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第24話 様子見と、最強の手下

「お爺さん本当にすごいんだ、びっくりした」

「だから言ったろうが」と、頼光が注意する。


 そうして、更にダンジョンの地下に潜っていく。


 現在は地下7階層...。

この最強のダンジョンは全50階層であり、まだまだ先は長い。


 細かい敵の姿も見えないし、このまま進めるなら10階層くらいまでは行きたかったのじゃが...。


「ねーえーみんな休もうよー、喉乾いたよー」と、霊山が嘆く。


「どうする?頼光。少し休憩したほうが良いかの」

「いや、このまま進みましょう。どうせ、霊山一人になったら死ぬのはわかってるから死んでもついてくるはずですし」

「ねぇーえ!聞こえてるんだけど!鬼なんだけど!」


 すると、光来が無言で霊山を背負い始める。


「光来さんありがとう!あぁー楽だ~!よし、これなら一生進めるぞ!みんないけ~!」と、途端に調子に乗る霊山。


「...本当に使えるんじゃろうな?」

「...えぇ...おそらく」


 そうして、10階層まで来たところでいったん休憩する。


「よし、みんな休憩じゃ」

「えー!俺はまだいけるよ!もっと進もうよ!」という霊山に向かって、「じゃあお前ひとりで行ってこい」と、怒りがピークになった頼光が笑いながらそう言った。


 頼光のあんな顔...初めて見たぞ。


 全員が各々休憩しつつ、俺と頼光が作戦を練っていると粟津が近づいてくる。


「...ふむ...。頼光が言っておった通り...本当にすごいやつらしいの、お前」と、儂を指さしそう言い放つ。


「ちょっと、粟津の爺さん。口の利き方には気を付けてよ。シエルさんは粟津の爺さんより年上なんだから」

「っふん。60超えたら年下も年上もあるかい。どうせ同じじじぃじゃろうが」

「同感じゃな。ため口のほうがコミュニケーションは取りやすいし、そのままで行こう」


 すると、腰を下ろして「イテテテ」と言いながら、儂らのみていたダンジョンの地図を眺める。


「...さっきのは様子見...じゃのう。こちらの侵入には当然気付いているはずじゃ。だとしたらこれからはさっきのレベルではないやつらが襲ってくることが考えられる...。何か対策はあるのかの?」と、粟津が頼光に質問する。


「対策...はないこともないけど、正直回りくどいし、成功するかもわからない。だから、私としてはなるべく早く最下層にたどり着きたい」

「おぬしも同じ考えかの?」と、今度は儂に質問する。


「...そうじゃのぉ。ここまではある程度予定調和といったところじゃ。しかし、この先はいくらでも予想外は起こりうるからの。それに対策するよりかはまっすぐ降りるのが最善じゃと考えている」

「そうか...。それじゃあ、任せるかの」

「何かいい案でもあったのか?」

「まぁ...一つ妙案があっての」

「...どんな?」


 その話を採用することに決め、少し休憩したのちに再度出発することにした。


 そうして、地下15階層まで来たところで、再び化け物が現れる。


 いや...あれは化け物...に該当するのじゃろうか?


 真っ黒で丸い球体がダンジョンの真ん中に鎮座していた。


「罠...かの?」

「どうでしょう。霊山でもぶち込んで罠かどうか確かめますか?」

「え!?なんか俺に聞こえていないところですごい会議していない!?」


 全員が慎重に動きながら、左右に3人ずつに分かれて壁沿いに次の階層に向かうべく歩いていた。


 すると、突然、丸い球体から黒い液があふれ始める。

そして、足元にすべていきわたった瞬間、入り口も出口もその黒い液が覆い閉じ込められてしまうのであった。


「うわ!?ナニコレ!?やばいですか!?これは!?」という霊山を無視して、儂はその黒い液体に触る。


 墨汁のように黒いが...いくら触れても手は黒いならない。

一体、これはなんだ?と思っていると、黒い液体から、黒い6体の何かが現れる。


「...面白いの」


 それはここにいる6人の分身であった。


「うわー!俺が出てきた!けど、やっぱり黒い」


 全員が自分の分身と向き合っていた。


「...ホンモノニナリタイ」


 これは...厄介な化け物が出てきたものだ...。


 ◇炎国の帝 ダンジョン地下50階


 ジャルル・アンベルクが死んだ報告を受けてから数時間、ワインを片手に優雅に過ごしていた。


 酒呑童子をやった源頼光...。それと四人衆であれば正直、我の相手ではない。

しかし、部下の情報ではもう一人頼光に接近している者がいると聞く...。


 まさか...奴か?しかし、ここは遠方の国...。わざわざ来るとも思えんが。


「侵入者は6人です」

「...6人だと?頼光と四人衆...それと誰がいる」

「それが...白髪の老人でして...」

「老人?粟津以外の老人がいるということか?」

「...はい」

「...西洋風の見た目をしているか?」

「はい」


 その言葉でピンとくる。

やはり奴だ...。この国で西洋風の見た目をした老人がいるわけもない。

いるとすれば我を追ってやってくるやつのみだ...。


「っく...っくっくっく...とことん我のことが嫌いなようだな」

「...どうしますか?」

「奴がいるとすれば、おそらく部下の誰が行こうとここにたどり着くはずだ。我はそれをゆっくりとワインを飲みながら待っていればいい。まぁ、それでも疲れてくれると助かるからな。適当に戦力を送り込んでおけ」

「...僕が行ってもここまでたどり着きますか?」


 まっすぐな目で我を見つめる。

我の側近であり、もっとも実力を認めている男、大河原 善弥。

人間に強い恨みを持っているこいつにとって、我が人間を評価することはひどく不快なのだろう。


 その空気が全身に伝わってくる。


「...殺したいか?」

「はい。人間なんて誰一人生かしておく必要はありません」

「若いな...。まぁいい。もし、地下改装49階まで来たときは、その時はお前が相手してやれ」


 そんな信頼に満ちた言葉を聞いたリベスタはうれしそうな笑顔を見せて、「...はい!」と言った。


 しかし、我を追い詰めるためにわざわざあんな遠い国からやってくるとは...奴の執念は並ではないな。


 そのままゆっくりとワインを口に含む。


「...人間ごときが...我に勝とうなど...1000年早いわ」


 ◇


 現れた分身は攻撃しても液体のように零れ落ち、またすぐに再生し、なかなか攻略できずにいた。


「これ...!どうすればいいんですか!?結構きつくなってきたんですけど!」


 確かに...これ以上時間はかけたくない。

しかし、フロアごとぶっ飛ばせば、ダンジョンが崩壊しかねない。

そうなれば奴はきっとまた要塞を作るべく他国に飛ぶだろう。


 もう逃したくはない。

そうなると必然選択肢は限られてくる。


「頼光...こっちにこい」

「はい、シエルさん」と、分身の攻撃をかわしながら、近づいてくる。


 通常の物理攻撃も魔法も聞かないとなると、おそらく攻略方法は別にあると思われる。


 儂は地面に手を当て、地震を起こす魔法を使う、


 次の瞬間、ガタガタと揺れる地面に、一体の何かが浮き彫りになる。


 それは黒い液体に隠れた白い球体。


 やはりそういう仕組みか。


 そのまま、俺は一級魔法で白い球体を打ち抜くと、潮が引くように黒い液体も消えていった。


 面倒な化け物だった...。しかしこれもおそらくS程度の実力。

何が起こっている。

てっきり酒呑童子級が出てくると思ったのに、さっきからレベルの低い化け物しか現れない...。


 これは一体?


 そう思っていると、次の地下階層に扉が開く。


 すると、そこには一人の少年が立っていた。


「...本当は49階層で待ってろって言われたんですけど、来ちゃいました」


 気配でわかる...こいつは恐らく奴の直近の手下...。


「はじまして、シエルさん。そして、さようなら」


 次の瞬間、儂の胸を魔法が貫いた。

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