「酒呑童子という鬼が居てですね...。それはそれは恐ろしい妖怪だったです」
「なるほどのぉ。あの化物の名前は酒呑童子...というのか。話は聞いている。じゃが、お主はそれを討伐したのじゃろ?」
「...そうですね」
あれから数週間が経過した。
今回の敵である、奴について詳しく話しつつ、親睦を深めるため、これまでの自分の思い出や経験を惜しみなく話した。
最初に出会った城の最上階は二人とも好きな場所であり、夜になるといつもここで話をしていた。
「それで?勝算はあるのですか?私たちに」と、日本酒を儂にそそぎながら頼光は話を振る。
「...負けはないの。絶対に」と、少し飲んでからそう言った。
「なぜ言い切れるんですか?」
「負けそうになったら封印をする予定じゃからの。儂もろとも巻き込んで。しかし、これはあくまで最終手段。封印は先送りに過ぎない。後世に任せるようなことはできるだけ避けたいからの」
「...そうですね。それは避けたい」
そう呟いた彼の視線は奥さんのほうに向かう。
「...子供がいるのか。お腹に」
「...ですね。だから、先に言っておきます、シエルさん。私の身に何があろうと倒せると判断したら奴を倒してください。封印は...私も避けたいですから」
自分のことよりまだ見ぬ息子のことか。
思っていた以上に優しい人間のようじゃな。
「...分かっておる」
「シエルさんは奥さんいないんですか?」
「いないのぉ。全世界を旅してダンジョンをめぐり化物退治している儂を好むものなんていないからの」
「そうですか?なら、この国で見つけられるといいですね」
頼光はまっすぐと儂を見据えてそう言った。
「...そうだとありがたいの」
◇
「...この国の主戦力は...つまり、源頼光という男ということか?」
「はい。しかし、酒呑童子や土蜘蛛など、強力な妖怪を倒しており、化物退治に関しては定評のある男です」
「...我らを専門としているということか。しかし、どれほど強かろうと関係ない。我らに敗北はあり得ない。だが...付け込める隙があるのは助かる」
真っ暗な洞窟の中、ダンジョンのSS級モンスターを食べながら呟いた。
「それでは私は引き続き、使えそうな部下を探してまいります」
「...頼んだぞ」
「はい...大王様」
いくら強いといっても所詮は人間...。
卑怯な手を使えば勝つ手段などいくらでもある。
しかし、それでは我の実力を世界に示すことはできない。
となると、正面から...まっすぐに叩き潰すのがよいか。
「さぁて...どうするか」
◇数週間後
「大体の準備は整った」
「アイテムの設置も終わりましたか?」
「まぁの。悪いの、場所を内緒にして。信用していないわけではないが...」
「分かってます。そもそも私が知っていることにメリットはないですし、むしろデメリットのほうが高いというでしょう?」
「うむ」
様々な道具と戦術、そしてあるアイテムを抱えて、とあるダンジョンに入る。
それは900年間、誰も突破したことがないといわれているこの国の最難関ダンジョン【炎国の帝】だった。
「本当にここにいるんですか?」
「おそらくの。まぁ、勘ではあるが」
「...勘ですか」
ダンジョンに入ったのは儂と頼光、そして国で最も優れて言われている化物退治専門の四人衆を合わせた6人。
「頼光様~、この爺ちゃん強いの?」と、四人衆の一人、【
確か、頼光の姪っ子に当たるんだったか。
年の頃はまだ10代後半くらいで幼さが顔に残っている。
恰好はかなり軽装であり、顔には黒い布のようなものをまとい目だけ見えていて、額には銀の板のようなものがついている。
主な武器は短刀と飛び道具がメインであり、素早さと隠密が取り柄らしい。
「おい、シエル様は私より強いんだ。口の利き方を気を付けろ」と注意するものの、老いぼれの儂が頼光より強いという言葉を信じていないのか、「へーい」と適当に返事をする。
「...すみません。教育が行き届いて無くて...。しかし、腕は立つから安心してください」
「...それじゃと助かるんじゃがの」
そんなやり取りを腕を組んで黙ってみている男。
四人衆の一人、【
年の頃は30代前半くらいで筋肉隆々の男。
恰好は武士らしく甲冑と腰には名刀を差している。
主な武器は刀だが、接近戦も得意な万能型らしい。
「...全然喋らないの」
「人見知りなんです。悪い奴ではないので許してください」
「...うむ...」
少し早めに移動をしていると、後ろの男が駄々をこね始める。
「みんなぁ、はやいよぉ...俺体力ないんだよぉ...」と、息を荒くしながらふらふらと歩いてくる男。
出発の時点からこうしてずっと文句を言っているのは、四人衆の一人【
年の頃は20代前半くらいのやせ型の男。
恰好はよくいる平民のような服であり、どう見ても強そうに見えない。
主な武器は...分からない。何も持っていないからどうやって攻撃するのか、攻撃を防ぐかも不明。
どうやら固有の特殊なスキルを使って仲間を助けるバックアップがメインらしい。
「文句を言っていますが、実際に戦闘では一番役に立つの能力を持っていますので...」
「...そうか」
そして最後が...「まったく、最近の若いやつは駄目じゃの」と、儂と同じ話し方をする同い年くらいのお爺さんである、四人衆の一人【
腰を曲げて杖をついているのに、遅れることなく高速で移動しているやばい年寄り。
恰好はうっすい着物に、持っているのは杖だけ。
主な武器はその杖であり、万物を創造することができるらしい。
防御も攻撃もでき、歴戦の武士として有名らしい。
「...儂も年寄りじゃが、あぁいう爺さんにはなりたくないの」
「...それは内緒でお願いします」
「なんか言ったか?」と、地獄耳で盗み聞きしてくる。
いや...頼光が連れてきた人間じゃからある程度信頼したいが、個性が強いというかまとまりはなさそうなメンバーに思わず苦笑いが零れる。
そうして、どんどん地下に降りていく間に違和感に気づく。
「...モンスターが一体も居ないの」
「そうですね。通常ではありえませんね」
「ビンゴ...といったところかの」
そのまま、どんどん下に降りると一体の化物が待ち伏せるように立っていた。
「あぁ?聞いていたのは5人だったんが...。じじぃ、あんた何者だ?」と、儂を指さす。
目の前の化物は腕が7本生えている人型。
ダンジョンでは見たことがない。おそらく奴の手下か?
すると、次の瞬間、指していた指が吹っ飛ぶ。
「あぁ?」と、怪訝そうな顔をしながら、抜刀し高速移動した神楽耶を睨みつける。
「...隙ありすぎでしょ、多腕の化け物さん。それとも7本も腕があるから指の一本はなくなっても気にしない感じ?」と、挑発すると、高速再生を始める。
「...あぁ、治る感じね?そりゃ指に一本くらいどうでもいいわけだ」
手助けしようとしていると、「邪魔しないで。これは私の獲物。てか、私の実力疑ってるんでしょ?お爺ちゃん。なら、そこで見てなよ。この国最強の女の力を」と言い放つ。
「...指を一本切り落とした程度で調子に乗りすぎじゃねーか?俺の名前はジャルル・アンベルクだ」と、臨戦態勢に入る化物。
パッと見たところ魔力量は大したことはない。
推定S級といったところか。しかし、わざわざこんなところにS級を配置している意味も分からない。
やつであればもっといい手駒を持っているはず。
様子見...?それとも驕りか?
「なんかかっこいい名前してるな、お前。まぁ、私の相手じゃないがな」
そうして、高速移動しながら隙を窺う神楽耶。
まったく追えていないのか、隙だらけのジャルル。
真後ろに回り込み、短刀を突き刺そうとした瞬間のことだった。
「あぁ、だめだよ、それ...俺が多いのは腕だけじゃないんだよな」
すると、脇の下に目のようなものがあり、それは正確に神楽耶の姿を捉えていた。
「まずいぞ!バレとる!」
そんな言葉も届かず、7本ある腕の一本が神楽耶の腹に直撃した...はずだった。
しかし、よくみるとそれは彼女の分身であり、本体は悠々と奴の首を跳ね、儂の足元に転がってくる。
「なっ!?馬鹿な!?俺が目も複製できることを知っていたのか!?」
「知るわけないでしょ。けど、そういう可能性は最初から考慮していた。あんたら化け物はいっつもずる賢い...馬鹿だから」
「て、てめぇ...!」
「...まったく...せっかく目が3つあっても本体の私を見ていないんじゃ意味ないっての...。それと、おじぃちゃん、私のこと舐めすぎなんですけど」
確かにこれは舐めていたかもしれんな。
その瞬間、首だけの奴が高速再生し、ネズミほどのサイズになりその場から逃げようとする。
「っは!隙あり!」
「っな!待て!」と叫ぶ、彼女の肩を叩いて「見ておれ」と儂は声をかける。
儂はそのまま、無詠唱でレーザービームを放ち、奴の体を打ち抜いた。
「...無詠唱...しかも第一級魔法を...」と、驚愕する神楽耶。
「儂も腕を見せておかんとな」と、少し自慢するように言い放った。