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第8話 料理回と、将棋

 ◇


 モンスターを狩り終えた俺と斗和はボロボロになりながら一緒に家に帰る。


 疲労から足を引き摺りながら歩いていると、斗和に「大丈夫?」と、顔を覗かれながら心配される。


「...うん。大丈夫」と言いながらも、少し肩を借りながら家に帰宅する。


 家に着くとひとまず、狩ったモンスターをカバンから取り出す。


 本日のモンスターは...【リリック・ゾンビ】、【ビッグ・ハムスター】、【エレクトリック・スネーク】、【レッド・スパイダー】だ。


 前回より見た目はかなりきつい...。

というか、カバンを開けた瞬間、むわっという悪臭が漂い思わず顔を歪ませてしまう。


 しかし、ゾンビを除けば、まぁ動物や昆虫なわけだし...食べられないこともないのか...?


 モンスターの一部を切り取って集めて、台所に置くと斗和が苦笑いを浮かべている。


「...本当にこれ食べるの?」と、ドン引きしながら呟く。

「...それが配信者というものだ」と、少しかっこつけてみる。


 そんな俺をやや冷めた目で見つめる。


『こんなの人が食べるものじゃないじゃろ。お腹壊すどころではすまんかもしれんぞ』と、シエルさんに忠告される。

『いえ、それが俺がするべきことなので』


「それじゃあ...俺が料理するから、その動画を撮っておいてくれ...」と、頭を下げて頼む。


「...うん」と、渋々承諾してくれる。


 一つ咳払いをしてから、動画のテンションを作る。


「ライコウによるダンジョン飯Tier発表~Part2!パチパチパチ~!それでは、本日の具材を発表します!取れたてほやほや、こちらのモンスター達でーす!早速料理していきまーす!」と、陽気なテンションでそう言った。


『本気で食べるのか...?』

『安心してください!俺の体を貸すのでシエルさんも食べられますよ!』

『...いや、なんで辛い思いをしに代わらないといけないんじゃ?死んでもごめんなのじゃが。まぁ、儂は死んどるんじゃがな!』


 そんないつもの配信及び動画のテンションで撮影を始める。


 まず、取りかかったのは【ビッグ・ハムスター】から。

ビック・ハムスターは超肉食動物であり、ダンジョンの内のゴブリンや他の動物系モンスターを主食とし、時々共食いをすることでも有名である。


 その体長は3mとビッグという名にふさわしい大きさである。

しかし、体が大きい分、動きが緩慢であり、食べるのも動くのも、何をするのもかなり時間がかかるのだ。


 今回、切り取ったのはお腹のお肉であり、正直匂いはわざわざ嗅ぐ必要もないくらい、すでに匂っていた。

勿論、決していい匂いではない。

しいて言うならば...生乾き5日目の雑巾のようなにおいだ。


 肉の臭みの原因は脂肪の酸化やエサによるところが大きい。

脂肪の酸化もしているうえに、エサもほとんどが肉であるため、こういった悪臭を放つのである。


「では、まずは下水道とゲロを合わせたような絶望的な臭みをとっていきまーす!」


 ということで、まずはにおいを消すところからスタートである。


 塩を塗すことで肉から水分が出てくる。

この水分は臭みが含まれており、更に塩を掛けることで臭みはかなりとれる。

 しかし、これでもにおいが取れない場合には酒を使って、更に匂いを飛ばす。


 その下処理が終わってから、いよいよ調理にかかる。


「それでは、臭みが取れたところでいよいよ本格的に調理をします!」


 均等にお肉を切ってから、片栗粉をまぶし、2~3分焼く。

そうして、ある程度焼いた後にたれを混ぜ合わせる...。


 すると、意外と悪くない、香ばしいにおいが漂ってくる。


 そうして、完成したのが...【ビッグ・ハムスターの照り焼き】である。


 早速、お皿に乗せてテーブルに置いておく。


 さて...次か。


 こうして、【リリック・ゾンビのたこ焼き】、【ビッグ・ハムスターの照り焼き】、【エレクトリック・スネークのスープ】、【レッド・スパイダーの塩ゆで】...の4品がそろった。


 そうして、サムネの用の写真を撮り、早速試食に入る。


「...本当に食べるの?大丈夫?死んじゃったりしない?」と、料理たちを眺める斗和。


「毒があるわけじゃないし、大丈夫っしょ!」


 ふむ...。どれもにおいは悪くない...。

まぁ、臭みは時間をかけてなるべくとったわけだから...あったら困るのだが...。


「では、まずはリリック・ゾンビのたこ焼きから行きます...!」


「...うわぁ」『うわぁ...』と、斗和とシエルさんの反応が見事に重なる。


「...匂いは...普通のたこ焼きの匂いですね。では...いただきます...」


 そうして、口の中に突っ込む。


 味的には鰹節とソースのおかげもあり、そこまで悪くはない...。


 しかし、食感はこれがゾンビだと考えると最悪であり、ねちょねちょというか...ぐちょぐちょという...何とも言えない生々しさが奥に感じられる...。


「...味は悪くないんですが...!食感はゴミくずレベルに悪いです!強いて言うなら、焼いていないそのままのタコをぶち込んだような生々しい食感が口に残る感じです!絶対明日おなかを壊すと思います!」と、笑顔でレビューをする。


 そうして、次にビッグ・ハムスターの照り焼きに手を付ける。


「...見た目はもう普通の鶏肉の照り焼きっぽいですね。やや筋肉質なおかげでそこまで見た目の違和感は...ない。匂いも...これもまぁ照り焼きのソースの匂いなんですが...。うん...。結構匂いは取ったつもりなんですけど...近くで嗅ぐとちょっとだけ匂いますね。獣感...のような」


 そのまま、勢いよく食べる。


「...おげえぇぇぇぇっぇぇぇえ!!!!」


 不味かった。すごく不味かった。今まで食べた中で一番まずかった。


「んじゃこりゃああ!!!...おげぇえ...しょ、食感は...普通にいいんですが...なんか...ものすごい...中からあふれる肉汁が...不味い。下水道の水があふれ出て、匂いどころからその水を飲んじゃったような...き、気持ち悪い!!!あんだけ臭みをとったはずなのに!!一番マシな料理に見えたのに!!みなさん!絶対、マネしないでください!」


 すると、カメラマンをしている斗和が少しだけくすっと笑う。


『...お主のいうネタ配信という意味がようやく理解できたわい。そうか...これはただの冒険者よりはるかに険しい道になるじゃろう』

『...はい』


 次の料理...である、エレクトリック・スネークのスープが入った器を手に持ったのだが...。


 先ほどのことがトラウマになってか、手が震え始める。


 正直、もう...食欲などなかった。

特にスープに関しては味を加えることが難しいので、基本的にはその素となったものの味がダイレクトに入ってくるわけで...。


「...匂いは...少し海鮮系に近いような...、すっぱいというかすっかい感じの匂いがしますね。じゃあ...一口いただきます...」と、ズズッと慎重にスープを口に含む。


 片目が引き攣る。

まずい。普通にまずい。


「...不味い。シンプルにまずいです...。というか、味が限りなく薄くて...それもなんか奥のほうにちょっとだけ苦みと酸味がある感じで...。なんだろう...。弱めの漢方みたいな薬系の味がします」と、実況する。


 弱めの漢方で伝わるだろうか?

それ以外の表現が思いつかなかったのだが...強いて言うならすごく薄めた粉の風邪薬てきな?


「...ちょっと私にも飲ませて」と、まさかの参戦をしてくる斗和。


「...まずいけどいいの?」

「...うん」と、なぜか嬉しそうな顔をしている。


 そのまま器を渡そうとするが、「私カメラ持ってるから手が空いてないんだけど。あーん...してよ?」と、上目遣いで頼んでくる。


『ひゅ〜!!』と、やすっぽい煽りを入れてくるシエルさん。


「...しゃーないな」と、カメラくらいおけばいいだろと思ったが、そういうことを言うと怒られそうな気がしたので、そのままスプーンを口に持っていく。


「...間接キッス」と、嬉しそうに呟きながらスープを飲むが...「...マズイ」と一瞬で表情が崩れた。


 そして、最後に残ったのは...、レッド・スパイダーの塩ゆでである。

これは見た目のインパクトがすべてである。


 もちろん、あの巨体を塩ゆでにしたわけではなく、足の一部を切って持ってきており、素揚げしただけなので見た目はもう...蜘蛛の足そのものだ。


 そして、塩ゆでということはもう...ほとんど味付けなど行っていないも同然であった。


 匂いは無臭...か。


「匂いは...ないです。いただきます...」


 味は...。


「...うまい!!うまいんだが!めちゃくちゃ!え!?なにこれ!?なんだろう...例えるとしたら...おつまみ系の...豆系に近い味がします。ナッツとか...そういうのですけど、ちょっと甘みがある分、ナッツより普通にうまいです...!これ、超おすすめかもです!完全にTier1です!」と、大興奮でカメラに足を近づけると、斗和がいやそうな顔をしながら離れる。


『本当に美味しいのか?』

『はい!変わりますか!?』

『...じゃあ、ちょっとだけ』と、好奇心に負けてか、少しだけ入れ替わりシエルさんも恐る恐る一口食べる。


「...確かにこれはうまいのぉ」

「うまいのぉ?」と、眉間に皺を寄せながら突っ込む斗和。


 すぐに俺に戻り、「なんでもないなんでもない!」と適当に誤魔化す。


 こうして、Tierランキングは以下のように決定した。


【美味しいダンジョンモンスターランキング】

Tier1:レッド・スパイダー

Tier2:スライム

Tier3:ゴブリン/リリック・ゾンビ

Tier4:エレクトリック・スネーク

Tier5:ラット/ビッグ・ハムスター


「はい、ということで本日の動画はここまで!次回もまたお楽しみに~!」というと、カメラを止める斗和。


「はい、終了。全く...変な企画はなるべくやらないようにね?」と、呆れたお母さんのような小言をつぶやく。

「...おう。でもあんがと、斗和」と、笑いながらそう言った。


「うん。それじゃあ、今日はもう帰るわね」

「うん。送っていくよ」

「いい。一人で帰れるから」と、手をヒラヒラしながら荷物をまとめて早々に帰るのであった。


 一人きりになったタイミングで、料理の後片付けを始める。


『いや...しかし、ちょっと引いたぞ。奏凪殿。まさか、あんなことまでしてるなんて...』

「まぁ、ああいう動画のほうがみられるんですよ」

『とはいえ...ダンジョンのモンスターを食べるなんて...儂の時代には考えもしなかったがの』


 そうして、片付けが終わり、テレビをつけると将棋のタイトル戦が流れる。


 ソファに腰をかけらながら何となく眺める。


『これは将棋か?』と、興味津々に質問してくる。


「そうですよ。1000年前に将棋ってあったんですか?」

『うむ。ちょうど平安時代から始まったものじゃからのう...。ちなみに儂はとある日本人から教わったのじゃが...儂は相当強かったぞ?しかし、見慣れぬ駒もあるし...、まるで別物のようにも見えるの。現代の将棋のルールはどういうものなのじゃ?』


 そういわれたので、ネットで駒の動きやルール、禁止事項などが載ったページを開く。


『...以前とは比べ物にならないくらい複雑じゃの...』

「まぁ...そうですね。プロになるのも超大変ですしね」

『ふむ...よし、ちょっと勉強してみるか』


 そのまま、基本ルールや戦法について軽く見たところで、眠くなってきたのでベッドに入ったのだが...。


『1四歩...2七銀...4五歩...』


 寝れない...。


 こうして、一晩中脳内で将棋のことを呟くシエルさんなのであった。

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