家に帰宅すると、同時にシエルさんが目を覚ます。
「おはようございます」
『...うむ...眠いのぉ』と、欠伸をしながらそう言った。
「...ちょっと話があるんですが」
『ん?』
起きたと同時に先ほどあったことを伝える。
『...ふむ。なるほど。しかし、トップランカーに協力者がいるならまずいかもじゃな』
「...一応、式波さんは協力してくれるみたいですけど、もしシエルさんのことを気づかれたら色々まずいかなと...」
『じゃのぉ...。本当は宗凪殿をゆっくり強くしていくつもりじゃったが...。少しハードに鍛えないといけないかの』
そんな言葉を聞いてちょっとだけ苦笑いをする。
正直、現状でもバイトと配信と特訓で限界だったのだが、さらに厳しくなると...。
「...わかりました。ちなみに...そのアイテム...【亜解凍の魔晶】って見つける方法とかないんですか?」
『うむ。そのダンジョンに儂が入れば、探知することはできると思う。逆に言えば、ダンジョンに入らない限り探知は不可能じゃな。魔族には探知含め、そのアイテムを認識することすらできないようになっているから大丈夫と思っていたが...。人間を味方にすると話は別じゃな』
そんなことを話をしながら朝食を作り、テレビを見ながらゴロゴロとしていると、だんだん眠くなり、意識が遠のいていく。
すると、とある夢を見始めるのであった。
◇
目を開けると、それは自分の部屋が広がっていた。
すると、次の瞬間、まるで地面が崩れ落ちるような感覚に陥いる。
視界は高速で回転していき、まるで時代を遡るように景色が古ぼけていく。
昭和、大正、明治...。
その時代を生きていた人たちの生活を眺めながら、そのままじっとすることしかできず、ただその光景を眺めていた。
それからどれほど時間が経過しただろう。
流れていた映像がようやく定まった。
下は畳、周りはすべて木で出来ているような建物...恐らく城の中と思われる光景が広がっていた。
そして、目の前には数名の男たち。
恰好はまるで教科書の中で見ていた聖徳太子そのものといったような感じの取り巻きと、恐らく殿様と思われるような恰好をした人が一人。
殿様的な人は髭を携え、年齢は恐らく30代といった感じだろうか。
後ろの掛け軸の前には弓が置かれていた。
すると、その中の取り巻きの男がつぶやく。
「殿、奴の動きが活発になれり。何か手を打たずは...」
『殿、奴の動きが活発になっています。何か手を打たなければ...』と、言葉と同時に翻訳するように脳内で変換される。
「...わかっている...。だが、あんな化物に対して一体どんな策を打てばいいのか...」
「酒呑童子を倒したあなたならば、やつも...あの大王も倒すことができるはずです!」
酒呑童子...?
名前は確か聞いたことがある。
超絶美少年だったものの、死後気持ちをないがしろにされた女性たちの念で鬼として復活したとか...そんな話だった気がする。
それに...大王ってまさか...?ということは、これは1000年前の記憶なのか?
「奴という存在を認識して分かったことは、あれは酒呑童子より遥かに強力だということだ。私が出たところでむざむざ殺されるだけだ」
「何を弱気なことを!じゃあ、ほかに誰が居るというんですか!あなた以外に!」
「...」
傍らに置かれた高そうな刀を振るえた手で強く握る。
「私だって怖いものはある...」
その瞬間、周りにいた人たちは眉間にしわを寄せる。
「...今の言葉は聞かなかったことにします」
すると、数名の男たちはその部屋を後にする。
一人になったその殿様的な人は静かに呟く。
「...私は臆病者なんだ」
他社から見たの自分、そして現実の自分。
その乖離に思い悩む姿に思わず同情する。
すると、また場面が転換し、夜に変わっていた。
場所はおそらく先ほどと同じ城と思われるが、先ほどの殿様が一人城の屋上のような場所で一人佇んでいた。
何をするわけでもなく、現代ではお目にかかることのできない、辺りが真っ暗だからこそ見えるきれいな夜空を見ていた。
「今夜は空がきれいですね」
振り返ると、きれいな着物を着た女性が立っていた。
現代でも通用するのではないかと思うほど、整った容姿に気品漂う
「...そうだな」と、殿様は呟く。
「怖いですか?」と、すべてを見透かしたようにその人は言った。
すると、驚いたような顔をした後、殿様はすぐに笑い、「...隠し事はできないな」と言う。
そんな言葉を交わさずとも意思疎通ができる関係が、微笑ましく純粋に羨ましかった。
「...大丈夫です。私が傍にいます」
「...うん。分かっている」
「それでも怖いのなら、その時は逃げましょう」と、さらっととんでもないことをいう女性。
「...」と、またしても面を食らう殿様。
「...あぁ。その時は頼むよ」
これはただの夢なのか...?それとも過去に起きたことを見ているのか...。
少し疑問を抱きながら俺も二人と並んで空を見る。
すると、突然真上から顔を覗かせるように男が現れる。
「こんばんわ~」
全員が思わずぎょっとして固まる。
しかし、恐らくこの場で俺だけがその人物を見て別の意味で驚く。
なんで...ここに?シエルさん...?
その瞬間、またしても視界がグラグラと揺れてそのまま現代に戻っていく。
◇
「はっ!?」と、勢いよく体を起こす。
時間はあれから大体1時間ほど経過していた。
『おっ、起きたかの』
「あの...!今...シエルさんの夢を見たんですが...」
『恋する乙女みたいなこというのぉ』と、ちょっと茶化すシエルさん。
それを無視して俺は今見た光景を必死に説明する。
「あの...!殿様みたいな人と、その奥さんみたいな人がいて...。そしたら、天井からにゅってシエルさんが顔を出して...!」というと、無言になるシエルさん。
「あの...」
『そうじゃな。夢はただの夢じゃ。あんまり深く考えるものではないぞ』と、何かを知っているかのようにそういった。
それ以上追及するなと言われてたようで、疑問を抱えたまま、体を起こす。
あれは...本当に夢だったのだろうか?それとも...記憶?
『そんなことより、起きたのなら行こうかの』
「行く?」
『決まっているじゃろう?もちろん、ダンジョンじゃ』
...深夜バイトでくたくたで、1時間の壮絶な夢のあとにダンジョン...。
いやだと抗いたかったが、これは俺だけの問題ではない。
日本の...地球の運命をかけた戦いなのだと悟る。
あの人は...結局、戦ったのだろうか?恐怖の大王と。
しかし、シエルさんの話を聞く限り、その人の話は出てこなかった。
ということは、もしかしたら...。
『何か悩みごとかの?それとも...怖気ずいたかの?』
「いや...大丈夫です。行きましょう」と、前を向いた。