む。
「もらっだああぁぁっ!」と、叫びながら切りかかるが、「【五行占霊[金式]】と唱えると、金色に輝く大きな盾のようなものが現れ、それを切った瞬間、なぜか金の盾ではなく敵自身が真っ二つに切れる。
「な、なんだこれ!こんな魔法知らないぞ!」と、慌てふためくモンスターと奴の配下と思われる部下たち。
「知らないのも無理はない。この国独自のものだからな。さて、泣いてわめこうが許しはしないからな。覚悟しろ。【五行占霊[木式]】」
そう唱えると、モンスター全てに木が枝が絡まり立てなくなってしまう。
どんだけ払っても無限に生え続け、そして奴らの体を拘束する。
「っち!なんだこれ!?っちきしょう!」
「覚悟はできたか?さて、そろそろ終わりにしよう。【五行占霊[水式]】」
モンスターの周りを球体上の水が覆う。
そのまま溺れ苦しむやつらを見て、全く表情を変えずに続ける。
「最後だ。【五行占霊[雷式]】」と、唱えると水の球体の中から電気を帯びた何かが現れ、それは次第に大きくなり、そして雷を発散するように水の中で爆発した。
「ぎゃああああああ!!!」「いたあああああああああ!!!」「う””””””””!!」という断末魔がダンジョン内に響き渡る。
「楽に死ねると思うなよ、物の怪どもよ」と言い放った彼の表情は静かに怒っているように見えた。
いや、これが本来の頼光の実力ということか...。
10体以上いたSS級モンスターをあっさりとしとめた頼光を見て、思わず感心する。
「...すごいの。儂が出会ってきた中でもトップクラスに強いの」
「そうですか?ありがとうございます。まぁ、向こうの国の物の怪は私の術を知りませんから、かなり有効なんですよね」
間近で見ていた四人衆も改めて感心するように、或いは尊敬するような目を彼に向ける。
「すげぇ...流石は頼光様」「...そうだな」「も、もう一人でよくないですか!?」「酒呑童子を倒してからも腕は鈍ってないようじゃな。ほっほっほ」
この国で最強と呼ばれることだけはある。
「さて、これ以上はいったん襲ってこないと思いますし、もう一回休憩しましょうか。シエルさん」
「...そうじゃな」
◇
真っ暗なダンジョンの地下深く。
最深部にある大王様の部屋に報告を兼ねて、スキップしながら向かっていた。
いや...間近で見るとどっちもなかなかに強そうだったなー。
あー早くここまで来ないかなー。
そうして、部屋をノックすると、大王様が返事をする前に部屋に入る。
「大王様、差し向けたモンスターと部下、全滅しちゃいました」と、少しへらへらしながら、報告を行う。
「...そうか。やはりあの程度では歯が立たないか...。全滅は奴の仕業か?」
「いえ。その仲間である男によってすべて倒されました。流石は酒呑童子を倒した男...といったところでしょうか?」と、やや興奮気味で僕が語ると、それを察してか「戦いたくてうずうずしているといったところか?」と、笑いながら大王様は言う。
うまく隠していたつもりだけど、やっぱり...この方にはばれちゃうか。
「はい!ぜひ、どちらとも戦ってみたいです!」
「そうか。今は40階だろう...?もう少しでここまでたどり着くな...。いやぁ...これは楽しみだ」
「えぇ!すごく楽しみです!」と、僕は笑う。
さて、僕の昔話を少ししよう。
◇
僕の家は貧しかった。
貧しいのに兄弟は8人もいた。
とある貧しい国のその中でも貧しい村で、母と兄弟と自分の合わせて10人で住んでいた。
当然、家の中もかなり狭く、川の字で寝るのも難しい状況だった。
その中で一番下の末っ子として生まれた。
ちなみに父親は知らない。どうやら、母を妊娠させてそのまま消えたらしい。
父は顔こそよかったものの、どうやら性格は終わっていたらしい。
更に兄弟の中でもとびきりひ弱で、内気な性格も相まって、兄弟たちには散々いじめられた。
唯一の救いであるはずの母にも『お前なんて生まなきゃよかった』とずっと言われていた。
居場所なんてどこにもなかった。
それでも毎日生き抜くために、何をされても無表情でただただ耐え続けた。
何のために?生きるために?なんで生きる必要があるの?死ねば終わるのに。
僕自身もずっとそう思っていた。
この世界に神という存在がいるかもしれないという話を聞く前に、僕はそんなものは存在しないと知っていた。
だって、神なんて言うものがいるのなら、なんで僕を産むはずがないから。
いじめられるために生まれて、だれからも必要とされず死んでいく。
そうして、兄たちに見えないように毎日、怯えながら床に落ちたパンをひっそりと食べる。
こんな人生に何の意味がある?そう...意味なんてない。そして、神も存在しない。
存在しているとしたら、それは神という名の悪魔だ。
その時、僕の心に悪魔が生まれた。
それはそれは巨大で巨悪な悪魔。
悪魔は僕にこう囁いた。
『殺したい相手はいるか?』
質問にはこう答えた。
『人間』
そうして、悪魔は僕の想像から抜け出し、創造された。
それからは一瞬の出来事だった。
家族が全員、殺されていった。その悪魔によって。
ある者は雑巾のように絞られて、ある者は業火の火に焼かれたごとく死ぬまで全身にやけどを負い、ある者はまな板に乗せられた魚の如く、綺麗に切られた。
憎い人間の断末魔はどんな音楽より心地よかった。
助けてと情けなく縋る兄を蹴飛ばし、殺した。
その瞬間、僕は決めた。人間を全員殺そうと。
その時点で僕は人間を辞めたのだ。
「...っは...はははは!はははははは!!!」と、人生で初めて大きな声で笑った。
それから数日後、遺体を眺めながらご飯を食べていると、何かが現れた。
「...お前、人間は嫌いか?」
どう見ても人間ではない何か...。恐らくは悪魔と呼ばれるものであった。
それも飛び切りぶっとんだ強さの悪魔だった。
「...はい。人間は嫌いです」
「そうか。なら、我と来い」
「...はい!」
「お前、名前は何という」
「...大河原 善弥」
「いい名前だ」
初めて名前を誉められた。
それが嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
「...ありがとうございます」
そうして、僕は人間を殺す悪魔に生まれ変わった。