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第10話 ランク違いと、天才召喚士

『本当にダンジョンが好きなんじゃのぉ』と、シエルさんが呟く。


 宮野さんに乗せられて、Fランクダンジョンに入ることにした。


 特に企画も考えてなかったのと、撮影の準備もしていなかったので、とりあえずスマホを片手に配信を始める。


 最近は企画をメインにダンジョンに潜ることが多かったので、こういう気楽にダンジョンに潜る日があってもいいかと思いながら、適当にダンジョン攻略をしていた。


 配信のタイトルも【Fランクダンジョン攻略】という適当なタイトルであることと、平日の昼間であることもあり、視聴者は150人程度しかいなかった。


「おっ、珍しい!赤色のスライムだ!」


 通常、青色のなのだが、1000体に1体程度の確率で赤色のスライムが生まれる。

地上でいうところのアルビノ的な存在である。


 まぁ、見ると願いが叶うとか、好きな人と結ばれるとか、そんな噂が色々とネットでは転がっており、そこそこ値段で転売されることもしばしばあるが、実際は色の違い以外は一切、差は存在しない。


 つまらない配信の予定だったが、棚からぼたもち、配信者にとっては願ってもない偶然が舞い降りる。


『おぉ、赤のスライム。珍しいの』

『ですね!俺生で初めて見ました!昔から居たんですか?』

『うむ。儂も人生で3回程度見たことがあったのじゃが...。今はそんな噂が流れているとはのぉ』


 しかし、通常であれば群れで行動するはずなのに、そのスライムは1匹、ポツンと岩陰に隠れるように潜んでいた。


 俺の姿を認識すると、のっそりのっそりと、一生懸命逃げようとする。


 その先には青い通常の色のスライムのグループがいた。

数は...10匹程度である。


 恐らく、俺という危険人物について情報共有しようと、周りをぴょんぴょんと飛び跳ねるのだが、全く相手にされていない。


 どころか、まるで邪魔だと言わんばかりに、押しのけられて、ひっくり返ってしまう赤いスライム。


 こんなダンジョン深くでさえ、こんな弱肉強食、色物拒絶の世界が広がっているとは...。

そんな野生の残酷さに思わず言葉を失う。


 コメント欄でも『おっ、俺買いますよ!赤いスライムのゼリー食べてみたかったんだよなー』とか、『ハブられてて草』とか、辛辣なコメントが寄せられていた。


 なんだか、その姿に同情...いや、むしろ共感してしまったため、そのスライムに近づいてみることにした。


 こちらの存在に気づいたスライムグループは赤いスライムなど気にしないと言わんばかりに、ひっくり返った彼を置いてそそくさと逃げるのだった。


 そのままゆっくり彼に近づき、元の位置に戻してあげる。


 すると、俺の手の中で小刻みに震える赤いスライム。


 彼の目線からすれば俺なんてただの侵略者に過ぎない。

きっと、何度も凄惨な場面を見てきたであろう。


 なんとなく、可愛く感じてしまい、愛でるように少し水気のある体を撫でる。


 そんなふんわかとした空間が流れていると、急に後ろで気配が現れて恐る恐る振り返る。


「グルルルル...」


 そこに居たのは...6匹のハイエートだった。


 デジャヴ...。

あの時の光景が蘇る。


 目は真っ赤で...前回より明らかに殺気だっていた。

その瞬間、手の中にいたスライムを遠くに投げる。

これが一番いい方法だとは思った。


「し、シエルさん!」と、思わず大きな声で叫ぶと俺とシエルさんが入れ替わる。


「...ふう...。さて、やろうかのぉ。前回よりかは生きが良さそうで安心したわい」


 そうして、ポケットから小型ナイフを取り出す。


「この体にも段々慣れてきたからの。今回は魔法なしでやってやろうかの」


 臨戦態勢を取りながらジリジリと迫る。


『す、すみません!シエルさん...。急に変わってもらって』

『それは構わんが...。いや、その話は後でするかの』


 そうして、涎を垂らしながら6匹同時に襲い掛かってくる。


 それをまるでダンスを踊るように紙一重で軽やかに躱し、あざ笑うかのようにいなす。

 前回より明らかに余裕を感じるその動きに俺も視聴者の一人として魅入る。


 ナイフを右に左に動かすことで、ハイエートの視線を武器に集中させてから、足でおなかを思い切り蹴る。


「キャン!!」と、甲高いハイエートの鳴き声が響く。


 これは...ミスディレクション。

マジシャンが使う人の目をそらす技術。


 しかし、明らかにクリーンヒットしたはずなのに、まるで効いていないかのように、体勢を立て直すと再度こちらを睨みつける。


「...ふむ。やはりそういうことかの」


 すると、足でリズミカルなステップを踏み、そのまま一瞬で間合いに入る...。

今度は縮地法だ。

相手との距離を一気に縮める歩法の一種。


 前回以上に余裕綽綽にまるで俺に教えてくれているように、いろんな技術を見せてくれる。


 これはすべて体術と技術。

つまり、誰もが努力をすれば手に入る技術。

習得の期間に関しては才能の有無はあれど、言い訳の利かない技術の結晶だ。


 そうして、間合いを詰めるとそのまま、一匹の首にナイフを突き刺す。


 血を吹き出しながら倒れる1匹のハイエート。


 すると、残りの5匹のハイエートがまるで弾けたように黒い霧とともに消える。


『...え?何ですか今の...?』


 そんな俺の質問を無視して、シエルさんはゆっくりと赤いスライムのほうに近づく。


 また岩陰に隠れて怯えている彼を持ち上げると、小さくつぶやく。


「そういうことじゃな」


 ゆっくりと彼を地面に置くと、俺に質問をする。


『この配信というのはどうやって止めるのじゃ?』

『あっ...』


 すると、コメント欄は今までの俺では想像できないほどの動きと、Fランクダンジョンにハイエートが出てきたこと、しゃべり方が一気にお爺さん口調になったことなど、あまりの突っ込みどころ多さにごった返していた。


 まずい...。シエルさんに変わったタイミングで配信を切るべきだった。

けど、このタイミングでなんで配信を...?


『えっと...変わりましょうか?』

『いや、変わらないほうがいいの』

『え?あぁ...えっと...その画面に映ってる赤いボタンを押せば配信は止まります』


 そのまま、言われた通り配信停止ボタンを押して配信を止めると、さきほどハイエートが居た方向に向かって言葉を投げる。


「...いつまで隠れているつもりじゃ?」


 一体、何を言ってるのかと思っていると、先ほどハイエートが消えるときに出てきた黒い霧が現れ、そこから一人の少女が現れる。


『...式波...セシル』


 彼女の名前は式波セシル。

国内ランキング4位/世界ランキング14位【SSSランク】

別名【顕現の女帝】

日本ランキング最上位5名の中で最も問題児と呼ばれている女の子。自由気ままで破天荒であり、世界的にも有名な召喚魔術師である。最高でSSレアのモンスターすら召喚し、自由にコントロールすることもできる。


 見た目は地雷女子のような濃すぎるメイクに、服装も髑髏やなんらやらがちりばめられており、マッチ棒のように華奢な体をしており、そのインパクトは日本で一番であろう。


 世界あちこちを飛び回り、自由にダンジョンを攻略しており、海外ではジャパニーズメシアとも呼ばれている。


 確か...年齢は俺と同じだったか?確か18、19歳くらいだったはず...。

というか、なんでこんなところにいるんだ?


 世界を飛び回る彼女が、日本のFランクダンジョンに居るなんて...。


「あっはwやっぱそうだよねーwうんうんw」と、俺...いや...シエルさんを見ているかのように楽しそうに笑いながら呟く。


「...さっきのハイエートは...おぬしの仕業じゃな」

「せいかーいw」と、両手の人差し指を立てながら舌を出しながら、ゆっくりとこちらに歩いてくる。


『...まずいの』と、初めて弱気なシエルさん。

『まずい?』

『...多分、儂というか、宗凪殿の体ではこの娘には勝てない』

『え?勝てるって...?てか、この子の仕業ってどういう...』


 そんな話をしている間にどんどんとこちらに近づいてきて、目の前まで来てしまう。


「あっはwでも...そっかぁ...wやっぱ気づくのか...wすっごいなぁ」と、今度は体の周りをグルグルとし始める。


「...おぬし...何者じゃ?」

「はは、私を知らないなんて笑っちゃう。改めて挨拶しておこうかな。私は式波セシル。よろしくね...お爺ちゃん」と、彼女は不敵に笑う。


 お爺ちゃん...。

俺の見た目はどう見ても若者だ。

てことは...やっぱりシエルさんのことを気付いている?


「あっはwんじゃ、手土産にその赤スラは置いていくから。煮るなり焼くなり好きにしていいよ?そんじゃ、また会おうね」と、手をひらひらさせながら背を向けながら彼女は黒い霧とともに去っていった。


『シエルさん?』


 そのまま、赤いスライムの元に歩き、そのままその子を肩に乗せる。


「宗凪殿。このスライム...。しばらく面倒を見てもよいかの?」

『...それは構いませんけど』

「それはよかった」というと、主導権が俺に戻る。


 一体...何が起きたんだ?何であの人は...。

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