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第21話 衝突と、退散

「...なんでここに?」と、極さんが4人に問いかける。


 すると、その質問に式波さんが答える。


「私が裏切り者であると疑うことは分かっていたからねwというか、そういう風になるように私が仕向けたの。その時点でこの3人にはあんたが怪しいって話をしていたからね」

「...怪しい?何が?」と、怪訝そうな顔でそう呟いた。


「そのまんまの意味。謎が多いっていうのはそれだけ何かを隠すこともできるってことだから。過去の言動や行動から、もしTOP5に裏切り者が居るとしたらあんただって確信していたwだから罠を張った。全員で共通の裏切り者という私の存在を作ることで、あんたが疑われているということから目を逸らさせることに成功したってわけw」と、自信満々に武勇伝かのように話す。


「...そんな戯言をあんたらは信じたのか?」と、3人に問いかける。


「まぁな。というか、正直俺たちはどっちも信用していなかった。確たる証拠自体はないからな。だが、式波のやつはこうなることも想定して、確たる証拠は後から見せられると言い切った。そして、現に今、その証拠を見せられているってわけだ」と、本庄さんがタバコに火をつけながら言った。


「そんな戯言なんて言うけど、式波さんを疑っているのも別に確たる証拠があってのことではないですよね。雰囲気、なんとなく...そんなところ。だからこそ、式波さんは私たちに証拠を見せることを約束してくれた。そこで大した証拠が出てこなければ、私たちはまた2人を疑うだけだったんだけだったんですけどね」と、墓崎さんが続ける。


「んで?どーするわけ?日本最強の冒険者さんは」と、蘭さんが締める。


「...勝ったつもりでいるが、ここで俺が全員倒せば、それで解決だろう?」と、全く怯むことなく戦闘モードに入る。


 俺はできるだけ壁の方に近づき、邪魔にならないように避難する。

といっても、この空間はさほど広くないので、とばっちりの斬撃がこちらに飛んでくる可能性はなある。


 そんなことになれば俺は瞬殺されるだろう。


 それを察してか、「大丈夫だよ、ダーリン。ダーリンは私が守るから」と、式波さんが頼もしい笑みを浮かべながらそう言った。


「...いやいや、流石にTOP5を4人まとめて相手にするのは無理があるだろ。てか、慢心だな」と、ボクシングのような構えをとる。

シャドーボクシングをするだけで、その拳からはとんでもない音と風を発生させる。


「サポートは任せてください」と、墓崎さんは魔法で将棋盤のようなものを出現させる。


「俺はいつも通りガードに徹するぜ。攻撃は式波、本庄さん、頼みますよ」と、背中に背負った大きな盾を出す。


「攻撃はまかしてちょ」と、式波さんは詠唱破棄して、前後左右にSランクのダンジョンモンスターを出現させる。


「...すごい」


 まるで映画の1シーンを見ているような感覚に陥る。

圧巻...まさかに日本最高レベルの戦いが見られるということだ。


 すると、全くそれに怯むことなく、黒い双剣を構える極さん。


 憧れていたその姿...。

今ではただ、怖い存在にしか見えなくなっていた。


「...ほんじゃ、いくぞ!」と、本庄さんが間合いを詰めながら突っ込む。


 そうして、黄金のグローブと黒の双剣がぶつかり火花が飛び散る。


 見えるのは飛び散る火花だけで、動きが早すぎて全く目で追えない。


「式波さん。私のいう通りに援護してください」と、墓崎さんが盤上の駒を進めながらそう言った。


「おっけー!どこに向かって攻撃すればいい?w」

「...3秒後に2時の方向で」

「あいあいさ!」

「それと蘭さん。防御の準備を」

「はーい」


 飛び散る火花の中、式波さんの召喚したモンスターがあらぬ方向に攻撃をする。


 一見、理解できない攻撃だったが、その攻撃に引き寄せられるように、2人がその射程圏内に入る。


「ぐっ!?」と、ギリギリのところで防御する極さん。


 刹那の一瞬見えた、あの表情。

あんな顔をしているのを俺は初めて見た気がした。


 そして、遠慮なくこちらに斬撃を飛ばしてくる極さんだが。


「読み通りです」

「全く、さすがだぜ」と、蘭さんが笑う。


 分かっていたように...いや、実際分かっていたのだろう。

そのまま、大きな盾でその攻撃を吸収する。


「では、6秒後に6時の方向へ。式波さんもお願いします」

「はーいw」「おうよ」


 そうして、2人同時に攻撃をし、式波さんの攻撃を間一髪で躱したものの、蘭さんの攻撃は躱すことが出来ずに体が吹っ飛ぶ。


「ぐっ!?」と言いながら壁に直撃し、岩や大きな石がボロボロと崩れ始める。


 ...憧れの人がそんな姿になるのを見ていたくなかった。

けど、そんなことを言っている状況ではないことも重々承知していた。


 そうして、土煙を一撃で払うと、真剣な目でこちらを見つめる。


「流石に降参した方がいいんじゃねーか?」

「同感です。私たちが手を組んであなたに勝てる通りはないでしょう」

「舐めすぎ...だな!」

「でも、まだ本気じゃないっしょ?w」


 すると、剣を地面に突き立てる極さん。


「...確かに、流石に1人で全員を相手にするのは無理があったようだ。舐めすぎ...その通りだ。じゃあ、悪いがここは一旦引かせてもらおう」

「おいおい、逃すと思ってんのか?」

「逃げられませんよ。あなたはもう詰んでいるんです」

「終わりだな」


 そうして、こちら側が攻撃を仕掛けようとした瞬間のことだった。


 彼の体に黒い霧が纏っていく。


 その時、全身に恐怖が満ちるような感覚に陥る。


 何があっても動けるようにしていたはずのTOP5の面々が、まるで金縛りにあったように固まってしまう。


『...来たな。やつだ』と、ようやくシエルさんが喋り始める。


 その言葉を聞いた瞬間、その正体を理解する。


「...苦労しているようだな、No.1」と、黒い霧から、低い...まるで地獄の底から聞こえてくるようなそんな地響きを伴った声が、全身の骨を響かせながら聞こえてくる。


「...そうですね。侮っていました。一度撤退します」と、唯一動ける極さんがそういった。


「...見つかったのか?あれは」

「はい。今、ここにあります」


 その瞬間、金縛りが解けた俺は1人走って、あのアイテムのところにダイブする。


「はぁっはっぁっ!!」


 色々なことがありすぎてめいいっぱいになっていた体を無理やり動かして、何とかアイテムを確保することに成功する。


「...あれが奴の媒体か?毛虫ほどの魔力しかないな。なんであんなやつに乗り移ったんだが」と、言った瞬間、シエルさんと俺が入れ替わる。


「...1000年振りじゃの。大王」と、シエルさんが言う。


「...そうだな。しかし、見る影もないな、シエル」

「それはお互い様じゃろ」


 そうして、睨み合っていると、「アイテムはいずれ奪い返しましょう。ここでは勝ち目はありません」と、極さんが呟く。


「...そうだな。むしろ、見つけてくれたことを感謝せねばな」


 そう言った瞬間、そのまま黒い霧と共に消える極さんであった。


 次の瞬間、全員動けるようになり、TOP5の面々が膝をついて呼吸を荒くする。


「んだよ、あれ...とんでもない力だ...」

「ど、同意見です...。勝てるどころか、戦う意思すら折られたような...」

「やばすぎだろうが...」

「恐ろしい...ですね...w」


 その4人に対して、シエルさんはお礼を言う。


「...助けてくれたこと...感謝する。そして、現状で何が起こっているかについて...儂から全て話そう」


 その言葉を発した瞬間、全員が真剣な顔になる。


「昔話を始めるかの」

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