「っぐ!!」と、無理やり体をひねって脱出するも出血がひどい...。
何があった...?
儂は常に薄い魔法膜で自分の体を守っている。
それをあっさりと貫通させる魔法...。
それも無詠唱どころか、一つも挙動なく魔法を使いおった。
見た目はどこにでもいる15歳くらいの少年だった。
しかし、あふれ出す悪意がただの人ではないことを証明する。
「...若いのにやるのぉ」と、睨むと薄ら笑みを浮かべながら奴は「だめですよ。自動防御に頼ってちゃ。だからこうやって僕の攻撃を受けちゃうんですよ」と言う。
参ったの...。奴の魔法がどういう類のものかすらわからなかった。
次にいつ儂の胸を魔法が貫くか分からない。
次の瞬間、頼光が抜刀し、その少年に向かって切りかかるも、刃が少年の前で止まる。
「けど、そんなことをいいながら自動防御に頼っちゃってる僕もよくないと思いますがね」
「っち、通らないか」と、剣を引く。
そのまま全員が臨戦態勢に入る。
「いやぁ...すごいですね。全員手練れだ。こんな人たちを僕一人で相手にしていいなんて、本当太っ腹ですよね」
まずいの...。こちらの手の内はおそらくある程度割れている。
儂の存在も奴に伝わっているはずだ。
「みんな、奴がどうやって魔法を使っているかわからない。攻撃は慎重に行い、基本的には防御を優先するのじゃ」
「「「「「はい!」」」」」
さっきまでの、ちぐはぐ具合はどこへやら...。
しかし、なんだあの少年らしきなにかは...。
隙だけに見えるはずなのに攻撃を臆してしまうほどの何かがある。
神楽耶を起点に遠距離攻撃を行うも、あっさりと躱す少年。
「あぁ、そうだ。僕の自己紹介を忘れていました。大河原 善弥と申します」
こちらの攻撃など気にも留めていないようにそんなことを言う。
それからの猛攻も欠伸をしながら難なくかわし、防御し、適当な攻撃を仕掛けてくる。
明らかにやる気を感じられない。一体、何が目的なんじゃ?
「ふんふん、なるほど。確かに全員凄腕ですが...正直、大王様に勝てるほどの実力ではありませんね!特にシエルさん...。大王様が警戒するからどれほどのものかと思いましたが、僕の不意打ちをあっさり食らっちゃうレベルじゃ、到底勝てないと思いますよ!まぁ、挑戦するのは自由ですから止めませんが。それではまた、49階層までこれたらお会いしましょう」
余裕綽綽と言った感じで去っていくのであった。
そのまま、儂は簡易的に治療を行い、少し休憩をすることにした。
「...やばいっすね。大王に会う前にあんな化け物と戦わないといけないなんて...。正直こちらの攻撃は一切通らないですし、勝てるイメージがわかないっす」と、少ししょんぼりする神楽耶。
「...いや...大丈夫じゃろ」と、儂は言う。
「大丈夫って...攻撃すら当たらないのにどうやって倒すんですか?あの化け物」
「奴が本当にそれだけすごいのであれば、なんで攻撃を躱したと思う?」
「それは...確かに」
攻撃を受け止めずに躱すということは、攻撃を受け止めきれない可能性があったからだ。
恐らく、あの少年が使う魔法すべてが独自に開発した魔法じゃ。
じゃから、発動タイミングも、いまどういう魔法が使われているかも分からなかった。
しかし、頼光の剣を自動防御で防いだくせに儂の魔法は受けずに躱していた...。
つまり、最初に儂に不意打ちを突き、その結果頼光がつっこんでくることを想定していたからこそ、自動防御のメインを物理攻撃重視にし、まるで何も攻撃を通さない魔法を使っているかのように演出した...ということじゃろう。
完全で完璧な魔法なんて存在しない。
どの魔法にも弱点はある。独自で開発したものでも同じなはず...。
しかし、面倒なやつがいたもんじゃな。
少しの休憩後、すぐに立ち上がり、儂らは下の階層に降りて行った。
何階層かごとにS級程度のモンスターが現れるも、このレベルには苦戦することなくどんどん進んでいった。
そうして、35階層まで降りたところで再度休憩をとった。
「...今日はこの階層で休むとするかの。とりあえずいつも通り二人は出口と入り口で警戒。テントの周りで警戒。二人はテントの中で寝る。これを3時間程度ごとに交代で行うぞ」
「3時間睡眠きついよ!眠いよ!シエルさん!」と、泣きつく霊山にチョップをくらわし、いったん休憩をとることになった。
それにしても...いやぁ...困ったもんじゃの。
下の階層に向かいながらも色々とやつの対策を練っていたわけじゃが...。
やはり独自の魔法となると解析にそこそこの時間が必要になるわけで...。
スムーズに進んでいるからこそ、恐らく解析は間に合わず奴と対戦することになってしまう。
避けたいところじゃが...さて、どうしたものかの。
「...悩んでます?」と、頼光がお茶を注ぎながらそう言う。
「...そうじゃの。あの少年についての」
「少年って...見かけはあれなだけでただの化け物でしょ?」
「...いや、恐らくあれは人間の子供じゃ」
そういうと、頼光が驚いたような顔で儂を見つめる。
「...いやいや...そんなこと...」
「分かるんじゃ。あの少年の目は昔の儂によく似ていた。軽い口調でごまかしているつもりかもしれんが、憎しみと悲しみと嫉妬と恨み...それが詰まったような眼をしていた」
まるで昔の自分を見ているようで...だからこそ、手にかけることが惜しくてたまらなかった。
儂もそうだ。きっと、あの年に大王と出会っていたらきっとうまいこと唆されていたじゃろう。
そう...少し世界戦が違えば...この戦いに仲間として参加していたかもしれない少年。
「それでも...歯向かうなら倒すしかないですよね?」
「...あぁ。それが平和のため...。人類のためだ」
「だとしたら私は切りますよ。それが人であろうと」
そうだ...。迷うな。自分の目的を見失えばそれこそ終わりだ。
「そろそろ寝ますよ。睡眠は大事です」
「...そうじゃの」
その瞬間、ダンジョン全体が揺れる感覚に襲われる。
「「「「敵襲!!」」」」