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第20話 立ち向かう理由と、裏切り者

 少し休憩してからダンジョン内の散策を始める。


 本当にこのダンジョンの中にあるのだろうか...?


「...てか、なんで各ダンジョンに配置したんですか?Sランク以上のダンジョンに配置したほうが色々メリットありそうですけど...。中途半端なダンジョン冒険者に見つかるより良くないですか?」


 少し間をおいてシエルさんが呟く。


『確かにダンジョンの頻出具合や見つかった時の冒険者のレベルなど、そういう面で考えれば上位層のダンジョンに置いたほうが良いかもしれんの。じゃが、もしお主がそれをSランクのダンジョンで見つけて、それが他にも種類があると知った時、どこに配置していると考えるかの?』


 それを言われて気づく。

確かに、もしSランク以上...いや、全てをSSSランクに置いた場合などは当然他の種類も同じレベル、もしくはそれ以上のランクにあると考えるはず。


 まさか、FランクやEランクにあるなんて想像もしないだろう...。


『それにもしFランクの冒険者がこれを見つけたとして、それがどういったものかという答えにたどり着けるものはそう多くないじゃろう』


 そうか...。そういうメリットもあるのか。

Sランク以上であれば、その時点である程度のコミュニティが完成している可能性が高い。そうなれば、それを集めることは難しいことではないのかもしれない。


「確かに、それはいい案ではあるかもしれないですけど...。じゃあ、もしかして既に見つかっている可能性があるとか!?」


『その可能性は0ではないな。しかし、現時点で誰かの手に渡っている場合も収集はさほど難しくはない。もし、高ランクの冒険者の手にあれば、式波ちゃんが知らないわけがないからの。あるとすれば、FやEランクでの発見ということになるはずじゃが...恐らくみつかっていないじゃろう。仮に見つかっていたとしても、あまり問題にはならないのじゃ』

「なぜですか?」

『なぜじゃと思う?』


 少し考えた後、答えが出る。


「...そういったものがあるという話がどこを探しても出てこない...から。それに低ランクにはコミュニティが存在していないから、情報共有される可能性はかなり低い」

『その通りじゃ。つまり、誰かが既に...数十年前、あるいは数百年前に発見していたとしても、その話がどこにも出ていないのだから奴らも見つけることはほとんど不可能じゃろう』


 確かに、そんなものが発見されていればどこかで噂くらいにはなっているはず。

それもないと考えると...。

そもそも、Fランクのダンジョンなんて初心者用のダンジョンだから、そこに長居する人物なんて通常いない。

それに最初はみんなダンジョンのモンスターを倒すことに必死になっていて、ダンジョン探索なんてほとんど行わない。


 だけど、その例外が存在した。その例外が俺だった。

ネタ系配信者という特殊な状況により、Fランクダンジョンに何度も潜り、ダンジョンの中を縦横無尽に走り回る。


 俺がシエルさんと再会したのは決して偶然ではなかった。

恐らく、世界で最もシエルさんと出会う可能性が高いのが俺だったのだ。

最初に俺の職業を聞いたとき、驚いていたのはそういう意味もあったのか。


「...すごいですね。シエルさん...」

『まぁの?儂、結構すごいんじゃよ』


 そんな雑談をしていると、『ストップじゃ』と言われる。


 それは何の変哲もない壁だった。


「...ここなんですか?」

『おそらくの。まぁ、儂にしかわからない感覚と1000年前の記憶を頼りに言っているからの。大外れの可能性もあるが...その時は許してくれると助かるの』

「それは大丈夫ですけど...どうすればいいんですか?」

『すまんが、ちょっと変わっていいかの?』


 そういわれて、俺はシエルさんとチェンジする。


 先ほどの戦いでほとんど魔力を消費してしまったため、変わっていられる時間はそう長くない。


 シエルさんは目を閉じて、ゆっくりと壁をなぞりながら壁伝いに歩き始める。

右から左、少し下にずらして、左から右...。そうして何度かなぞっていくと、あるとこで足を止める。


「...ここじゃな」


 そうして、ゆっくりと程よい力で壁を押す。

すると、ゴゴゴという音ともに壁の一部が真四角に押し込まれていく。

...俺がシエルさんと出会った時と同じような作りをしていた。


 あの時と同じように次の瞬間、地面の下に落ちていくような感覚に陥る。


 何度味わったってあの感覚はなかなかに奇妙だが、さすがはシエルさん。

全く声を上げることなく下に落ちて...。


 次の瞬間、顔面からダイブするシエルさん。


『...え!?どうしたんですか!?』と声をかけるも返答がない。

よく見ると、完全に気絶していた。


 それから何度か声をかけると、ようやく目を覚ますシエルさん。


「...っは!気絶してしまっていたの...」

『...いや...何してるんですか?』

「いやぁ、入った人間がびっくりするように、儂が人生で味わってきた中で一番気持ち悪い瞬間を再現しているのじゃが...。やはり、これはきついの!」


 なぜかテンションが上がっているシエルさんを冷めた目で見つつ、質問する。


『それで?どこにあるんですか?』

「ここはちょっと広いからのぉ...。確か...」と、言いかけた瞬間、後ろのほうから強烈な存在感が現れる。


「...まさか、Eランクダンジョンに配置しているとは...流石はあの方を封印した方というべきですかね」


 体をガタガタと震わせながら振り返るとそこに立っていたのは極さんであった。


「...なんで...」

「なぜかと聞かれるとなかなか難しいですね。強いて言うなら冒険者としての勘というべきでしょうかね」


 そのまま少し距離を取るシエルさん。


 あの時、式波さんが言っていたランク上位の冒険者とは極さんのことだった。

正直、確たる証拠があったわけでもないので、信じていなかった。

いや、信じたくなかったんだ。

でも、こうして、現実として目の前にいる極さんを見ると、もうどんな証拠をたたきつけられるより、真実味を増す。


「...こんなところで距離を取ったところでこの地下の中では端から端まですべてが攻撃範囲です」

「なんでというのは...そういう意味じゃないんじゃ...そういう意味じゃないんじゃがな」と、正体を隠すことをやめてシエルさんとして話をする。


「なるほど。その話し方で話してもらえるとは光栄です」

「...なんで奴ら側についたんじゃ?」

「それを聞いてどうするつもりですか?時間を稼いだところでここには誰も来ませんよ」

「...いや、一つ聞きたいことがあっての。大王にこう言われたんじゃないかの?大切な人を...生き返らせてやると」


 その瞬間、無表情だった目に驚きが現れる。

なぜ、それを知っているのかということを言葉にしなくても、そう思っていることは俺でさえ分かった。


 大切な人ともう一度会いたい...か。


「...そう言われたとして、それを材料に交渉をしようとしているんですか?」

「いや、交渉なんてできんのぉ。儂が復活したところで死人をよみがえらせることはできないからの」

「じゃあ...黙って渡してくれますか?【亜解凍の魔晶】を」


 少し考えこむシエルさん。


 さて、どうしたもんかの。これを渡せば儂の復活はかなり遠のく。しかし、ここでごねれば奴と戦うことになる。ほぼ万全の奴と、魔力切れの儂ではまともに勝負にならない。ということで、悪いが変わってくれるかの。宗凪殿...と、とんでもないパスを渡される。


『ちょっと待ってくださいよ!俺に変わったところで何もできませんよ!?』


 そんな俺の発言を無視して、シエルさんは俺と交代する。


「...あの...極...さん」

「...どうやら戻ったようだね。悪いが、俺も時間がないんだ。そこをどいてくれるかな、少年」


 俺にこの人を止めるだけの力なんてない。

それに極さんにどんな事情があるのかも知らない。

それでも...それでも俺はやらないとダメなんだ。

ここで俺が逃げれば...俺の大切な人たち...が...全員いなくなってしまうのだから。


 俺はゆっくりと腰につけたナイフを取り出す。


「...正気か?少年。君に勝てる相手ではないことくらい分かるだろ」

「...それでもです。...もし、極さんが大切な人を亡くしているというのならわかるはずです。例え、敵わなくたって立ち向かわないといけない時があるってことくらい」


 すると、そんな言葉で覚悟が揺らぐこともなく、彼も剣を構える。


 震える片手に力を込める。


 やるんだ。敵わなくたって、ダメだって...わかっていたってそれでも...。


「...うわぁああああああ!」と、走りだそうとした瞬間のことだった。


 上から何かが...4人ほど降りてくるそんな気配がした。


「...ったく、休みの日にEランクダンジョンなんかに派遣しやがってよぉ...」と、火のついていないたばこをくわえている男...。

それは本庄力也...。日本ランキング5位の男。


「同意見です...。緊急出勤手当を5倍くらいいただきたいものです」と、つまらなさそうに呟く。

それは墓崎雫...。日本ランキング3位の女。


「あんたが裏切者だったとはな。流石に予想外だぜ」と、やや興奮気味に言い放つ。

それは蘭涼冥...。日本ランキング2位の男。


「はぁーいwお待たせ、ダーリン。ハニーが助けに来たよ?」と、式波さんが笑いながらそう言った。


 続けて彼女は言った。


「...さて、この状況でも戦う気はある?極義さん」と。

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